Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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私の勇者様

 

 

 ――昼休憩も終わり、戻って来たフィーアの案内によりやって来たのは、妖精郷最北端の一角。

 

 

 

「これが、お主の言っていた心当たりかの?」

 

 今、クリムたちの眼前に広がるのは、古い遺跡の廃墟。その下にはすっかり荒れた石造りの床とそこに刻まれた魔法陣らしき何かがあり、クリムが首を傾げながらフィーアへと尋ねる。

 

『うん、この遺跡なんだけど……どう、目的のもので合ってるかな?』

「ふむ、どうじゃろうな。セイファート城側にあった祠の魔法陣によく似ておるようじゃが……」

 

 そう言いながら、機能していない魔法陣の中心に軽く魔力を流し込み、アクセスしてみる。

 

 すると――まるで狭い溝に少量の水が行き渡るように、クリムの魔力を受けて魔法陣は碧色に輝き、光る粒子をまるで蛍の群れのように夜天に舞い上がらせた。

 

 

【『妖精郷』と『泉霧郷ネーブル』との転送陣が解放されました】

 

 

 幻想的な光景に皆からの歓声が上がる中、そんなワールドアナウンスが、クリムたちの視界端に表示される。

 

「……うむ、間違いない。どうやら、これが我らの街にある祠へ続く転移装置みたいじゃな」

『そう、良かった!』

「うむ、これで往来が格段に楽になる、感謝するぞ」

 

 ホッとしたように笑うフィーアに、クリムは礼を述べる。

 

 とはいえ、本来であれば立派な祠だったのだろう建物は、すっかり崩落して廃墟になっている。

 肝心の転送装置こそ無事だったが、雨ざらしでボロボロになっているのではいつ動作不良を起こすか分からないため、このままただ放置はできないだろう。

 

 やれやれ、また修繕費が嵩むな……そう頭を抱えつつ、顔を上げると。

 

「む、一人足らんな……?」

 

 周囲に居る同行者たち、その中に、さっきまでは確かに居たはずの非戦闘員の人物……ダアト=クリファードの姿が見当たらなかった。

 

「あのバカ……魔王様、連れ戻して来るわ」

「うむ、出発は十分後にしよう、あまり急がなくても大丈夫じゃぞ」

 

 そう告げると、スザクは了解とばかりに手を挙げて返事をしてから暗闇の中へと消えていった。

 一瞬、共にダアトを探すのを手伝うことも考えたが……しかし、野暮もよくないなと、クリムは手近に転がっていた丁度いいサイズの瓦礫に腰を下ろす。

 

「……あの子、さっきの休憩時にもフラッと姿を消したのよね」

「む、ハル先輩、そうなのか?」

 

 不意に語られたハルの言葉に、クリムが微かに驚く。更には、別の証言も。

 

「ダアトさん、この妖精郷に入ってからなんだか様子が変でした」

「そうなのか、ルージュ?」

「はい、洞窟内では元気だったのに、洞窟を出てこの高原に入ってからは、心ここに在らずといった感じで……」

 

 しきりに気にしているルージュに、クリムも考え込む。今、この場にはベリアルの目撃情報があるのだ、無関係とは思い難い。

 

「そうか……ルージュ、すまんがダアトの様子を気にかけてもらって良いか?」

「はい、了解です、お姉ちゃん!」

 

 念のためのクリムの頼みに、そうルージュは快諾するのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――何かが起きる、予感がする。

 

 どうしても気になって仕方のない、西の方角。しかしどれだけ目を凝らしても、日の沈んだ今はその先など見えるはずもない。

 

 だが……何故かこの方角を眺めていると、無性に心が不安に騒めく。まるで、この先に進んではいけないと本能が叫ぶように。

 

 だが、それを皆に伝えようとするたびに声が出なくなる。まるで、彼らの行く道を邪魔してはいけないというように。

 

 たとえ……その先に待っているのが、どのような結末だったとしても。

 

 

 

 

「何やってるんだお前、こんなところで」

「あ……スザク?」

 

 崖から鋭く迫り出した岩の先端に腰掛けて、脚を宙にぶらぶらさせながら彼方を見つめていたところ……不意に背後から掛かった声に、はっと取り留めない思索から抜け出して振り返る。

 

「お前、さっきの休憩時もフラッと居なくなっただろ」

「あ……うん、ごめん」

「全くだ……あまり目の届かないところに行くなよな、不安になるだろうが」

 

 そんな事を目を逸らしながら呟く彼に、ついつい意地悪に頬が緩むのを感じていた。

 

「ねぇスザク、それ、心配してくれてる?」

「ああ心配だとも、見えないとこでまたお前が何かやらかしていないかってな」

「あ、スザクひどーい!」

「酷いのはお前の普段の行いだからな、ちっとは反省しろバカ」

 

 そんないつもの他愛無いやりとり。たったそれだけで、随分と心が軽くなっていくのを感じる。

 

「少しは、元気戻ったみたいだな」

「……え?」

「なんでもねーよ。十分後に出発だそうだ。迷子になるんじゃねーぞ?」

「うん……ありがと、スザク」

 

 ふん、と鼻を鳴らして去っていく背中に、思わず少女――ダアト=クリファードが、慌てて立ち上がりながらも苦笑する。

 

 

 ――ぶっきらぼうで口が悪くて、でも目覚める前の記憶がない自分になんだかんだで優しかった人。

 

 ――困っている人を見過ごせないくせに、そのくせ面倒は嫌いだと放っておくと一人でいる、困った人。

 

 でも彼は、最近は自分と二人きりじゃなく別の女とも行動を共にする事も多くて、なにかとモヤモヤするものを感じていたけれど……少し、彼が一人ではなくなったことに安堵している自分が居るのも、ダアト=クリファードは自覚していた。

 

 

 そんな彼の背中を眺め……

 

「ありがとう……私の、勇者様」

 

 少女は、聞こえないくらいの声量でそう呟くと、前を行くその背中を追って駆け出すのだった。

 

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