Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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空戦

 

 

 ――飛竜(ワイバーン)種。

 

 この『Destiny Unchain Online』においては下位の竜の一種であり、主に前肢と翼が一体化したタイプのものを指す。

 個でほぼ完結している(ドラゴン)種とは違い、ワイバーンは群れて行動する。その脅威度は、決して上位竜に劣るものではない。

 

 

 飛ぶ事に特化した分、竜種よりも高い敏捷性。

 

 多少ながら魔法に対する耐性を持ち、矢や銃弾を弾く、強固な鱗。

 

 威力は竜の中では弱いながら、十分な威力と射程、そして速射性を持つブレス。

 

 そして何より、集団戦を得意とする高い知能。

 

 

 それらを兼ね備えた難敵である。それが群れをなすのだから、その厄介さは推して知るべしであった。

 

 

 

 

 そんな飛竜種から最初こそ奇襲を受けたものの……そこは百戦錬磨のクリムたちルアシェイア。クリムと雛菊の二人で、危なげなく敵先鋒であった二体の飛竜を撃破した。

 

 ……だが、問題はそこからだった。

 

「クリムちゃん、このままじゃヤバいよー!?」

「う、うむ、分かっておるが……!」

 

 風を圧縮したブレスの雨に晒されながら、盾を構え皆を守る光波の障壁を展開しているフレイヤから泣き言が届く。

 

 しかし、手にした『ガングニール』でまた一体の飛竜を撃ち落としながら、クリムも焦った声を出す。

 

 今クリムたちを守っているのは、フレイヤの『波光盾』というスキルによる防壁。

 魔力を防壁にするそのスキルはフレイヤの魔力の高さもあって高い堅牢さを持っていたが、しかし発動中はMPを消費するためいつまでも張れるものではない。

 

 このままでは……そう気は急くが、しかし飛竜たちが上空にいる以上は不利な射撃戦をする以外にどうにもならない。

 

 

 ――最初のエンゲージでクリムたちを高脅威目標と認めた飛竜たちは、直接の接敵は避けて、戦法を安全策へと切り替えたのだ。

 

 

 上空というアドバンテージを生かし、高所からの風のブレスが雨のように降り注ぐ。

 しかし一方で飛竜の一部は、慌てて逃げようとフレイヤが張る防壁から離れた者を虎視眈々と上空から狙っているのを、ひしひしと圧力として感じる。

 

「もー、蜥蜴の癖に悪賢いんだから!」

「こらー、さっさと降りてくるです!!」

「チキン戦法腹立つぅー!!」

 

 悠然と空から攻撃してくる飛竜たちに、カスミ、雛菊、セツナら近接組からブーイングが飛ぶ。

 

 こちらは空を飛べるのはリコリスしかいないが、彼女は銃での迎撃に精一杯。あとはこのブレスの雨の中を、遠距離で撃ち合うしか……

 

 

 ――いや、いけるか?

 

 

 今はもう一人、空を飛べる者がいた。クリム自身だ。

 

 数匹のワイバーンを撃ち落としたところで手にした『ガングニール』の弾倉が弾切れしたのを確認したクリムが、インベントリに銃を仕舞い込みながら思索する。

 

 先程フレイヤと共に崖下に落下した際に、無我夢中で多少なりとも飛行した経験により、飛翔するための翼の動かし方は少し理解した、と思う。怪我の功名というやつだ。

 

 まだまだ不十分とはいえ、これまでの鍛錬の成果を試す絶好の機会だ。そう判断したクリムが、ぐっと大きく展開した翼に力を込める。

 

「クリム?」

「すまん、こっちは任せるぞフレイ、我が連中を引っ掻き回すために空に上がる。援護頼んだ!」

 

 隣で必死に攻撃魔法を放っていたフレイへとそう告げて……クリムがバサリと翼を羽ばたかせると、その小柄な体が結構なスピードで上空へと舞い上がった。

 

「……ほう、これはなかなか……良いな!」

 

 己が体で空を舞うという、ある種、人類の夢でもあるその感覚。

 翼を振るうたびに眼下の光景が激しく流れる光景に、己が身一つで重力を振り切る全能感を受けて、クリムは楽しそうな歓声を上げる。

 

 しかし、そんなむざむざ宙に飛んできた新参者を、飛竜たちが見逃すわけもない。ちょうど良く餌が飛んできたとばかりに、一匹の飛竜の鋭い牙が並ぶ顎門がクリムへと迫る。

 

「む、せっかちな奴じゃ……な!」

 

 ドンッ!

 

 強く空気を叩く翼、そして宙を滑るように飛び出すクリムの体。同時に、手の内に顕現させた、長大な刃を持つ漆黒の影でできた武器……刃だけでもクリムの身長の半分はあろうかという巨大な長槍を振るう。

 

 クリムの強大な魔力で練り上げられたその黒槍が遠心力を存分に載せて振るわれ、深紅の光を纏ってすれ違い様に狙い違わず飛竜の首を薙ぎ……哀れにも、その飛竜は致命的な一撃(クリティカルヒット)によってクリムの空戦キルマーク最初の一頭となって、力無く地面へと落下していった。

 

 ざわざわと、警戒した動きに変化する飛竜たち。

 

 赤いオーラを纏った槍を手に宙に滞空するクリムの周囲を、距離を空けて旋回している、まだまだ多数居るその飛竜の群れに……クリムはニッと口の端を歪め、牙を剥いて不敵に笑う。

 

「さて……すまぬがお主らには、我の慣熟飛行に協力してもらうぞ……ッ!!」

 

 そう、一つ愉しそうに吼えると、地を這う狩られる獲物から宙を舞う狩る側へと入れ替わった少女が、大きく翼をはためかせて疾駆を始めるのだった――……

 


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