Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「――とはいえ、やる気だけではどうにもならんな!」
「泣き言を言うなクリム!」
炎の嵐に行手を阻まれて、クリムが参ったとばかりに吐き捨てる。それを叱るフレイだが、彼は今、クリムに必死に援護を飛ばしている最中だった。
そもそもクリムは種族柄、極めて炎に弱い。
しかも『当たらなければどうという事はない』を地で行く構成の、ペラッペラの紙装甲ビルドなのだ。
つまり……エイリーのオーブによって周囲に吹き荒れている炎の乱舞、擦ればそんなクリムのライフなど、大半が容易く吹き飛ぶ。
フレイヤもシャオさえもフル稼働で皆を回復しているにもかかわらず追いつかない治癒に、ついにはフレイの手まで煩わせたクリムが泣き言を言うのも致し方無しだろう。いっそもう笑うしかないレベルである。
……と、ヤケクソ気味になっている時だった。
『皆様がこれほど死力を尽くしてくれているというのに、我々がただ見ている訳にはいきませんね』
先程までの千里眼の行使による疲労困憊から、まだ休んでいるはずの女王フローライトの声。どこかこんな時でものんびりとした雰囲気のある彼女の声が、突然戦場に流れた。
何を……そう戸惑うクリムを始めとしたプレイヤーたちだったが。
『スフェン、準備は出来ましたか?』
「ええ、問題ありません。よろしいですね、姉上?」
『任せます』
そう女王が許可を下すと、エルフ弓士団の先頭に立つスフェンが、何かの詠唱を始める。
同時にエルフたちが何やら特殊な意匠の矢を取り出すと、一度祈るように掲げた後、弓に番える。
「――小さき風の悪戯子、シルフよ、我の腕を狙い違わず届けたまえ……『シュートアロー』!」
そして――スフェンの詠唱が完了したのと同時に、一斉に八本の矢が放たれた。
八方バラバラに放たれた矢は空中で緑色に輝く風に捕まったかと思えば……直後、まるでミサイルのような勢いで、最終決戦のフィールドを囲むように大地へと深々と突き刺さった。
直後――天に届かんばかりのほの蒼い閃光が、荒地を縦横に駆け抜けて、戦場を包み込む。
それはまるで、今まさに花の都フローリアを包む結界のように。
『むぅ……』
不満げな声を上げたのは、エイリーだ。
彼女は今、分かりやすく「怒ってます」とばかりに頬を膨らませていた。可愛い。周囲が灼熱地獄でさえなければ。
だがその様子を見るに、彼女にとって面白くない事態が起きているのは間違いないようだ。
『皆さん、こちら錬金術師セレナです、秘密兵器、無事に届いたようで何よりです』
「む、せ、セレナ? あ、あの仕掛けはお主の仕業か!?」
予想外の人物からの通信に、クリムは必死になってオーブから放たれる炎を掻い潜りながら尋ねる。
『はい、先程打ち込んで貰ったのは、ハルニアの古木の枝から切り出してきた、神聖な矢です!』
「それを、結界の起点となる楔として私が戦場に撃ち込みました!」
自慢げにふんす、と鼻息を荒くしている、通信越しのセレナの解説に、スフェンが補足を加える。
どうやら先程エルフの弓士たちの手で周囲に撃ち込まれた矢が、街に張り巡らされた大結界の要であるハルニアの古木と同じ役割を果たしてくれているようだ。
だがしかし、結界が発動しているならば術師も居るはずだが、女王もかなり限界のはずだ。彼女に更なる負担を負わせる訳には……そうクリムは躊躇するが。
『……街の大結界に比べたら遥かに小規模なものだが、対象を敵数体に絞った分、結界内の対象を弱体化する効力は上がった筈だ』
「ロウラン、この術はお主がか!?」
結界に要する魔力負担が重いのか、彼はただでさえ仏頂面な顔を、さらにわずかに顰めている。
それはそうだろう、女王は上位種であるハイエルフ、そんな彼女ですら消費が重い術式なのであるならば、彼にとって相当な負担は間違いないのだから。
だがそれでも、思わぬ援護を飛ばして来たロウランに、クリムが驚きの声を発する。
『ふん……この国のことを人任せにするのは思うところが無いわけではないが、しかし今は私が何としてでもこの結界は維持しよう、あとは盟主殿らに託す……!』
「任され……た!」
会話しながらも、ついに再び炎の嵐を掻い潜ったクリムの突き出した漆黒の太刀が、エイリーに届いた。
しかしその切先は、復活しているエイリーのアブソリュートディフェンスに阻まれる。
【Absolute Defense】
【1980/3000[1:59]】
「は――お主ら、最高の援護じゃあないか、感謝するのじゃ!!」
表示されたそのカウント……先程までより三分の一以下の耐久力に、リキャストも倍という弱体化を受けたそのエイリーのアブソリュートディフェンスの数値を見て、思わずクリムが喝采を上げたのだった。