Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「ジェード、物資調達班の状況は……うわ」
その部屋に踏み込んだクリムが、思わずといった様子で呻き声を上げる。
――ここは、セイファート城内、クリムたち『ルアシェイア』の物資を一手に預かるジェードの錬金術工房。
その部屋は今……まるで戦場跡のように、部屋の全てがひっくり返されたような惨憺たる有様だった。
「……んぁ、クリムちゃん?」
「だ、大丈夫かの……?」
ガラクタと産業廃棄物の中から手だけひらひらと振っているジェードを発見し、クリムは戸惑いつつ彼女を掘り起こすのだった。
「ところで、クリムちゃん達は今日はログインが早いね。もうテスト期間?」
「うむ、今日から午前授業じゃな。来週からは試験も始まる故、ぼちぼちいつ布告が来てもおかしくないところじゃが……」
周囲の惨憺たる有り様を見廻しながら、クリムは目で「準備は大丈夫か?」と問い掛ける。そんなクリムに、ジェードはニッと笑って頷き返した。
「大丈夫、頼まれた物資は概ね準備できたよ。生産班のみんなや採取班のみんなにも、後で労ってあげてねー、たぶんそろそろ帰ってくるから!」
「うむ、心得た」
ホッと安堵しながら、クリムはアドニスに連絡を取り、彼女らに振る舞う茶の支度を頼んでいると……バタバタと、工房内に入ってくる一団がいた。
「おかえり、サラ先輩!」
「うん、ただいま。とりあえず今採ってきたもので頼まれたものは全部だと思うけど、あと何か必要なものはある?」
「大丈夫、ほかはもう十分な余裕があるから、あとはゆっくり休んでね」
「ん、了解」
そんなふうに仲睦まじげに語り合うジェードとサラ。その一方で、クリムはサラに続いて降りてきた人物に、声を掛ける。
「お主らも、協力感謝する……スザク、それとハル先輩も」
「いえいえ、部外者のユニオン戦には協力はできないからねー、このくらいはさせてちょうだいな」
「悪いな、俺が表立って協力すると、多分色々面倒になるからな」
「今も、聖王国から熱烈に勧誘されているんじゃったな、お主は。何か向こうの偉い奴は、お主に執着する理由でもあるのか?」
何気なく質問したクリムだったが……しかしスザクは、その質問に露骨に嫌そうな顔をする。
「聖王国のトップか……まあ、アイツはなぁ、騙しやすいし担ぎやすいだろうからなあ」
「む、聖王国のトップを知っているのか、スザク?」
「ああ、まあ、な。一応同業者だし……」
「……ということは、そやつもいわゆるプロゲーマー、というやつか」
「ああ。たしかキャラクター名は『セオドライト』って言ったかな」
セオドライト……たしか、測量に使う機器の名前だったか。
実に嫌そうにその名を口にするスザク。どうやらよほど馬が合わないらしい。
「まあ、実力は確かだと思うぞ。ただ、正直俺は奴が好きじゃない」
嫌悪感も露わに、そう吐き捨てるスザク。
プロゲーマーといっても、それだけで食っていける者はそれほど多くはない。また、性質上かなり年若い者が多い職種でもある。
一方で、社会に触れないままに業界入りする者も多く、若いうちから大人の中で第一線に加わるため早熟な者もいれば、逆に精神的に未成熟なままで大人になってしまう事も多いと聞く。
それ故に問題を起こす者も少なくないという話もよく聞くが……
「一言で言うなら……正義バカだな。二言なら正義バカの自己中だ」
「「正義バカ?」」
首を傾げるクリムとハルに、彼は実に嫌そうに補足を加える。
「ああ。自分が正しいと思って譲らねえ、手段と目的がごっちゃになっていても気付かねえ、はた迷惑なバカ野郎さ」
……どうやら、今回は後者らしかった。
◇
――同じ頃、始まりの街ヴィンダム、その端にある貧民区。
「どいつもこいつも、使えないバカばかりだ……!」
ぶつぶつと恨み言を呟きながら、そんなヴィンダムの街にある暗部、微かに下水の悪臭漂う薄汚れた裏道を歩く男が居た。
陽光のように明るい金髪。
普段であれば好青年じみた穏やかな笑みを浮かべた顔は、しかし今は鬱屈した感情に濁った目で地面を見つめ、その表情は歪んでいた。
普段は、正義感の強い好青年。しかしその仮面の裏に覆い隠されているのは、自分に賛同しないものには非常に攻撃的であり、独善的な人物像だ。
――彼は、聖王国国王、セオドライト=シュヴェルトロート。国王として
しかし、都合が良かったからあえて乗せられてみたものの、これまでの結果は惨憺たるものだった。
特に、二鯖から移住してきた者たちはというと、自信満々に自分たちならば勝てると売り込んできた割には、とんと使えない。やはり所詮は熾烈なPvP環境から離脱して来た組なのだと失望してばかりだった。
厄介なのは、やはりあの魔王クリム=ルアシェイアか。
てっきり前線で暴れるだけが能の、武力と魅力全振りのプレイヤーかと思えばとんでもない。
のらりくらりとこちらから仕掛けた妨害をいなし続けるその様はまるで、しなやかに強い柳の木のようだ。
――たしかに、動員できる人数は自分たちの方が多い。
だが、このままそれに胡座をかいて開戦すれば、こちらが負けるのは必定……それが、聖王国のトップである彼、セオドライトの見立てだった。
――いいだろう、ならば、悪魔に乞うてでも、
「だから、僕はお前の提案に乗ろう――力を貸せ、ビフロンスとやら」
そう彼は、路地裏の奥まったところに座りこんでいた、ローブをすっぽりと被った男へ声を掛けたのだった――……