Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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小休止

 

 

 ――クリムたち一行が無事、飛竜の撃退に成功して。

 

 

「むぅ、まだ足元がふわふわした感じがするのう……」

「クリムちゃん、凄かったよ!」

「なんつーか、まあ、もう何見せられても驚かんぞ俺は」

 

 飛竜が撤退し、ようやく地に足をつけたクリムが何やら微妙な顔をしながら戻ってくると、今回は後方待機だったハルとスザクが、そんな労いの言葉を掛けてくる。

 

 一方で少し離れた場所ではダアトがジト目で睨んできているのだが……まあ多分「またスザクの見せ場を奪った」とか思われておるんじゃろうなあと、クリムが苦笑していると。

 

「で、クリム、そろそろ休憩にしないか?」

「む……なんと、もうこんな時間になっておったか」

 

 フレイの提案にようやく時計を確認し、クリムは驚きの声を上げる。ゲーム内はすっかり日が落ちたが、リアル時間では朝の九時からのんびりとログインして、現在はすでに三時間近く経過しようとしていた。

 

 つまり……丁度、お昼の時間である。

 

「それじゃあ、キャンプキット使うねー」

「うむ、ではここをキャンプ地とする。フレイヤ、よろしく頼む」

 

 そうクリムが頷くとほぼ同時に、カバンから一つの消費アイテムを取り出したフレイヤが、それを宙へと放り投げる。

 すると草原にみるみる現れたのは、テントと焚き火がセットとなったキャンプ地。

 

 

 キャンプキット……公式で販売している課金の消費アイテムで、さまざまな恩恵を預かる事のできるキャンプ地をフィールドに設置するアイテムだ。

 普段クリムたちは滅多にこうした課金アイテムは使用しないのだが、今回は長丁場を覚悟していたのでいくつか用意していたのだった。

 

 

 そうしてパチパチと爆ぜる焚き火を囲むと、次に思い出すは昼食をどうするか。

 こうしてキャンプを開き焚火を炊いた瞬間にもうお昼時であるという事実を思い出し、たちまち空腹感が襲ってきた。

 

「皆も、そろそろお昼ご飯の時間じゃよな?」

 

 クリムの確認に、真っ先に返事を返したのはリュウノスケ。

 

「おっと……たしかにそうだな。それじゃ俺は、何か飯作ってくるわ」

「はいパパ、ありがとうなの」

「ごめんなさい、任せても良いかしら?」

 

 嬉しそうなリコリスと違い、少し申し訳無さそうにしているサラへと苦笑しながら、リュウノスケが二人に頷く。

 

「おう、たまの休みの日くらい娘と一緒にゆっくりしてな。ジェードも食いにくるよな?」

「はいっ、ワイン持参でご相伴に預かります! 白と赤ではどちらが良いですか?」

「そうだな……んじゃ魚介系にするから白で」

「畏まりましたぁ!」

 

 そう言って、リュウノスケが真っ先にAFK (Away from Keyboard)表示を出してその場で眠ってしまった。続いて、尻尾をブンブン振って喜色を示していたジェードも同じく眠りにつく。

 

 ちなみにこれはログイン状態を維持したまま現実へ帰還したのを示すもので、本当に眠っているわけではない。むしろ逆に、リアル側でリュウノスケらは起きて活動している筈だ。

 

 そして普通であれば無防備なために忌避されるこのAFKという状況だが、しかし今みたいにキャンプ中であれば、その安全はシステムに保証される。

 

 試しにクリムが寝転がっているリュウノスケに触れようとすると、周囲に『impenetrable territory』という表示と共に不可侵領域が現れ、決して触れることはできないようになっていた。

 

「リュウノスケさん、料理するんだ?」

「はいなの、パパはパスタや、あとお肉焼くのが上手なのです」

 

 フレイの意外そうな声に、どこか自慢げな調子で答えるリコリス。そんな裏でクリムは「典型的な男が得意そうなメニューじゃなぁ……」とこっそり思っていたのだが、言わぬが花である。

 

「はー、良いお父さんですねぇ」

「あら……ええ、本当に。フレイヤちゃん、ありがとう」

 

 旦那が褒められて嬉しかったのか、珍しく頬を緩ませるサラ。そんな彼女たちも、すぐにリュウノスケを追って母娘で抱き合いながら眠りに就き、離席してしまった。

 

「私も、丁度お母様に呼ばれたから行ってきますです!」

「私は……うち、両親が出かけちゃったし、何か買ってこようかなー。それじゃ、また後で」

「それじゃ、私も便乗して失礼するわ!」

 

 そう、パッとその場に寝転がって退席していったのは雛菊とカスミ、そしてセツナ。

 

 気づけばハルやスザクもダアトを伴いいつのまにか姿を消しており……すっかり皆が眠りにつき、焚火の周りに残るはクリムたち三人だけになっていた。

 

「それで、フレイとフレイヤはどうする、うちに食べに来る?」

「あ、いや、大変じゃないか?」

「クリムちゃんも疲れているだろうし、あまり面倒を掛けるのは……」

 

 そう遠慮しようとする二人だったが、しかし長い付き合い故に、そんな二人の反応はクリムには織り込み済みだ。

 

「今日の昼はチキンカレーじゃぞ、朝のうちに仕込みも済ませとる」

『ご飯も、丁度炊けました!』

 

 クリムと、家電の状態を監視していたルージュのそんな言葉に……二人は、諦めたように苦笑する。カレーの誘惑は抗い難いらしい。

 

「お前、最初からそのつもりだったな……」

「あはは……それじゃ、お言葉に甘えて。今からそっちに行くね」

 

 そう言って、二人も焚き火の側で横になり、退席していった。残るは……

 

「お主は、どうするのじゃ?」

『あ、あたし?』

 

 自分に話が回って来るとは思っていなかったようで、キョトンと目を丸くする……ルージュと共にクリムの肩に腰掛けていた妖精の少女、フィーア。

 

「うむ、我らは皆、一度席を外すのじゃが……」

 

 ルージュも一度ホームサーバーへと帰るだろうし、クリムは一人ここに残る事になる彼女を心配して尋ねる。

 

『うーん、あたしはちょっと巣に戻って一眠りしてこようかなー? 大丈夫、案内してあげる約束だったから、皆が戻ってきたらまた遊びに来るよ』

 

 その言葉に、クリムがホッと安堵の息を吐く。

 どうやら、これでお別れとはならずに済むようだ。クリムはいつのまにかこの妖精の少女のことを、存外気に入っていたらしい。

 

「そうか……では、またよろしく頼む」

『はぁーい、それじゃ、またね!!』

 

 夜闇に輝く鱗粉を撒き散らして、フィーアが去っていく。それを見送ってからクリムも目を閉じると、AFK表示を残して現実世界へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「「冬休み?」」

 

 カレーの配膳を済ませ、皆で揃っていただきますをした直後……昴から投げかけられた質問に、紅と聖が揃ってスプーンを咥えながら首を傾げる。

 

「ああ、僕ら来週から冬休みだろう? せっかくだし、どこか旅行にでも行って何かやりたい事はないかって」

「スキー行きたい!」

「私温泉ー!」

 

 昴の質問に、紅が、聖が、食い気味に挙手して提案する。

 

「スキーに、温泉か……両方とも、一緒に出来そうだな」

「雛菊ちゃんがたしか温泉もスキー場もある山岳地帯の神社に住んでいるんだったよね、相談してみる?」

「そういえば、そう言ってたね。うん、戻ったら聞いてみようか」

 

 そんな話題に花咲かせながら、各々がカレーをやっつける。

 

 

 

 

 

 ……こんな他愛ない会話が、よもやお正月にあのような慌しい事態になるなど――この時の紅たちは、夢にも思っていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 





 ちなみにクリムちゃんは鶏肉は少しなら克服したトカ。

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