Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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約束

 

「――ス、ざク……?」

「……! ダアト、目覚めたか! 待ってろ、今……」

 

 か細いながらも声を発したダアト=クリファード。

 そんな変化に歓喜しながら、スザクは再度腕を振りかぶる、が。

 

「違う、違うの。思い出したの……全部」

 

 首を振り、語り始めるダアト。その表情には、先程までは無かった深い陰が差していた。

 

「私……私がね、やっぱり初代皇帝ユーレリアに付き従った本物の『ダアト=クリファード』だったみたい。ベリアルが言う通り、私は全部無くした出涸らしだったのよ」

 

 

 本来ならば、いつも姉、ダアト=セイファートの影に隠れてオドオドしていた人見知りな精霊だったこと。

 

 そんな自分を連れ出して、必要だと言ってくれた初代皇帝、獅子赤帝ユーレリア=アーゲントに心酔し、依存していたこと。

 

 そして……そんな彼女の死によって、ダアト=クリファードという存在は致命的なまでに軋んでしまったこと。

 

 

 ――許せなかった。

 

 死後、瞬く間に彼女を忘れていく民衆が。

 

 彼女の生きた証を、飾りつけた美談で塗りつぶしていく者達が。

 

 次から次へと湧いて出る、その威光を傘に着て威張り散らす、自分が見知らぬ権力持つ者たちが。

 

 もちろん、そんな者ばかりではないのは分かっていた。だが、負の側面に敏感なのは、ダアト=クリファードという『冥界樹の種子』という存在の本質なのだ。

 

 ――だから、記憶と力を捨てて、封印した。

 

 そのショックによりしばらく休眠状態に陥って、目覚めた後は無邪気で無知な少女として放浪する道を選んだ。それしか、自分にあの人の拓いたこの世界を守るためにできる事はないと思ったから。

 

 

 

 訥々と語るダアトの目には力は無く、それは全てを諦めたものに……少なくとも大半の者にはそう見えた。

 

「……でも、無理だった。封印したはずのベリアルは目覚めていた。記憶が無いなりに頑張った私の行動は、結局元の冥界樹に戻るために必要なプロセス。私が頑張ってきたのは全部無駄になっちゃったね。だからお願いスザク、私が冥界樹になる前に、私を殺し――」

「……ごちゃごちゃうるせえんだよこのバカ!」

「ひゃん!?」

 

 ――ガァンッ!!

 

 突然スザクが障壁を殴りつけた轟音を間近でモロに受けてしまい、ダアトがビクッと体を跳ねさせる。

 

「無駄とか、無理とか、諦めのいい言葉ばかり言いやがって! お前そんな殊勝なキャラじゃねえだろうがッ!!」

「ち、ちょっとスザク、さっきも思ってつい目覚めちゃったけど、ひどくないそれ!?」

 

 再度、ダアト=クリファードの絶対障壁を殴りつけるスザク。その言葉に、流石にダアトもこんな状況ながら、慌てて抗議する。

 

「殺して? 死ぬべき? お前は、そんなこと微塵も納得なんかしちゃいねぇんだよ!!」

「で、でも……」

「だったら、このクソ硬え障壁は何だってんだよ!!」

 

 再度響き渡る障壁を打つ音に、ダアトがまたもビクッと体を跳ねさせる。

 だが……それは、今度は隠していた本心を見透かされたことによる反応であるように、スザクには見えた。

 

「私……」

「言ってみろよ」

「私は……」

「言えよ、いつも通り、我が儘をよ!」

 

 再度響き渡る障壁を殴りつける音に……ついにダアトが、決壊したように言葉を吐き出した。

 

「――生きたい! 死にたくない! 冥界樹なんてなりたくないよ!! 私はスザクともっと居たいの……ッ!!」

 

 そう血を吐くような少女の叫びに――半分以上残っていた筈の絶対障壁は術者の意思が折れたことでその効果を失って、粉々に砕け散った。

 

 

 

「――そう、じゃあ役立たずな種子は私が有効活用してあげるから、あんたは死になさい?」

 

 

「え……」

「ベ……ッ!?」

 

 絶対障壁だった光の砕片が舞い散る中――突然ダアトの背後に現れたベリアルに、スザクも、見守っていたクリムやソールレオンさえも反応が一歩遅れた。

 

 そのベリアルの茨を纏う手が、無防備なダアトの背中、人間ならば心臓のある辺りを狙って繰り出されるのが、ただスローモーションの世界の中で見えた。

 

 

 

 ――ギンッ!

 

 

「……何!?」

 

 ダアトの胸を貫くかに見えたベリアルの腕。

 だがそれは……ベリアルとダアトの中心で生じた光り輝く障壁に止められて、制止していた。

 

「――やはり、様子見していて正解でしたね」

「……シャオ、お主!?」

 

 即座にダアトを庇える位置に飛び出したクリムが、不意に現れた新たな人物に目を剥く。

 地面のスザクの影から浮かび上がるように現れたのは……今回戦闘に参加していなかった『嵐蒼龍』、その長であるシャオだった。

 

「お前は青の……何故ここに!」

 

 千載一遇の機を潰されたベリアルが、憎々しげに邪魔をしたシャオを睨みつけるが、彼は気にした風もなく肩をすくめる。

 

「それはもう、僕は性格が悪いですからね」

 

 クックッ、と悪い笑顔に歪ませた表情で、真正面からベリアルを睨み返すシャオが、嬉々として解説を始める。

 

「いやあ本当は戦闘が始まった時にはもう着いていたんですが、クリムさんたちが一番横槍を入れられたら嫌がるタイミングがどこかなと考えた結果が、説得完了して気の抜けるこのタイミングでしたので。たぶん性格の悪い貴女ならここで仕掛けて来るだろうなぁとヤマを張って『影渡り』で潜んでいました」

「あんた本当に性格最悪ね……!」

「褒め言葉と受け取っておきましょう、いやぁこう読み通り事が運ぶと実に負け犬の遠吠えが気持ちいいですね」

 

 そう、実に機嫌良さそうに笑うシャオに、クリム達さえも感謝半分、なんだコイツという呆れ半分で見つめていた。

 

「それに……僕、バッドエンドって大嫌いなんですよね。してやったりってほくそ笑んでる奴が居ると思うだけで我慢できないんですよ」

「バッドエンドが嫌いは同意じゃが、その理由はどうなんじゃろうなぁ……」

 

 なんだか微妙に『嫌い』の理由がズレているシャオに呆れた視線を送りつつ、三人の魔王総出でベリアルを牽制する。

 

「それで、どうします?」

「……残念だけど、諦めるしかないみたいね」

 

 もはやクリムとソールレオンが道を塞ぐ現状、手出しは不可能と判断したらしいベリアルが潔くその姿を消す。

 今度こそ立ち去ったのを確認して、ようやくクリム達も武器を下ろした。

 

「それじゃ……僕たちの役割は終わりですね」

 

 そう言って、クリム達に離れるように促すシャオ。

 もちろん誰も異論などある筈もなく、今はスザクとダアトを二人にしてやろうと、移動を始めたのだった。

 

 

 

「な……なんだか、色々ぐだぐだになっちゃったね……」

「俺らにゃ、いつものこったろうが」

「そうかなぁ……あは、そうかも」

 

 ぞろぞろと立ち去っていく皆の背中を見つめながらそう言って、スザクとダアトは二人で苦笑しあう。

 怪我の功名というべきか、すっかり二人とも冷静になってしまっていたのだった。

 

「……それで、冥界樹になるのは抑えられそうか?」

 

 そんなスザクの言葉に、しかしダアトは首を横に振る。その足元では、周囲を蠢く蔦ごと閉じ込めるように、琥珀色の結晶がせり出しダアトを覆い始めていた。

 

「初代皇帝様と、土壇場で『裁定はこの地に住まう人の手に委ねるべきだ』とその力を放棄した()()()()()()()()宿()()()()が協力して、旧帝都皇宮地下に封印してあるのが……冥界樹に行くはずだった、暗黒時代に溜めこまれた膨大な負の魔力本体」

 

 本来ならば世界樹から冥界樹に変貌する際に使用される筈だったその魔力は、今も旧帝都ごと封印されていると、ダアトが語る。そして、旧帝都の封印もダアトが種子に目覚めた事で引き寄せられ、じきに破れるとも。

 

「その魔力が、旧帝都からのレイラインを通じて私に流れ込んできてるのが、今は分かっちゃうの」

 

 それをどうにかしなければ、もう種子の発芽を止める事はできないの……そう語るダアトも、今は落ちついていても、その様子は苦しげだ。流れ込んでくる力を抑え込むのに相当な負荷が掛かっているのだと察して、スザクがくっと唇を噛む。

 

「やっぱり、私は冥界樹にはなりたく無いし、自分を封印して少しでも長く種子の発芽を拒むね。だから……」

 

 どんどん琥珀の結晶に取り込まれながらも、ダアト=クリファードは、とうとう自分の願いを口にする。

 

「お願い…………スザク、私を助けて……ッ!!」

「はっ、言えるじゃねぇか……分かった、やってやるよ」

 

 悲痛な少女の懇願に、勇者がいつものように仕方ねぇなあと苦笑しながら請け負う。

 

「要はその封印された魔力を処理すれば良いんだな。全て終わらせて、もう何も心配無くなったら迎えに来る……だからお前は、それまで待っていろ!」

 

 もはや首まで琥珀に覆われたダアトに、絞り出すように叫ぶスザク。

 その姿に、ダアトも目の端からポタポタと透明な雫を溢しながら、それでも嬉しそうな笑顔を見せて頷いた。

 

「うん――待ってる。必ず、助けてくれるって……私、スザクを信じて待ってるから!!」

「ああ、必ずだ! お前を目覚めさせに戻って来てやる……だから、お前はそれまで安心して休んでろ!!」

 

 そうスザクが叫んだのを少女が聞き届けた……その瞬間、足元から成長していく琥珀が、完全にダアト=クリファードを封印した。

 

 世界樹の前に聳え立つ巨大な琥珀の柱の中、泣き笑いの表情のまま眠りについたダアト=クリファードに、スザクがぎりっと拳を握りしめて、呟く。

 

「馬鹿が……不細工なツラで眠りやがって」

「なら早く目覚めさせてあげないとね、スザクくん?」

 

 隣に並び封印されたダアトを見上げるハルに、はっきりと頷くスザク。

 その目はこれまでのような気怠げな色は無く、既に覚悟が決まっている者のものとなっていた。

 

「ああ……だが、三ヶ月後か」

 

 しかしの端に新たに映る、旧帝都の封印が解ける日までのカウントダウン。

 

 旧帝都への道が解放される日……それは、来年の三月。この『Destiny Unchain Online』がサービス開始をしてから、おおよそ一周年の節目となる頃だ。

 

 それを目にしたスザクは、逸る気持ちを鎮めるように一つ深呼吸をすると、先ほど取り落とした魔剣を拾い上げて、離れた場所で推移を見守っていた皆、その中で最も前に居たソールレオンの前に立つ。

 

「ソールレオン、第一サーバー最強と名高い戦闘ギルドの長、黒の魔王を見込んで頼みがある」

 

 そう言ってスザクは、拾い上げた未完成の魔剣、『魔剣グラム・偽典』を握りしめながら、頭を下げた。

 

「俺を、旧帝都への道が開くまでの三ヶ月間に可能な限り強くしてほしい。この通りだ」

「それは、装備強化のために僕らのレイドボス討伐遠征に加わりたいという事でいいのかな?」

「それも含め、あらゆる手段でだ」

 

 そう言って顔を上げたスザクの目を見て……ソールレオンはフッと表情を緩め、握手を求めて手を差し出す。

 

「分かった、私で良ければ協力しよう」

「……ありがとう」

 

 そう快諾したソールレオンに、スザクは目の端に涙を滲ませて、再度頭を下げるのだった――……

 

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