Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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代償

 

 ――試験終了した日の夜。

 

 ゲーム内でも夜だったセイファート城にログインしたクリムは……

 

 

「へー、短い毛が生えてるんだ。ビロードみたい、すごく手触りがいいの」

「意外と皮膜自体は硬いですね。不思議な感触です」

 

 

 ……興味津々といった様子でペタペタと翼に触れてくるリコリスと雛菊ら年少組に、困り果てていた。

 

 

 

「すまんが、あまり触れないで貰えぬか。触られると、なんだかすごい変な感覚が……」

「付け根……は肩甲骨の場所みたいだな、一体どんな骨格になっているんだ?」

「あ、バカ、フレイ、根本は……!」

 

 雛菊をはじめとしたワービーストのプレイヤーたちは、一様に尻尾の根本に触れられるのを嫌がる。

 その例に倣い嫌な予感がしたクリムは、慌てて幼馴染特有の気安い感覚で触れようとするフレイを制止しようとするが……一歩遅く、ツツッとフレイのその指が、白い皮膚と黒い翼の境目の部分に触れる。

 

「――ひゃンッ!?」

 

 フレイが興味本位で翼の付け根に指を這わせた瞬間、クリムの反応は激甚だった。

 ビクッと背筋を震わせて悩ましげな声を上げた後……プルプルと体を震わせて、顔を真っ赤に染めて目に涙まで浮かべて、フレイを睨みつける。

 

「フーレーイーお前なあ!?」

「あ……わ、悪い」

 

 流石に、自分のしたことを察してバツが悪そうに謝るフレイ。しかし、時すでに遅し。

 

「ねえフレイ、今のはどうかと思うよ?」

「フレイお兄さん……?」

「あの、今のはちょっと……」

「ねえ、フレイ君……?」

「……今のは、正直本気ですまんかった。だからそんな目で見ないでくれ」

 

 女性陣からの責める視線に晒されて、彼はすっかり小さくなって自発的に正座し始めたのだった。

 

 

 

 

 そうして、委員長が正座中のフレイの首に掛ける看板を製作し始めたのをぼんやり眺めながら……クリムは、居心地悪そうに背中をチラチラ見ながら愚痴る。

 

「むう……やはりどうにも慣れぬなあ、翼があるというのは」

 

 本来ならば無いはずの器官だからだろう。しきりに気にした様子で、背中の羽をバサバサと羽ばたかせているクリム。

 

「まあ、私も最初は尻尾に慣れませんでしたが、すぐに気にならなくなったから大丈夫ですよ!」

「そうじゃな……ワービーストのプレイヤーは全員が乗り越えてきた道じゃったな」

 

 雛菊の慰めに気を取り直して、クリムが改めて漆黒の大剣を取り出す。

 その視線の先には……特に気負った様子もなく、自分の剣を一本だけ抜き放ったソールレオンの姿があった。

 

「悪い、待たせたの。それで、ルールはどうする?」

「初撃決着でいいよ、こちらはいつでも大丈夫だ」

 

 初撃決着……クリーンヒットが一回あった時点で勝敗を決するモードだ。だいたいサクッと決着もつき、ステータスや構成の差もあまり出ないため、ちょっとしたプレイヤースキル重視の腕試しなどでよく使われるモードである、が。

 

「それと……私からは仕掛けないから、君は全力で打ち込んでくるといい」

「……なんじゃと?」

「いや、今回は検証が目的だしね。あまりガチで勝負する必要もないだろ」

 

 そう言って、ヒュヒュンと軽快に十字に剣を振り、自然体に構えるソールレオン。

 

「どうなっても、知らぬからな……!」

 

 どのみち、遠慮が必要なほどヤワな相手でもない。

 そう言って、クリムはいつものように、グッと足に力を入れて地面を蹴った。

 

 ……すくなくとも、クリムはそのつもりだった。

 

 

 

 

 ――ドンッ

 

 

 庭園に響く爆発音。

 目まぐるしく変化する視界。

 

 次の瞬間……クリムは、月を見上げるようにして地面に倒れ伏していた。

 

「……あ、あれ?」

 

 何が起きたかは、すぐに解った。

 

 

 つまり――()()()。盛大に。ただそれだけだ。

 

 

 一度、顔面からずるべたんと。しかしそれだけでは勢いは死なず、何度か転がった後に今、ソールレオンの足元に仰向けに倒れている。

 

 そう、なんとか現状を認識したはいいが、依然と混乱しっぱなしなクリム。

 そんなクリムへと、ソールレオンはやれやれと肩をすくめると『決闘中止』のボタンを押す。

 

「……ま、予想通りだね」

「く……クリムちゃん、大丈夫!?」

 

 至極落ち着いた様子で、剣を収めるソールレオン。

 いまだ呆然と寝転んでいるクリムを、フレイヤが助け起こしてくれる。その腕に抱かれるようにして座り込むクリムへ、ソールレオンが事情の解説を始めた。

 

「まず、バルガン砦で君を苛立たせていた不自由だけど……あれは、特に異常があったわけじゃないよ。少なくとも君の体にはね」

「……というと?」

「君はあの時、知覚と思考の限界を踏み越えたんだ。『ゾーン』とか、『零の領域』とか言われてるやつだね」

 

 なるほど、言われてみれば確かにストンと腑に落ちる。

 クリムだけの動きが遅かったわけではない、あの時はそれ以上に、世界全てがクリムにとって遅く見えていた。

 

「体の動きが鈍かったと感じたのは、限界を超えた知覚に、君のその体がついていけなかったからさ。周囲から見ている分には君の動きは、むしろ異常に早かった。たぶん手足の関節とかにも、相当な負荷があったんじゃないか?」

「あ……」

「そういえばあの時のクリムちゃん、関節を壊していたよね?」

 

 あの時、治しても治しても、いつのまにか骨折してはフレイヤに治療されていたのを思い出す。

 

「では、ビフロンスと相対した際にその違和感が無くなったのは……」

「おそらくは、種族が進化した際にその体の反応速度が向上したんだ。ゾーン中の君の思考と知覚についていける程にね」

 

 結果、ゾーン状態の反応速度を十全に活かして戦うことができた……それが、あの時のクリムの、魔王と呼ぶに相応しい強さの秘密。

 

「そしてその向上したレスポンスは……たぶん、今もそのままなんじゃないかな?」

 

 そう、少し同情気味な視線を向けたまま締め括るソールレオン。

 

「つまり、我がさっきコケたのは……」

「強化された君の体の反応速度に、君の()()()()()()()()()()()()()()()()()()せいだろうね。今の君は、乗り慣れていたスポーツカーが、いつの間にか慣らしも済んでいない最新のフォーミュラカーに入れ替えられたみたいなものじゃないかな」

 

 使いこなせれば、種族進化済みの今の方が間違いなく強い。それは、ビフロンスとの戦闘が証明している。

 だが、その全力を自在に使いこなすには相当修練が必要だろう。しばらくは全力全開は控えて、慣らしていく必要がありそうだ。

 

「なあ……コイツで知覚や反応が追いつかないって、相当な無理ゲーじゃないか?」

「同感だ。全く……君のご両親は、なかなかにスパルタみたいだね」

 

 呆れたようなフレイの言葉に、ソールレオンも困ったように苦笑いする。

 

 どうやら、一から研鑽の積み直しらしい……そんな事実が判明し、クリムは。

 

「……マジかぁ」

 

 うちの親は一体、人をどこに導くつもりなのだろうか。

 もう何度目になるか分からない半ば諦めの心境で、クリムは深々と溜息を吐くのだった。

 

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