Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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再会

 

「ついたー!!」

「おう、おつかれさん。ようこそ『始まりの街ヴィンダム』へ」

 

 ここまでの長旅を乗り越え、感激に打ち震えて叫ぶクリムに、リュウノスケが子を見るような生暖かい視線を送りながら歓迎する。

 

 

 

 始まりの街ヴィンダム――帝国の時代から残る数少ない都市である、巨大な港湾区を備えた城塞都市。この大陸の玄関口として、戦乱の時代にあっても絶対の中立を条件に存続を許された街。

 

 街の雰囲気としては、外壁に囲まれた「ザ・中世ファンタジー」という感じ。

 

 町の中央には運河が流れ、中心の広場にあるテレポーター・プラザを基点として北街区と南街区に分かれている。

 

 マップを開き全体図を見た感じでは、北街区には銀行や商店などの街の主要機能が、南街区には宿屋などの宿泊施設や、超広い公園など景観が良いエリアになっているらしい。

 

 また、南街区の南端から細い道が通っていて、そこを抜けると港湾区となっているのも分かった。

 

 全てのプレイヤーの起点になる街だけあって……凄まじく広い。

 おそらくは、街を全て散策するだけで一日や二日は余裕で潰れるのではなかろうか……という規模なのだった。

 

 

 

「そんで、どこで待ち合わせなんだ?」

「えっと、少し待ってね」

 

 N(ニューラル)L(リンケージ)D(デバイス)のメッセージアプリを起動して、眼前に展開されたディスプレイでいつものグループチャットにコメントを残す。

 

『お待たせ。ヴィンダムに着いたよ』

『おー、お疲れ様!』

『僕らは中央広場の端っこにあるベンチに座ってるから、見つけたら声掛けてくれ』

『あのね、金髪の、普通より耳が長いエルフだよ。私たち二人とも、なんでもレア種族? らしいハイエルフなんだってー!』

 

 すぐさま返ってきた返信。

 その(特に姉である聖のほうが)はしゃいだ様子にふっと頬を緩めながら、場所を確認する。

 

「えっと、中央広場だって」

「んじゃ、テレポーター・プラザのとこだな。こっちだ」

 

 そう先導してくれるリュウノスケに従って、クリムは初めて、人でごった返しているヴィンダムの街へと踏み込むのだった。

 

 

 

 ゲーム内ではまだ昼間だが……外は今現在が日曜日の夜と、まさに混み合う時間帯。

 

 広場中央に聳え立つは、今まで見たどこの物よりも巨大なテレポーター・プラザ。

 そのプラザの周囲には噴水や花畑が綺麗に配置されており、心和ます景観を作り上げていた。

 

 また、噴水や花壇よりも外側には多数のプレイヤーが風呂敷を広げて露店を出せるくらいに広く、掘り出し物を求めてショッピングしているプレイヤーたちでごった返している。

 

 そんな広場を見回して、目的であるエルフの双子を探す。

 

 ――居た。

 

 テレポーター・プラザ広場の片隅に、二人並んで腰掛けている明るい金髪の双子のエルフ。

 

 細身なエルフには珍しく特定部位が大きめな、ほわほわとした笑みを無闇やたらに周囲へ放射している女の子のほうがおそらくは(ひじり)

 ログイン初日で一体どこで調達したのか薄いフレームの眼鏡を掛けた、怜悧な美貌の男性のほうがおそらくは(すばる)だろう。

 

 二人とも、肩甲骨あたりで切り揃えた髪を耳の後ろで片側だけ三つ編みに結った、左右対象となっている同じ髪型に揃えていた。

 

 そんな二人が、こちらに気付かずに誰かを探している様子を見て……声を上げかけたクリムの喉が萎縮する。

 

 言うまでもなく……クリムは容姿どころか、性別まで現実とは変わってしまっているのだ。

 そんな自分が「自分が紅です、実は性別が女の子になってしまいました」などと言って、果たして信用してもらえるのか……という不安が、事この段階になって、今更ながらむくむくともたげてきてしまう。

 

 そんな弱気に駆られそうになった瞬間だった。

 

「そら、何やってんだ早よ行け」

「わっ……とと」

 

 後ろからリュウノスケに突き飛ばされ、数歩たたらを踏んで彼らの目の前に出てしまう。

 

 向こうも転倒しかけたこちらに気づいたようで……もはや後戻りはできない。

 

 

 ――むしろ、それで良かったのか。

 

 

 胸の内でリュウノスケに感謝しながら、おずおずと双子のプレイヤーの前へと歩み出す。

 

 

「えっと……その。久しぶり。こんな格好だけど、俺……」

 

 二人の表情が、驚愕に染まる。そして――

 

「紅君……可愛いっ!!」

「ぐぇっ!?」

 

 紅に反応を赦さぬほどの神速で飛びついてきた双子のエルフのうち女性のほう……聖が、そう感極まった様子で抱きついてきた。

 なす術なく抱きつかれ、その胸のご立派な二つの物に埋もれたクリムが、カエルが潰れたような、美少女が決して出してはならないような呻き声を上げる。

 

「やだー紅君ちっちゃくて可愛い! きゃー!?」

「ぐぇえ……昴、た、助けて……!」

「無理、お前が入院して面会謝絶になってからずっと我慢していたみたいだから、大人しく紅分を補充させてやってくれ」

「何それぇ!?」

 

 無情にもさっくりクリムのことを切り捨てた、意地の悪い笑みを浮かべている腹黒眼鏡()に、思わず大声で抗議するクリムなのだった。

 

 

 

 

 そんなドタバタとした再会により、いよいよクリムが窒息によりスリップダメージを受け始めた頃……ようやく冷静になった聖から解放され、同じテーブルに着く。

 

「改めて……フレイだ、よろしく」

「フレイヤよー、よろしくね、紅くん!」

 

 昴改めフレイは眼鏡の位置を合わせながらクールに、聖改めフレイヤは、ホワホワと緩い笑みを浮かべながら、この世界で初めての挨拶をする。

 

「えっと……紅、じゃない、クリムです……」

「クリムちゃん、緊張してるー?」

「そりゃ、まあ……」

 

 物心ついた時からの付き合いである幼なじみの前に、女性アバターで姿を現したのだ。いったいなんと思われているのか気が気でないのも当然だろう。

 

「で、一体全体、何がどうなってそんな愉か……こほん。面白そうなことになっているんだ?」

「フレイお前、言い直したんならちゃんと誤魔化せよ、何諦めてんだよ!」

「あっはっは、マジウケる」

「開き直れとは言ってねぇぞ!?」

「しかしまぁ、ずいぶんと可愛い姿になったな」

「ほっとけ!?」

 

 くくっと含み笑いするフレイに、牙を剥いて食って掛かるクリム。

 だが、ここまで盛大に笑い飛ばされれば、却って気にもならない。

 フレイが、長い付き合い故にそのことを理解してくれているのは重々承知なため腹も立たないが、それはそれとして噛みつくクリムだった。

 

「そうだよ、姿は変わっても紅くんは紅くんだよ」

 

 そう、聖母のような年に見合わぬ包容力を湛えた笑みを浮かべ、クリムに優しく語りかけるフレイヤ。

 

「……ありがとう、フレイヤ」

 

 なんの気負いもなくそう断言し、紅のことを全肯定してくれる幼なじみの少女に、クリムは目頭が熱くなる気がしたのだった。

 

 ただし……

 

「これで、抱きついて頭を撫でる手を止めてくれてたら感動できたんだけどね……」

「えー、だってすごく触り心地いいんだもん」

 

 そう、頬擦りさえしそうな勢いでべったりクリムにくっついて頭を撫でているフレイヤが、一切の邪心を感じさせずに(のたま)う。

 子供のように無邪気な笑みを浮かべそう語る彼女に、クリムはとりあえずジト目で睨みつけるのだった。

 

「はぁ……なんにせよ、二人が相変わらずで安心したよ」

 

 そう、心から安堵した緩い笑みを浮かべるクリムに、フレイヤもフレイも釣られて笑い合うのだった。

 

 

 

 

 ……と、和気藹々としていると。

 

「どうやら、無事合流できたみたいで何よりだ」

「あ……リュウノスケも、ここまで本当にありがとう。私一人じゃ絶対に途方に暮れてたよ」

「どういたしまして。俺もお前との旅は結構楽しかったよ」

 

 どうやら、リュウノスケとはここでお別れらしい。クリムは寂しい気持ちを堪え、笑って礼を告げる。

 

「クリム、この人は?」

「ゲーム内で知り合ったリュウノスケさん。ここまで連れてきてくれたんだ」

「それはー、わざわざありがとうございました」

 

 フレイの質問にクリムが答えると、それを聞いたフレイヤが深々とお辞儀する。

 

「いいってことよ、お嬢さん。んじゃ、俺はお役御免だな。それじゃ、またな」

「うん……あ、フレンド申請してもいい?」

「おう、もちろんだ」

 

 そう言ってクリムの頭をグリグリと撫でながら、フレンド申請を受諾するリュウノスケ。

 登録を終え次第立ち去ってしまったその背中は、すぐに雑踏に消えて見えなくなってしまう。

 

 

 

「んー……リュウノスケ?」

「ん、フレイヤ、どうかした?」

「うーん……彼、どこかで聞いた名前なのよねぇ。それにどこかで見た顔のような……」

 

 頬に手を当て、何やら考え込んでいるフレイヤ。

 しばらく「むむむ……」と唸っていた彼女だったが……

 

「ま、思い出せないなら、大したことじゃないのよね、きっと!」

 

 そう悩むのを切り上げて、早くどこか行きましょうと促すフレイヤに、クリムたちもこの時は大して深く考えずに、落ち着いて座れる場所を求めて歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 ――しかし、この時のフレイヤの疑問が、クリムたちのギルドに大きな影響を与える出来事……フレイ曰く『愉快なこと』になるとは、この時のクリムたちは、思ってもみなかったのだった――……

 

 

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