Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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少女の勇者様

 

 悠然と、無言を貫き佇む黒いドレスを纏うダアト=クリファード。その目は何も映してはおらず、しかしその周囲は次々と出現する蔦と茨に埋め尽くされようとしていた。

 

 ――冥界樹クリファードの種子。世界樹セイファートに迫る、本来ならばとうに反転していたはずの対存在を目覚めさせる大災厄。

 

 そして……その周囲には、以前にバアル=ゼブル=エイリー戦で見た、絶対障壁『アブソリュートディフェンス』が展開し、外界のあらゆる干渉を拒絶していた。

 

 

【Absolute Defense】

【1000000/1000000】

 

 

「ひ、百万、ですか……?」

「こんなの、削り切れるの……?」

 

 表示された絶対障壁の数値に、さしものルアシェイア・北の氷河連合も騒然となる。エイリーの時の十倍、しかも今回はあの時みたいに軍団(レギオン)ではないのだ。

 

 しかも、時間制限こそ表示は無かったが、ダアト=クリファードを中心に浸食領域は広がり続けている。これが世界樹セイファートに到達した時、おそらく碌でもない事になるのは間違い無かった。

 

 救いは、ダアト自身はほとんど動いていない事。反撃自体は苛烈ではあるものの、接近して来る者、攻撃を仕掛けて来る者に反射で攻撃しているだけな事か。

 

 それに……

 

「構わねぇ、俺らの目的はあいつをぶっ倒す事じゃ無くて、引っ叩いて連れ帰る事なんだからな! そうだろう、魔王様!!」

「うむ……よく言ったスザク、皆、臆する必要は無い、我らはひたすら全力を叩きつけるだけじゃからな!!」

 

 そんな勇者(スザク)魔王(クリム)の咆哮に、今ここに全てを賭した、眠り姫を叩き起こすための総力戦が開始されたのだった。

 

 

 

 ――そうして、クリム達が有するほとんどのリソースが、十分間未満という瞬く間に完全に尽きた。

 

 

 

 真っ先に全員のEXドライヴが消費し尽くされ、MPを絞り尽くした大魔法が乱舞し、あらゆる戦技が舞い乱れ……それでもダアト=クリファードの周囲に展開する絶対障壁は半分以上残っている。

 

 絶望的なその名前通り絶対の障壁を前に、しかしほとんどの者が既に力尽きながらも、それでも全員の目はまだ死んでいない。

 

 特に……少女と最も付き合いの長い、赤毛の勇者は。

 

 

 ――そうして、この世界樹セイファートの聖域で巻き起こった戦闘は今、早すぎる最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 ◇

 

【警告:間もなく痛覚緩和処理の処理限界を迎えます。ただちに戦闘を終了して、ログアウトを推奨――】

 

「しねぇって言ってんだろうが……ッ!!」

 

 何度目かの、本来であれば有り得ないはずのそんなシステムからの警告メッセージが終了する前に、スザクが拳を【YES/NO】が本来表示される予定の場所、NOの位置に叩きつけて黙らせる。

 

 現在誰よりも前で『竜血の英雄(ジークフリード)・偽』を発動させたスザク。その体には無数の黒い蔦や茨が突き刺さり、もはやHPゲージは1と0を往復して点滅するだけの無駄な物と化していた。

 

「スザク君、あまり無茶は……!」

 

 捨て身にしか思えない無茶苦茶な突撃を繰り返すスザクに、ハルが悲鳴混じりの制止の声を上げる、が。

 

「いいや行け、スザク!!」

 

 そんなスザクの頭上へと跳んだクリムはハルのそれとは真逆、スザクの背を蹴り飛ばす言葉を投げつける。

 

「これは他の誰でも無い、お主にしかできん役目じゃろう! 最もあやつと繋がりが深いお主の、想い全てをぶつけるために往くがいい!!」

 

 叫ぶクリムが、莫大な赤い光を纏う大鎌を振り下ろす。それは黒い蔦に覆われた大地を切り裂いて、ダアト=クリファードまで続く一本の道となった。

 

「これで打ち止めだが、お前に託す!」

「行ってスザクさん、そしてダアトちゃんを!」

 

 MPを絞り尽くしてフレイの放った氷の壁、それと同じく最後の力で放ったフレイヤの展開した光の障壁が、クリムの作った道の両端を補強し黒い蔦を防ぎ、ただ一直線に目的地へ続く道を作る。

 

「……ああ、そうだな。あの傍迷惑なクソガキ、ぶん殴って連れ戻して来てやる!」

 

 そうしてクリム達により開かれた道を駆け抜けたスザクが、全力を込めて手にした剣を振り下ろした。

 

「何が、冥界樹の種子だ気取りやがって! いいか、お前はな!!」

 

 渾身の一撃が弾かれて無防備を晒したスザクの全身を、貫く蔦。

 右腕が肩から千切れ飛び、後方で地面に転がった『魔剣グラム・偽典』が甲高い金属音を響かせる。

 

 武器を失い、だがそれでもスザクは残る左手を固く握りしめて、障壁を力の限り殴りつけた。

 

「――生意気で!」

 

 更に伸びてきた蔦がそんなスザクの左拳を貫いて、肘のあたりから抜ける。

 内部をズタボロにされた左手はもはや動かないが、構わず今度はその頭を障壁へと叩きつける。

 

「――わがままで!」

 

 更に遅い来る蔦が、右目を、喉を、全身を貫く。

 当然ながら致命傷であるが、すでに『竜血の英雄(ジークフリード)・偽』を発動させたスザクは止まらない。

 

 

【『竜血の英雄・偽』効果中の致死ダメージ回数が、規定数を越えました】

 

 

 潰れた片眼分狭まった視界の中で、何かログが流れた気がするが、今のスザクには気にする余裕は無かった。ただがむしゃらに、血まみれな頭を障壁へと叩きつける。

 

「――無駄にいつも楽しそうな、阿呆のただのクソガキだッ!!」

 

 ――血を吐くように叫んだそんな時、スザクの両腕が光輝く何かで構成し直され、白く輝く鎧のようなものに包まれた腕が再生された。

 

 

【感情の振れが、規定値をオーバーしました】

 

 

 そんなログが流れたのも意識に無く、失ったはずの両腕が再生された事にも気付かず、スザクは組んだ両手をダアトの展開する絶対障壁へと叩きつける。

 

「だから……こんな馬鹿なことやってないでさっさと帰って来やがれこの馬鹿野郎がぁッ!!!」

 

 再度、力一杯に障壁へ叩きつけられるスザクの両腕。

 まるで鋭い爪を備えた甲冑の小手のようなものに覆われたその腕に、渦巻くように赤い光が纏わり付き……それは、障壁を全力で叩いた瞬間眩い閃光となって、周囲を照らし出した。

 

 

 ――それで、システム側によって耐久力が厳密に定められた絶対障壁が都合よく割れる、などという事は当然ながら起きない。

 

 だが……

 

 

「――ス、ざク……?」

 

 

 それでも――その一撃の衝撃により、少女は微かに光の戻った目を見開き一筋の透明な雫を頬に伝わせて、か細いながらも確かな声を上げたのだった――……

 

 

 

 

 

【条件を満たしたため、プレイヤー名『スザク』の種族が進化しました】

【プレイヤー『スザク』が、スキル『クリフォ1i バチカル.Lv1』を取得しました】

 


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