Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
―― 『シュヴェルトロート聖王国』から『ルアシェイア連王同盟国』に、正式に宣戦が布告された。
ワールド全体が日に日に緊張感が高まっていき、皆が動向を見守っている中、連王国盟主であるクリムは――
「あ゛づい゛……
「はいはい、もう少しで着くから頑張れよー」
――砂漠の中、リュウノスケの背中の上で、暑さに溶けていた。
「しっかしまあ、砂漠でお前を背負っていると、出会ったばかりの頃を思い出すなぁ」
「そういえば……そうじゃったな……」
日が若干傾き、さらにはオアシスに入った事でだいぶマシになった酷暑の中、相変わらずクリムはリュウノスケに背負われながら、オアシスの街を進んでいた。
――クリムたちが今来ているのは、『ルアシェイア連王同盟国』の最東端。砂漠地帯最大のオアシスに作られたこの竜骨の砂漠地方の主街区『砂の街ベルーシ』。
初めてヴィンダムに向かう際にクリムも滞在した事があるそのオアシスに作られた宿場町は、S.S.S団の統治下で整備されて、今は石造りの街並みが並ぶ立派な町になっていた。
「いやー、クリムちゃんが私の街を見に来てくれて、本当に嬉しいわぁ。いっつもまた今度、ってすげなく断られるんですもの!」
テンション高くクリムに話しかけてくるのは、この町の領主であるS.S.S団の団長であるオロチという青年。しかしクリムは、息も絶え絶えと言った様子で頭を下げる。
「すまんな……砂漠は……見ての通りな事に……なるのでな……」
「うんもう超納得、そうよねぇ吸血鬼さんだものねぇ、ごめんなさいねえ」
「うむ……すまぬな、だいぶ楽になった」
そう言って自分の白い砂漠用マントをクリムの頭から被せてくれる彼(彼女?)に、クリムも感謝を述べる。
……ヴィジュアル的になかなかインパクトがある彼ではあるが、クリムは特にその辺りは気にしていない。
というか自分自身が元少年の少女であるため、親近感があるくらいだ。彼は人間的には温厚かつ懐の深い、尊敬できる人物でもあるし。
そうして彼の案内により、こじんまりとではあるが設られた領主の宮殿へと招かれたクリムとリュウノスケ。日陰に入ったことでなんとか体調も持ち直したクリムが、勧められて着席した応接間の上座から、改めて彼に向き直る。
「さて……宣戦布告後のこちらは、現在の状況はどうだ、困っている事はないか?」
「そうねぇ……やっぱり薬が足りないかもしれないわ。先日の戦闘で在庫が心許ない上に、向こうに薬売りを狙われてしまったの……あの、例の特攻に」
ふう、と悩ましげに溜息を吐くオロチ。
幸いにもその薬屋自身は無事だったそうだが、設備を破壊されてしばらく休業状態なのだと言う。
「まったくもう、せっかく皆が『ヘイトが強くなりがちになるからNPC狙いは避けよう』って暗黙の了解になっていたのに、こう好き放題やられたらねぇ、団員の不満も強くなっているわよ」
「仕方あるまい。向こうでは日常的な常套手段らしいからの。こっちがぬるま湯に浸っていると言われても否定はできぬよ」
「そうねぇ……」
そのあたりは、文化の違いだろう。ルール的に特に問題があるわけでも無し、責めるのはお門違いというものだ。
「あいわかった。こちらは薬の備蓄が十分あるゆえ、余剰分をこちらに融通させよう。それと、防衛設備や人員なども少し用立てるとしようかの」
「ありがとう、本当に助かるわあ」
「なに、我らにも決して他人事ではないからの。大変なポジションになってしまったが、最大限サポートするから頑張ってほしい」
こうして、必要な物資についてあれこれと調整を続け……気付いたら、だいぶ時間も経過してしまっていた。
「おいクリム、時間、時間」
「む? っと、すまぬ、もうこんな時間か」
リュウノスケに肩を突かれて、ようやくクリムが時計を見て、軽く驚きの声を上げる。
「すまんが、続きはまた今度な。我は大事な約束がある故、今日はこれで失礼する」
「大事な約束……差し支えなければ聞かせてもらっても?」
何か手伝いができることがあればと申し出てくれるオロチだったが、しかしこればかりは、手伝いを頼めないと気持ちだけ受け取って断りを入れる。
今は、十一月も後半に差し掛かった頃。つまり……学生にとって憂鬱なイベントが見えてきた頃である。
「決まっておろう、我らは学生ぞ……皆で試験勉強じゃ。今のうちから始めておかねば、いざ試験期間中に開戦されたら成績を落としかねんからの」
というか、おそらく高確率で敵は学生が試験期間に入った頃を狙ってくるだろう。『ルアシェイア』が学生の集まりなのは、割と有名だ。
しかし学生の本分は勉学、それを戦争のために疎かにするなど言語道断。ならば皆で早めに試験勉強をしようとルアシェイアの皆で約束していた。
「世知辛いわねぇ……」
そんな、ひどく現実的なクリムの回答に、オロチはがっくりと、肩を落とすのだった――……