Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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妖精のいたずら

 

 ――精霊とは、生きる自然現象である。そう体系付けたのは、旧帝国の偉い魔術師の誰かだったはずだ。

 

 

 

 一点に偏った魔力が集まった際に、自然発生する魔法生命体。

 

 その生態は謎が多いものの……共通して言えるのは、己が属性の力を、人間よりも遥かに強力に、そして自在に操ることができるというもの。

 

 そんな精霊種であるが、比較的明確な生態が判明しているのが、風の精霊である。

 

 

 ――風の魔力が集まる場所で生まれる精霊種、名をシルフ族と言った。

 

 

 それをこの大陸では主に、『妖精』と呼んでいる。

 

 では、そんな彼女たちの生態は、どのようなものか。それを、少しだけ触れてみようと思う。

 

 

 

 ……元々、旧帝国の初代皇帝、獅子赤帝ユーレリア=アーゲントが幼い頃から懇意にしていたこともあり、旧帝国では彼女たち妖精族は手厚く保護されており、異種族の中でも特に友好的な種族であった。

 

 そんな事情もあって、元々が天真爛漫かつ呑気な性質を持つ彼女たち妖精に、基本的に人に対する悪意はない。非常に友好的な精霊と言えるだろう。

 

 だが一方で、彼女たちに人間の常識も、また無い。

 

 そんな彼女たちは、基本的には『いたずら』好きだ。それは決して悪意ではなく、むしろ好意の表れである。

 

 そして彼女たちの辞書には……残念なことに、『自重』という文字が、存在しない。

 

 故に……

 

 

 

「きゃあああ!?」

「フレイヤ、手を……!」

 

 深い渓谷を落下する幼なじみの少女に、焦った様子で同じく落下中のクリムが手を伸ばす。

 

 事の発端は、目的地へ向かう途中の足場を分断していた巨大な亀裂に掛かる、人間が作ったらしき古い橋を渡ろうとしたこと。

 だがその老朽化した木造の橋は、中程から渡し板が欠落していた。

 

 ならば何故そんな場所をクリムたちが渡ったかというと……妖精たちの幻術だ。

 

 本来壊れた橋は、幻影によってまるで無事であるかのように見える術がかけられており、先頭を歩いていたフレイヤは、なす術なく落下した。

 

 そしてそのあとを追って即座に飛び出したクリムもまた、落下中の身であった。

 

 

『イエーイ!』

『大成功ー!』

『っじゃないわよバカ! お客様に何てことを……!』

 

 

 無邪気に喜ぶ妖精たちと、それを叱るフィーアの怒声もすでにかなり遠い。このままでは数秒の後、二人揃ってホームポイント送りである。

 

 

 

 ……一切の悪意なしに無邪気に仕掛けられる、洒落にならない即死トラップ。

 

 つまるところ『これ』が、妖精たちの言う『いたずら』なのである。

 

 

 

 ――このままでは、我とフレイヤはセイファート城から出直しになる……!

 

 すくみ上がるような落下感に晒されながら、クリムが現状を思い出して焦る。

 妖精郷に入ってからここまで、まだ一つもテレポーター・プラザは発見していない。ここで死んだらこれまでの全てが徒労となる。

 

「まだだ、まだ……必ず助けるッ!!」

 

 そう、クリムが『フレイヤを助ける』という一点に全神経を集中させた――その瞬間、クリムを取り巻く世界が動きを遅くした。

 

 長く引き伸ばされたような感覚の中で、クリムの身体だけが、普通に動く。

 

「と、ど、けぇえええッ!!」

 

 強く宙へと踏み出したクリムの履く黒いブーツ『天翔のブーツ』の特殊能力、『姫翔天駆』がクリムのMPを吸い上げて起動する。

 

 足の裏に展開した青い魔法陣を蹴って、さらに落下速度を上げたクリムが、現在落下中のフレイヤを追い越した。

 

 ゆっくりと落下していく風景の中で、フレイヤの体を受け止めるための構えを取りながら、背中の翼を大きく広げ、空気抵抗を上げて相対速度を合わせる。

 

 そしてそのまま、落下してくるフレイヤの身体を、横抱きに抱きとめた……と同時に、力一杯背中の翼をはためかせた。

 

「――っぐぅ!?」

 

 もうだいぶ落下してきた現在、その速度はかなり凄まじいものになっている。当然、その速度を受け止めたクリムの両肩にも、凄まじい負荷が掛かる、が。

 

「ま、だァ……ッ!!」

 

 歯を食いしばり、背中の翼をもう数度、羽ばたかせる。

 やがて徐々に速度が落ちてきて……そのまま、とりあえず手近な足場へとゆっくり近寄っていく。

 

 しかし……足がつく寸前で、羽ばたく力が尽きたクリム。

 

 そのまま腕の中にフレイヤを抱き締めたまま、ゴロゴロと地面を転がり……やがて勢いを失って、クリムが下になる形で止まる。

 

「だはぁああああっ!?」

「こ、怖かったああああっ!?」

 

 そうして地面のありがたさを痛感したクリムとフレイヤが二人、極度の緊張感から解放されて、抱き合って無事を喜ぶのだった。

 

 ――二人とも、ちょっと涙目だった、とか。

 

 

 

 

 

 と、助かったはいいが、状況は未だに危機的だった。戻る道が無いのである。

 

「さて……助かったはいいけれど、どうやって戻――」

 

 下手をしたら、死に戻りしか脱出手段が無いんじゃ……クリムがそんな不安に駆られながら、遥か高い場所にある元いた足場を眺めていた、その時だった。

 

「きゃっ」

「フレイヤ、どうかした!?」

 

 後ろのフレイヤから上がった小さな悲鳴に、バッと反応したクリム。その視線の先で……骸骨と、目が合った。

 

「ひゅ……」

「待ってクリムちゃん、ここで一人にしないでぇ!?」

「……はっ!?」

 

 一瞬意識を失いかけたクリムだったが、フレイヤの必死な揺さぶりにどうにか再起動を果たした。

 

「えっと……相当、昔の遺体だよね……?」

「うん……アンデッドの気配もないけど……ただのオブジェクトかなあ?」

「こんな場所に……?」

 

 クリムたちですら、ハプニングがなければ来なかったであろう断崖絶壁の中の小さな足場に、意味深に置かれた遺体。

 怪しさは満点であると、クリムはおっかなびっくり調べ始める。

 

 辛うじて形を残しているといった有様にボロボロに朽ちた鎧の形状を見るに……おそらくは、女性。それも、かなり小柄な少女だろう。

 

 だが、鎧はまるで巨大な獣に引き裂かれたように胴体の半ばから砕け、下半身は見当たらない。

 

 そんな中……左手があったであろう場所に転がっている十字盾だけが、今もなお真新しい輝きを保っていた。

 

 

『これは、暗黒時代の人間の騎士さんですねー、昔、この場所で世界樹を巡る争いがあった時に参戦していた人かなー』

「フィーアちゃん!?」

「おお、来てくれたのか!?」

 

 突然、フィーアから声が掛かる。

 どうやらここまで心配して降りて来てくれたらしい。現れた助け船に、二人は嬉しそうな歓声を上げる。

 

「して、暗黒時代の騎士、とな?」

『うん。ほとんどの人は、昔いっぱい来た帝国の人たちが埋葬していったんだけど、見つからずに残っていた人が居たんだねー』

「そう……その人たちが埋葬された場所は分かる?」

『うん、あまり遠くじゃないから、案内するよ!』

 

 そう言って、フィーアは上に戻るための風のエレベーターを、クリムたちが居る足場に作り始める。

 

 それを待つ間……クリムとフレイヤは、その少女騎士の遺体を可能な限り丁寧に袋へと収め、担ぐのだった。

 

「あとは、この盾だけど……ってちょっと待って待ってぇ、そういうつもりじゃ無いの!?」

「む、フレイヤ、どうした?」

 

 最後に、転がっていた十字盾を拾い上げたフレイヤが、慌てた声を上げる。

 

「どうしようクリムちゃん、この盾、取得しちゃった……私、泥棒するつもりは無いのに」

「あー、まあ、貰っておけば良いんじゃないかのぅ。たぶん、この人が託してくれたのではないか?」

「そうかな……うん、そうだよね?」

 

 クリムの言葉にようやく納得したようで、彼女は遺体へ祈りを捧げるように手を組んで黙祷した後、盾をあらためて担ぎ直す。

 

「すみません、この盾、大事に使わせて貰いますね」

 

 そう告げたフレイヤに……周囲から、何か女の子の嬉しそうな笑い声が聞こえた気がして、クリムは身体をブルっと震わせるのだった――……

 

 

 

 

 




【蘇生の盾:ヒルドル】
『戦乙女の祈り』
 天に掲げる事で、周囲に一定時間自動回復(弱)効果を持つフィールドを展開する。

 非業の死を遂げた少女騎士の、平和への祈りが込められた大楯。
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