Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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雑魚戦は容赦なくカットよー


白の森防衛戦 WAVE:4

 

 

 ――津波のように蟲たちが押し寄せる総力戦が始まってから、無限に続くかのような錯覚を覚えるほど長い数十分が経過した。

 

 

 

「これで……ラスト……ッ」

 

 しつこく最後までハルニアの若木に組み付いていた甲虫を、クリムが思い切り蹴り飛ばす。

 すぐさま空中にある相手に向けて投げ放った大鎌は、狙い違わずその甲虫を両断した。

 

 それを見たクリムも……もはや戻ってくる鎌をキャッチする余裕もなく、その場に蹲る。がらんがらんと傍に転がった鎌の音を聞いて、はぁ……と深々と息を吐き出した。

 

「ふぅ、ふぅ……どうだ、やってやったぞエイリー……!」

 

 あれだけ居たエネミーが狩り尽くされ、今や一体も残っていない。

 一方でプレイヤー側も精魂尽き果てた様子で座り込んでいて、もはや北側には動く物もおらず、無残な荒地ばかりが広がっていた。

 

「じゃが……すまんな、女王。若木はほとんど守れんかった」

 

 古木に結界を張っている若木は、どのエリアも1、ないし2本しか残っていない。他は全て蟲の群れに飲み込まれ、全てのハルニアの古木が残存していることすら奇跡的な有様だった。

 

『いいえ……あれだけの猛攻に晒された中、結界の要である八本の古木を守り切れただけで御の字でしょう。皆様、本当にありがとうございました』

「ならば良い……が、喜ぶには、まだ肝心の者の相手が終わっておらんな」

 

 そう言ってのろのろと顔を上げたクリムの視界の先、レーダーマップの北の外れに、赤い光点が現れた。

 

 中心に大きな光点が一つと、その周囲にまるで王に侍るような光点が十二個。

 

「……ついに、来おったか」

 

 前方から発せられる、ビリビリと大気を振るわせる気配に、クリムも震える膝を叱咤してゆっくりと立ち上がる。

 あのベリアルですら『お姫様』と敬う、悪魔の中でもおそらく最上位に位置するであろう『クリフォ2i』。

 その圧力は、クリムですらこの場から逃げたくなるほどに凄まじい。

 

 まだ遥か彼方に見えるは、天から舞い降りる、黒い堕天使の翼を持つ少女……バアル=ゼブル=エイリーの姿。

 

 彼女は、両手に禍々しい短刀を手にした怪しげな女性たち、ただし蠅の下肢と翼を備え宙に浮いているという12の異形の使用人たちを従えて、すっかり荒れ果てた森へと舞い降りた。

 

 そして……少女は、まるで客人をもてなすかのように、スカートの裾を摘んで一礼する。

 

『ようこそ、500の英雄さん達。妾の名はバアル=ゼブル=エイリー。あなた方の健闘を称え、妾自身が相手をしてあげるわね』

 

 そう告げた少女の周囲に、4つのオーブらしき光球が展開し、それはすぐに小さな太陽のように燃え上がった。

 

『……今しばらく、猶予をあげるわ。残るは正真正銘、妾と12の近衛たちだけ。妾たちを止めることができたならば、あなた方の勝利よ』

 

 

 そう、不敵に佇む悪魔少女に、プレイヤーたちは恐れ慄……

 

「カワイイ……」

「エイリーたん覚えた、カワイイ……」

「堕天使ヨウジョ……お尻ペンペン……」

「お主ら本当の本ッ当にバカじゃなあ!!?」

 

 ……いているわけではなかった。

 

 

 疲れ果てて、まるで死人のように座り込んでいたはずのプレイヤーの一部が、目に怪しい光を宿して幽鬼のように立ち上がる。

 そんな空気を読まないプレイヤーたちに、クリムは思わず全力でツッコミを入れる。

 

「えっと、夜の精霊さん、これは?」

「うむ……何というか、本っ当にスマン!」

 

 これには流石にエイリーも戸惑っており、クリムはただ、申し訳ない気持ちいっぱいで謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

 ……と、そんなトラブルはあったが。

 

 エイリーの用意した準備時間で各々最低限の休息が取れているうちに、各方面のギルドも続々集まって来た。

 

 当然その中には、防衛の中核であった『北の氷河』と『嵐蒼龍』の姿も存在する。

 

「……なるほど、たしかにこれは凄まじいな。君が、わざわざ私たちに協力を要請するわけだ」

「全く……ラスボス戦には、まだ早すぎるでしょうに」

 

 眼前で悠然とティータイムに勤しんでいるエイリーに、しかしその内に秘める力を察した二人の魔王は、片や嬉しそうに、片や顔を引き攣らせ、それぞれが感想を呟きながら準備を始める。

 

「ブルーライン共和国の皆へ。僕はこれから一番ヤバい奴を相手にするから、皆は周りの取り巻きをお願い。嵐蒼龍は……メイ、君に任せた」

 

 そう通信で告げ、クリムたちの戦列に加わるシャオ。

 一方でソールレオンも、背後に控えていた副官ラインハルトとシュヴァルに指示を出している。

 

「ラインハルト、シュヴァル、君たちはそれぞれ部隊を率いて、周りの女官たちを相手してくれ。私はあの悪魔の少女に手一杯だろうからね」

「あいよ、了解だ大将、なるべく早く片付けて加勢に戻るぜ」

「任せてください、もう後もありませんからね、敵は絶対に後方へは通しません」

 

 そう言って自分たちのギルドの指揮に離れていった二人を見送り、ソールレオンも己が双剣を抜き放ち、参列する。

 

 さらには、もう一人。

 

「ったく、毎度毎度お前は厄介なクエストに頭突っ込んでるよな」

「スザク、お主無事じゃったか」

「勝手に殺すな。まあせいぜい役に立ってみせるさ」

「うむ……ところでハル先輩は?」

「さぁな、なんだか運営に直談判して来るって言っていたが」

 

 そう言って彼は、流石に今回は引っ張り出してきた、ダアトから預かった紅い剣を構える。それを見たエイリーが少し眉を顰めたようだが、すぐに元の無表情に戻った。

 

「もちろん、私たちも居るです!」

「ちょっと辛いけど、最後までお供するの!」

 

 健気にクリムの傍で各々の武器を構え始める、雛菊とリコリス。そんな幼年組に負けてられないと、ほかのルアシェイアメンバーも意気軒昂に立ち上がる。

 

 

 ――悪魔の姫を迎え撃つは、クリムが考え得る限りの、この第一サーバーでおそらく現状最強の布陣。

 

 

 フルメンバーで構えるクリムたちの様子に……エイリーは普段無表情なその顔に僅かに、しかし満足げな笑みを浮かべる。

 そうしていそいそとティーカップを片付けた彼女は、改めてクリムたちに向け戦闘体勢を取る。

 

『さあ……全力で、私を愉しませてちょうだいね?』

 

 なにやらボスっぽいエコーを声に纏わせた少女がそう呟いた瞬間――まるで太陽のコロナを彷彿とさせる巨大な熱量がフィールドに吹き荒れ始め、最終決戦の幕が上げられたのだった――……

 

 

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