Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――それは、ほんの些細な気付きだった。
死闘の最中、うっかりフレイヤが、オーブの放つ火炎旋風の範囲内から離脱し損ねた。
それに気付いたクリムが、フレイヤを巻き込む場所からオーブを弾き飛ばせれば構わない、そんなつもりで咄嗟に放った深淵魔法『スタンバレット』。
だが……ほんの一瞬ではあるが、オーブの動きが固まった――スタンが、効いたのだ。
「――雛菊、リコリス、カスミ、セツナ!」
それを見たクリムの判断は早く、即座に思考を巡らせ戦術を構築すると、仲間たちに指示を飛ばす。
「我が読み違えておった、あのオーブをエイリーの武器と思っていたのが間違いじゃった!」
無機質な動きと本体に同期した行動、多少殴っても傷さえつかなかった頑強さ、そしてエイリー登場時の演出から――すっかりエイリーの武器、破壊不可オブジェクトなのだと勘違いしていた。
だが個別にスタンが……状態異常が効いたということは、あれは武器ではない。エイリーの使い魔のようなもの、つまり……頑丈ではあるが、撃破可能なエネミーだ。
「あれは、高度に本体と連携した小型エネミーじゃ、お主らに任せる、分断して各個撃破じゃ!」
「了解です!」
「わかりましたなの!」
「任せて!」
「ガッテンです、お館様!」
そう返事を返した四人が、即時散開してそれぞれがオーブへと仕掛ける。
「フレイとフレイヤは、オーブ処理に当たっている皆の援護を! 特に接近戦を仕掛ける者は火炎旋風が回避できん、受けるダメージは大きいはずじゃから、こまめに体力回復をしてやってくれ!」
「うん、分かった!」
「お前こそ死ぬなよ、総大将!」
そう言って離れていく二人の背中を見送って、エイリーの眼前に残るはクリム、ソールレオン、スザク、それと……
「それじゃ僕はあっちの援護でも……」
「シャオお主はこっちの回復に決まっとるじゃろうがサボるな」
「あ、ですよねー。あまり無茶しないでくださいよ、あなた達は無茶ばかりするからサポートが大変なんですから」
激しくエイリーと切り結びながらのクリムのツッコミに、渋々と言った様子で戻ってくるシャオを加え、四人で少女を取り囲むのだった。
――こちらの四人は、いずれも劣らぬ現時点の第一サーバーにおける最上位のランカー達だ。
目まぐるしく位置を変え品を変え立ち回るその戦いは、強敵を得た事で徐々に激しさを増しており、業火渦巻くその戦場はもはや余人が入り込む余地のないほどの熾烈さとなっていた。
そんな中……
「貰ったあ!!」
『くっ……ッ!』
クリムとソールレオンの攻撃を捌いた直後という、エイリーの不意をついたスザクの一撃が、少女の肩を浅く抉る。
かすり傷にもかかわらず、初めて僅かに焦りの表情を見せたエイリーが、スザクの返す刀を炎を纏った爪で受け止める。
その瞬間――クリムには、エイリーの炎がスザクの紅剣に向かって不自然に揺らいだのが見えた。
――それを見た瞬間、クリムは飛び出して、スザクと競り合っているエイリーの爪を代わりに受け止める。
「――スザク!」
「っ!? あ、ああ!」
突然割り込んできたクリムに面食らっていたスザクだったが、すぐに気を取り直してその手にしたダアトの紅剣を繰り出す。
チッ、とエイリーを再度掠めたスザクの紅剣の切っ先。
そんなかすり傷を受けただけにしては、まるで逃げるように勢いよく飛び退ったエイリーに、クリムは確信と共にスザクに指示を飛ばす。
「スザク、我が援護する、お主がメインアタッカーとなれ!」
「……何だと?」
「おそらく……その剣の、以前にも見せた『何か』を吸収する特殊能力は、あやつにも有効じゃ!」
「……!? わ、分かった!」
そうスザクが同意したのを見て、クリムは彼とは反対側に、弧を描くように駆けてエイリーに迫る。
「――『臨』!」
クリムが手にした漆黒の刀から放たれた、神速の柄打ちが、しかしエイリーの発生させた防御障壁に阻まれる。
だがしかし、その時にはすでにクリムは刀を手放しており、障壁を蹴ってエイリーの頭上、宙に躍り出ていた。
「――『レゾリューション』!」
新たに手に出現させたブラッディウェポン製の真紅の大剣が、三日月のエフェクトを描いて、落下の勢いも載せて振り下ろされた。
だが、これは交差したエイリーの腕、そこに現れたアブソリュートディフェンスに防がれる。が、ここでもクリムは大剣を手放して、次はシャドウ・ヘヴィウェポンによる漆黒の大鎌を手の内に錬成する。
「――『エクゼキューション』!」
月を絶つように、もう一度身体を旋回させたクリムから断頭台の刃のような大鎌の刃が振り切られた。
それは今度こそ防御を打ち砕き、エイリーの体に右肩から入り、ダメージのライトエフェクトを描いた。
恐るべきは、このアクロバティックな一連の動き全てが技の終端と始端を繋げていることだろう。今やクリムは、使い慣れた一部の技ならば、どのような体勢からでもコネクトできるようになっていた。
そんな、アブソリュートディフェンスの防御が剥がされた少女に、さらに迫る影があった。
後退する少女に追いすがり距離を詰めるのは、やはりというかソールレオン。
「逃がすか――剣聖技、『疾風』……四連ッ!」
神速の踏み込みにより一瞬でエイリーとの距離をゼロに詰めたソールレオンの一閃が、巧みに重心移動を繰り返して立て続けに四度放たれる。
周囲から削り取るかのようなその神速の剣に、それでも全て炎の爪で弾いて対応してみせたエイリーはしかし、大きく体勢を崩していた。
「おぉおおおッ、『黄龍』ッ!!」
その隙を逃さず、黄金の龍のオーラを纏うスザクが突撃してくる。
その顎は狙い違わずエイリーの右半身を飲み込んで、突き抜けた。
『……っ』
初めて、エイリーの表情に動揺が見えた。
それは、驚き、恐れ、怯え……否。
『……楽しいわ』
ボソリと呟かれた少女の言葉に、何かが変わったのを察したクリムたちがバッと距離を取る。
そんなクリムたちの視線の先で、ふるふると肩を震わせている少女の顔に浮かんでいたものは……
『ああ……なんて、楽しいのかしら!』
それは……紛れもなく歓喜の色だった。
無表情だった少女の雰囲気が反転し、その顔には喜色に満ちた笑みを浮かべる。
これまで纏っていた赤い炎は色を反転し、青く、暗く燃え盛る。
だがその炎は、周囲に熱を与えない。
むしろ逆に、触れたものから熱を、生命を奪い凍てつかせる、反転の炎。
そして……そのパン、と小気味良い音を立てて合わせられた少女の小さな掌から、ずるりと引き出されたのは、一本の剣。
――その剣は、赤帝十二剣、剣聖ガズリルが所持していた大剣にそっくりだった。
違うのは、こちらも色がまるで反転したように、青と黒のグラデーションカラーだったこと。
あのオーブが彼女の武器ではなかったのだから、想定はしていた。つまり……彼女はまだ、
「……どうやら、ここからが正念場、ということでいいのじゃな?」
『ふふ、うふふふ、ええ、ええ、そうよ。今度こそ、本当に本当のクライマックス』
暗い炎を纏い凄絶な笑みを浮かべた少女が、小さな体からは冗談のような鋭さで大剣を振り回す。
周囲に舞い踊る業火を受けて、周りで激戦を繰り広げていた近衛たちもその雰囲気が、攻撃的なものへと変化する。
『さあ、熱い熱い歌をかき鳴らしなさい歌姫さん、妾の焔に、勇者様たちが凍てつかされる事がないように!』
背後で『アイドル・オーダー』を維持しているサクラに向けて、そんな歌うような調子で語りかけ、