Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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白の森防衛戦 WAVE:2

 

 ――てんやわんやで始まった『白の森防衛戦』だったが、時が経つにつれて、プレイヤー側も徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。

 

 

 最初こそ迫り来る爆弾バチのその数と、特殊能力への恐怖のせいで混乱があったものの、爆弾バチは『周囲を巻き込み爆発する』という性質があるため……多数集まって行動している現状では、連鎖爆発で勝手に数を減らすので、案外と駆除は順調に進んでいた。

 

 だが……このように単純かつ雑な攻めを、あのエイリーという少女がするだろうか?

 

 そんな疑問に、クリムはこの後起こるべき展開に頭を巡らせる。自分ならば、この爆弾バチの混乱に乗じて果たして次にどんな手を打つか。

 

 

 ――最初の混乱が、まだ収まらないうちに次の戦力を投入する。

 

 

 即座に思い至る結論に対し、クリムは即時行動を始める。

 

「総員、地上戦警戒! 遠隔持ちは継続して爆弾バチの対処に当たるのじゃ!」

 

 全体チャットでそう叫ぶクリムが、次の指示をすぐさま周辺に飛ばす。

 

「フレイヤ、それとエルミルとホワイトリリィ、お主らを中心に前衛職は地上前方に警戒!」

「え、けどまだまだ沢山、上から来てますわよ?」

「すぐに地上からも来る!」

 

 ホワイトリリィの怪訝な声に対しクリムがそう返事をした直後、最前線にいたプレイヤーたちから悲鳴が聞こえた。

 

 クリムの宣言した通り、すぐさまギシギシと甲殻を軋ませる音を立てて、地上を埋め尽くすような黒い蟲たちの波が、木々の合間を縫うようにして押し寄せて来ているのが見えた。

 

 それは、以前にも戦った、鋭い鎌の手を備えたダニのような形状の蟲……『ダークマイト』を中心に、分厚い甲殻を持つ防御力の高そうな甲虫や、どこかカマキリの意匠が残る二足歩行の人型など、多様な種類の混成群。

 

 爆弾バチの処理がもう少しで終わると気が緩みかけたプレイヤーたちが、その異容の軍団に怯み、浮き足立ちかける……が。

 

 

「――『スレイヴチェイン』!』

 

 そんな中でクリムは、直近に居た爆弾バチの一体に真紅の鎖を飛ばして、その上空に在る巨体を絡め取る。

 当然ながら引き摺り下ろされまいと抵抗する爆弾バチだったが、その時にはすでにクリムは逆に地を蹴って鎖を縮め、その背中へと飛び上がっていた。

 

「はぁあッ! 『スラッシュレイヴ』ッ!!」

 

 クリムの銃を所持していない方の手が閃いて、深紅の爪が爆弾バチの背中から伸びる半透明な翼を切り裂いた。

 体を支える浮力を失った爆弾バチを、クリムは地上から迫っているダニ型の魔物……今まさにプレイヤーたちに迫る『ダークマイト』の群れの、ど真ん中に蹴り飛ばした。

 

 そんな地面でもがく蜂に、クリムが空中で放ったマスケットの弾丸が突き刺さり、大爆発を起こして周辺の敵ごと沈黙する。

 

「――女王よ、聞いておるな!?」

 

 クリムが見せたまるで大道芸のような一連の空中機動に周囲の者たちが目を見張る中、クリムは宙に向かって女王に呼びかける。

 

 ――本当は女王には無理をして欲しくないのだが、状況がそうは言っていられない。

 

 やがて、少し間を置いて返事が返って来た。

 

『盟主様、お呼びでしょうか?』

「すまぬが、先程の爆発する赤い蜂が現れた時だけ教えて欲しい、無理はせん範囲でな!」

『はい、承りました』

 

 女王の返事に、よし、と一つ頷くと、クリムは大きく息を吸い込む。

 

 

 

「――狼狽えるでないッ!!」

 

 

 

 その一喝に、周辺でチグハグに動いていたプレイヤーたちが、動きを止める。

 

「敵の数が多いことなど、すでに分かり切っていたこと! 一番の問題はすでに乗り切った、我らのやるべき仕事に変更は無い!!」

 

 そう言い切るクリムの言葉に、周囲からハッと顔をあげるプレイヤーたち。

 

「前衛部隊、地上の敵を食い止めよ! 後衛部隊、上空の敵を優先して排除せよ! やるべき事を為せ、無理なところまで手を伸ばさず、己が仕事を確実にこなし持ち場を堅守せよ!!」

 

 そう号令を発するクリムの声に、混乱状態にあったプレイヤーたちが皆、やるべきことを思い出した様に整然と行動を開始した。

 

 この一週間、共に訓練を積んできた仲間たちだ。混乱さえ鎮まれば、この程度で己が役割を忘れてしまうほど弱い仲間たちではないと、クリムは信じている。

 

 

 ――エイリー、我らは、そう簡単にお主の思い通りには進ませぬぞ。

 

 

 まだ姿の見えぬ首魁の少女にそう心の中で己が意思を告げ、クリムは残る爆弾バチを処理するために、次の銃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――そうして、開戦から三十分ほどの時が流れた。

 

 あれ以来、幸いにも爆弾バチの姿は散発的にしか見られておらず、陣地内に入られる前に対処できている。なんなら、敵陣でうまく爆破して敵を巻き込むのに利用しているくらいだ。

 

 だが――元々、タワーディフェンスとはどうしても後手に回らなければならない防衛側が不利なもの。初見ならば尚更だ。

 

 幸いというか、向こうの采配をしているのはエイリー……クリムたちと同じようにし思考し戦略を決めている『差し手(プレイヤー)』が居る。

 

 クリムたちは三魔王とスザク、ほか熟練ゲーマーたちの思考を撚り合わせ『自分たちにとって何が嫌か』を相手側に立って考える事で……精度は精々が30%あれば良い方かもしれないが……次に何が来るか予想は可能であり、どうにか対処できている。

 

 だがそれでも、空中と地上、絶え間なく襲い来るエネミーの山に、戦線はジリジリと後退し続けていた。

 

 

 

 

「ああ、A-3の若木が!」

「もう間に合わん、敵の数を減らしながらA-4まで後退、そちらを堅守するのじゃ!」

「り、了解!」

 

 眼前で、迫り来る無数の蟲たちにたかられたハルニアの若木が、根本を喰い荒らされてまるで悲鳴のような生木が裂ける音を立て、傾いでいく。

 

『こちらソールレオン、B-2、C-1、D-2までの若木は放棄した』

『シャオです、こちらはF2、G2、H3まで放棄、その後ろに戦線を展開しています』

 

 クリムのもとに次々と入るのは、各所の被害報告。やはりというか、圧倒的な敵の数を前にどこもジリジリと戦線は後退している。

 

 

 ――クリムたちは、フローリア外周のハルニアの古木八本にA〜Hの記号を反時計回りに割り振り、おおまかにエリア分けしていた。

 

 さらにその古木に小結界を張っている若木のうち、外側のものから順に数字を振って、各防衛ラインが現在どこにあるのかの管理をしていたのだが……やはりというか、北側のAとB、そしてHのエリアは敵の攻撃が激しく、被害が大きい。

 

 

 そんな倒れていく若木へ、無念の表情を浮かべた防衛担当たちが、群がる蟲を木ごと魔法で焼き払いつつ後退していく。

 

 ……と、ちょうどそこで敵の第三波が途切れた。

 

 

 

「はぁ……どうやら、このラウンドも凌いだみたいじゃな。フレイヤ、今のうちにMPを回復しておくのじゃぞ」

 

 まるでエナジードリンクのようなケミカルな味に顔を顰めながらMPポーションを飲み干し、額から流れる汗を拭いながら、クリムは側で青い顔をしているフレイヤを労る。

 

「うぇえ、目が回るよぅ……」

「うむ……苦手だろう相手を前に、よく頑張ってる、偉いぞ」

 

 珍しく、クリムの方が弱音を吐くフレイヤを軽く抱きしめ、慰めていた。

 ただでさえ苦手な蟲に取り囲まれながらターゲットを取っているフレイヤは、どちらかと言うと精神面でだいぶ参っているらしい。

 

 周囲を見回すと、エルミルやホワイトリリィをはじめとしたタンク職はやや疲労が濃く、今は周辺警戒している雛菊とカスミなどアタッカー職はまだ比較的余裕がありそうだ。

 

 しかし、常に爆弾バチを警戒しながら同時に上空から襲い来る蟲たちを迎撃しているフレイとリコリスを始めとした遠隔攻撃職は、MP的にも精神的にも疲労が溜まり始めているのが見て取れる。

 

 かくいうクリム自身、マスケットは弾込めしたものは全て撃ち尽くし、ガングニールも残りの弾倉が二つ、残弾16しかない。

 

 敵側の動向は、しっかりとルールに決められているラウンド制であり、この後5分間のインターバルを空けて、次の第四波が来るのだが……

 

 

「フレイ、皆の様子は?」

「ああ……皆、そろそろ疲労が蓄積してる、あまり良くは無いね」

 

 フレイの言葉通り、周囲のプレイヤーの様子を見ると、皆だいぶ疲労しているのが分かる。

 

 そして……そんな時こそ、攻撃側にとっては戦力の投入時であると。

 

「そうか……では次あたりで、そろそろ仕掛けてくるかの」

「そうだね、僕だってそうする」

 

 そう、げんなりとした視線を遠くに向けるクリムとフレイ。

 

 その視線の先には……まだ遥か遠くだというのにこの場所からでも見える、山のように巨大な蠍のモンスターが、地響きを上げて宙から降って来た所だった――……

 

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