Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「――納得いきませんわ!」
ある日の午後。
学校から帰宅したクリムは、ゲーム内では深夜、月夜の中で、カンテラの明かりを頼りに各所に散った仲間たちから送られてくる報告書に目を通していた。
そんな時だった――ホワイトリリィ女史が、肩を怒らせて執務室へと乱入して来たのは。
「えぇと……な、何がじゃ?」
「対聖王国対策の基本方針についてですわ! クリムさん、貴女、手ぬるすぎるんではありませんの!?」
「あー……」
まず、黒狼隊に一任している主戦場となる国境付近の防衛陣地の構築。こちらは最優先で物資と人員を投入し、運用可能な建築用ゴーレムも実に七割を預けている。
そして、物資の備蓄の強化。皆に協力してもらい素材を集め、生産職の者には必要なアイテムをひたすら増産してもらっている。
あとは、例の聖王国の襲撃に遭った地域への救助活動と支援だが……
「それですわ! いい加減に、私たちから積極的に討伐に動くべきではありませんの!」
現在、聖王国の襲撃に対してはいかに襲われた場所に迅速に駆けつけるかということに重点を置き行動していた。
おかげで被害こそ最小限に留めおいていられているが……一方で結果後手後手に回っている感は否めず、それが聖王国を調子付かせているのもまた事実だ。
「すまぬが、基本方針には特に変更はない。国内の支援を手厚くしながら、開戦の時に向けて支度を進めていく」
「そんな消極的なことで、大丈夫ですの? 向こうの動員可能な人数は、私たちの三倍は居るという噂ですのよ?」
阿漕な方法で勢力拡大した聖王国の所属プレイヤー人数は、多い。
それが上層部の指示で無理矢理戦線に立たされる者も多く士気は低いみたいだが、その数は凶器だ。
人数が三倍……極論だが、向こうはこちらの全戦力と同数の前衛で押さえ込み、こちらの全戦力と同数の弓兵や銃兵でこちらの後衛を押さえ込み、こちらの全戦力と同数の魔法使いでこちらを焼き払えばいいのだから。
「そんなことより、フローリアのエルフたちはどうしておる?」
「そんなことって、貴女ねぇ……向こうは、やっぱり気が気でないみたいよ。少なくとも今の安全を保証してくれている貴女が負けたらって、そんなことばかり不安そうに話しているわ」
「そうか……ならば良い」
「何がいいんですのーッ!?」
満足げに頷くクリムに、ついにホワイトリリィ女史がガーッと食って掛かる、が、しかし。
「――問題ない、全ては予定通りに進んでおる」
不意に真剣な顔で言い放ったクリムに、ホワイトリリィが怒りの勢いを失い言葉に詰まる。
「それに……我だって何もしておらぬ訳ではないぞ? というか、ある意味ではこれまでずっと仕込みは行っていたことになるのかのう」
そんなことを言いながら、クリムは最前線の陣地構築をしている黒狼隊から送られて来た、開戦時の陣営予想図をひらひら振りながら語る。
「実働している所属プレイヤーの人数差が向こうとこちらでは三倍はある、か。おおよそ
手にした戦局の予想図を眺めながら、余裕たっぷりに語るクリム。その様子はどう見ても虚勢などではなく、本気で揺るぎない自信があるように見える。
「まさか、個人の武勇で補えばいいなんて甘い考えでは……ありませんわよね?」
「当然じゃ、結局のところ、それこそエイリーくらいの規格外でもなければ戦いは数じゃからな」
そう言って肩をすくめる。
クリム単騎で結構な数を倒せるかもしれないが、一方で以前エイリー戦でクリムたちがやったように数に任せコスト度外視の絨毯爆撃をされた場合、耐久力の低いクリムでは勝てないだろう。
そう――やはり、
「貴女は、何を狙っているんですの?」
「それは秘密じゃ。ただ、向こうは『この世界での戦争』について最も重要な部分の認識が、決定的に抜け落ちておる」
そう、ククッと口元を歪めるクリム。その口の端から覗く小さな牙に、微かな灯籠の光が反射する。
「――すでに種は撒かれておる。我々は、自国の安定と防衛線の構築をじっくりと進めつつ、ただ泰然と座して待つだけで良い」
「……貴女のそういうところ、本当に敵に回したくないですわね」
単純な武勇もあるが、このクリムという少女は、事、戦いに関わることであれば多方面に渡り天性の才覚を有している……と、そんなことを北の氷河団長が評していたことをホワイトリリィはふと思い出す。
悪巧みをする少女の笑顔を見せるクリムに、彼女は背筋に薄ら寒いものを感じるのだった。