Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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冥界樹クリファードの種

 

 ――皆、決して、油断したつもりは無かった。

 

 だがしかし、世界樹セイファートの威容を目にしたクリムたちの意識には、やはり一瞬とはいえ空隙が発生していた。

 

 それは、この世ならざる美しいものを目にした者には抗いようの無い隙だった。

 

 そして……その瞬間を狙い澄ましていた者が、その場には居たのだった。

 

 

 

 ◇

 

「きゃあ!?」

「ダアトさん!?」

 

 突如背後から響いた悲鳴に、揃って世界樹に魅入っていた皆が、バッと振り返る。

 

 そこには、フィーアたちに庇われながら後退してくるルージュ、そして……いつのまにか地面から網のように生えていた赤黒い蔦に全身を縛り上げられた少女――ダアト=クリファードの姿があった。

 

「しまっ……ダアト!」

「ダアトちゃん!?」

「スザク……ハルぅ……っ!」

 

 咄嗟に手を伸ばしたスザクとハル、そして必死にその手を取ろうとしたダアトだったが……それも一瞬間に合わず、凄まじい勢いで上空へと弾き出されたダアトの小さな少女の体は、そこに居た人物の手の内へと収まっていた。

 

 その、宙からクリム達を見下ろしていたのは……赤と黒のゴシックなドレスに身を包み、紅黒い茨と蔦を纏う、赤い髪の樹精霊。

 

「貴様、ベリアル!!」

「ええ、ようこそいらっしゃいました、赤の魔王様と黒の魔王様、それに勇者さんも。案外とゆっくりの到着だったわね?」

 

 その姿を見て叫んだクリムへと、ベリアルの腕が余裕たっぷりに振るわれる。

 その瞬間、大地から生えて来た新たな蔦が、咄嗟に漆黒の大鎌を生成しガードしたクリムの体を大きく吹き飛ばした。

 

「ぐっ……気をつけろ皆、こやつ、以前とは力が段違いじゃ!」

 

 まるで暴風のように振るわれる無数の蔦をどうにか斬り払いながら、クリムが皆に注意喚起する。それを受け、皆もリューガーとフレイヤを中心に、雛菊とエルネスタが皆を守る布陣を咄嗟に構築する。

 

 だが、ルルイエで交戦した時より一撃一撃がかなり早く、重い。その猛攻はどうにか耐え凌ぐも、皆それ以上進む事が叶わず防戦一方となってしまう。

 

「あらぁ、当然でしょう。ここは、言うなれば私のホーム。これだけの浄化前の魔力があるのだから、いくらでも汲み捨てられるのよ?」

 

 そう、自慢げに胸に手を当てて語るベリアル。

 この場は大陸の魔力を循環する場であり、湧き出す清浄な魔力以外にも、セイファートが浄化するために大地から汲み上げている負に染まった魔力もまた、集まっているのだ。

 

 そしてそれは、ベリアルの力にもなっている。

 

「さて……スザクと言ったわね、この出涸らしから渡された紅剣をよこしなさい」

「何……?」

「ダメだよスザク……あぐっ!」

「囚われのお姫様は黙ってて」

 

 スザクを制そうと叫んだダアト=クリファードだったが、その首に蔦が絡みつき、強制的に黙らせられる。

 

「生憎と、拒否権は無いわよ。あなた達が何かするよりも、私がこの出涸らしの首を砕く方が早いけど、どうする?」

「…………分かった」

「だ、め……っ!」

 

 ベリアルの言葉に、観念したようにスザクが足元の地面へと紅剣を突き刺す。

 制止しようと必死に声を絞り出すダアトだったが……それも虚しく、剣はベリアルの操る蔦に絡め取られて奪われ、ベリアルの手へと収まった。

 

「へえ……あの後も、まめに頑張っていたのね。なかなか良い肥料が集まっているじゃない?」

「ひ、りょう……?」

 

 剣を検分しながらのベリアルの呟きに、朦朧としながらも聞き返すダアト。

 そんな少女に愉しげな笑顔を浮かべ、ベリアルは嬉しそうに解説する。

 

「ええ、そう、肥料。そのへんの生物に因子を埋め込んで、陰気を取り込ませる。そのうち成長してきたらちゅー、ちゅーって吸い出して、溜め込んでおくの」

「まさか……」

「そう、あんたが良かれと思って作ったこの剣、これね? 冥界樹クリファードを育てるための肥料を採取するためのものなのよ」

「そんな、私は……そんなつもりじゃ!?」

 

 完全に動転しているダアトからは、演技らしき色は全く感じられない。本当に知らず利用されていたのは間違いないようだった。

 

「……随分と回りくどい、酷い真似をするな」

 

 ギリギリと歯を食いしばりながら睨むスザクに、ベリアルは愉快そうに見下ろしながら嗤う。

 

「そりゃまあ、何を考えているのか分からない怪しい女よりも、無邪気でチョロそうな女の子が頑張っている方が、あなた達は自発的に頑張ってくれるでしょう?」

「てめぇ……!」

「激昂するのは後じゃスザク! 皆、あの紅剣をどうにかするぞ! ソールレオン!!」

「分かっている、まだ余裕のある我々がベリアルを抑えるぞ!」

 

 クリムの指示に、防戦で手一杯な皆の中から飛び出すクリムとソールレオンだったが……

 

「――ぐっ!?」

「――何じゃと!?」

 

 そんなクリムらが、体ごとぶつかってくる、非常に堅固な体を持つ『何か』に弾き飛ばされた。

 

 そのクリムとソールレオンに殺到する黒い何か、ギチギチと関節が軋む音を立てて、次々舞い降りてくるその影は。

 

「これは……バアル=ゼブル=エイリーの配下の蟲達!?」

「何故お主が使役している!?」

 

 行く手を阻む見覚えのあるさまざまな形状の蟲たちに、ソールレオンとクリムが揃って驚愕する。

 

 だが、肝心のエイリーはまだ力は戻っておらず、今はもうクリム達に敵対の意思もない。今はセイファート城でダラダラしているはずなのだ。

 

「何を驚いているのかしら、花は、蜜を餌に虫を呼び寄せて利用するものでしょう?」

 

 そんな慌てるクリム達をしてやったりという表情で見下ろすベリアルが、捉えたダアトの髪をグイッと引っ張り、その耳元に口を寄せる。

 

「いい事を教えてあげるわ、出涸らし」

 

 剣の状態を確かめていたベリアルが、その剣を逆手に持ち替えながら、そんな事を呟く。

 

「あんたは、私にとっては不要な善性を剥離した、文字通り出涸らしよ。だけど」

 

 ニィ、と口の端を吊り上げるベリアル。

 その表情にハッとなったクリム、ソールレオン、そしてスザクが蟲たちを踏み越えて肉薄するが――しかし、一手間に合わず。

 

「この肥料が必要な、世界樹を冥界樹に浸食する基点、『冥界樹クリファードの種子』は私じゃない――あんたの中にあるのよ」

「え――」

 

 何を言われたか分からない……そんな表情をするダアト=クリファードの胸へと、彼女が作った紅剣が突き立った。

 

「ダアト!!?」

「あ、すざ、く……」

 

 胸を穿たれたダアト=クリファードに、剣から一瞬で何かが流れ込む。それを見送ったベリアルは、満足気に紅剣を抜き去ると、もう用はないとばかりに剣を無造作に遠くへと放り捨てた。

 

「嫌、嫌だよ、こんな……あ゛……ッ!?」

 

 胸を押さえて苦しむダアト=クリファードの周囲に、爆発的に広がる黒い何か。

 それを横目に、クリムは即座に翼を開き蟲達を飛び越えて、上空にいるベリアルへと斬りかかった。

 

「ベリアル、貴様ぁあああッ!!」

「くっ……貴女は、本当に厄介ね!」

 

 クリム渾身の一振りは、しかしベリアルの構えた片手剣に阻まれた。

 喉元ギリギリまで迫ったクリムの漆黒の刃にベリアルも冷や汗を浮かべながら、しかし勝ち誇った様子でクリムへと嗤う。

 

「けど、まあ……土壇場で日和った奴とはいえ、『クリフォ1i』を目覚めさせた貴女と、こんな場所で戦う気は無いわ」

「何の事だ、ベリアルッ!?」

「さあ? 知りたければ、旧帝都まで来る事ね!」

 

 クリムの手元から、鍔迫り合いの手応えがフッと消失する。

 それだけを言い残して、ベリアルがもうここでの用事は済んだとばかりに、その姿を消してしまっていた。

 

「チッ……スザク、ダアトの様子は!?」

 

 忌々しげに舌打ちしつつ、今はそれどころではないと気を取り直し、バッと振り返ったクリムの視線の先に広がる光景は――想像を絶するものだった。

 

 眼前を覆いのたうち回る、世界樹セイファートの神域を浸食していく凄まじい量の黒い茨。

 ダアト=クリファードの姿は、茨の密集するその中心にあった……否、ダアト=クリファードこそが、その中心だった。

 

「ダアト、バカ野郎、さっさと手を伸ばせ!!」

 

 失った赤剣の代わりに抜いた『魔剣グラム・偽典』を必死に振り回して、次々と伸びてくる黒い茨を切り払いながら、必死の形相でダアトへ手を伸ばすスザク。

 

 だが、同じく必死にスザクへと手を伸ばしているダアトの腕に茨が絡み付いたかと思うと、そのまま彼女の身体はズルズルと茨の中心へと引き摺り込まれていく。

 

「やだ、やだよ……スザク、私の勇者様、助け――」

 

 ――その瞬間、ダアトの周囲から、無数の黒い茨が次々と伸びて来て、最後の抵抗を図る彼女を戒め、絡め取り、着飾っていく。

 

 それが済んだ時、そこには……花と蔦で編まれた黒いドレスを纏い、表情の抜け落ちたダアトが、周囲の草花を黒く染め上げ、浸食し、朽ちさせながら佇んでいた。

 

 そして彼女を浸食したその茨たちは、貪欲にも周囲の妖精たちを、クリムたちを、新たにターゲットに定めて迫っていた。

 

 その瞳に……今までそこに居たはずの少女の意思は、感じられない。

 

「嘘、だろ……お前、こんな呆気なく……」

 

 もはや、つい先程までの闊達な少女の片鱗さえも見えなくなった眼前の存在に、スザクは愕然としてグラムを持つ手を下ろし、戦意喪失しかけている、が。

 

「違う、間違っているぞスザク! 呑まれるな、これはゲームじゃろうが!!」

「……っ!?」

 

 クリムの言葉に、ハッとなるスザク。

 

 強制バッドエンドなど、あるはずがない。

 たとえあったとしても、絶対に認めない。

 

 事実これまでも、この『Destiny Unchain Online』ではどれだけ絶望的に見えた状況でも必ず道は残っていたのだから。

 

 それに、メタ的に言えばこんなごく一部地域の突発イベント如きであっさりゲームオーバーになるはずがない、これはMMORPGなのだから。

 

 まだ、終わってなどいない。ここからがクリム達の立ち向かうべき、スタート地点だ。

 

「探すぞ、ダアト救出の道筋を!」

「……ああ、すまない魔王様、もう大丈夫だ!」

「総員、最優先目標……『ダアト=クリファード』の救出じゃ、行くぞッ!!」

 

 ――このまま、終わらせはしない。

 

 クリムの号令に、ルアシェイア、北の氷河、全てのメンバーが「おおッ!」と鬨の声を上げて武器を構え直すのだった――……

 

 

 

 

 

 

 




D◯D…… Ni◯R……うっ頭が……っ!
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