Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――ようやくたどり着いた、泉霧郷ネーブル。
早速テレポーター・プラザへと直行してユリアの登録を済ませた後、一行は目的地であるクリムたちの居城、セイファート城へと向かう。
「わぁ……」
湖面の向こうに聳える白亜のセイファート城に目を輝かせながら、手を繋いだソールレオンに手を引かれるまま、湖畔の遊歩道を歩くユリア。
「今度、街の方も色々と案内してあげるね」
「美味しいお団子屋さんとかもあるです」
「はい、楽しみです……!」
並んで歩く雛菊やリコリス共々、子供たちの楽しそうな様子に……すっかり大所帯となった他のものたち皆がついつい頬を緩める。
そうして歩いているうちに……やがて見えて来た湖畔と島を繋ぐ大橋を渡り、庭園に入ったところで。
「おかえりなさいませ、ソールレオン様、ユリア様」
入り口の階段を登り切ったところで声を掛けてきたのは、「北の氷河」所属のメイドさん、レティだった。
更に……
「おかえり、みんな。それとあなたがユリアちゃんね、いらっしゃい」
「ようこそ、セイファート城へ」
そう迎えに待っていたのは、護衛に参加していなかったジェードとサラだ。彼女たちには、アドニスやエルヒムの手伝いとして、こちらで『ある準備』をしてもらっていた。
「それで……庭園で、支度は完了していますよ」
「うん、ありがとうなのじゃ、サラ。それにジェードも」
彼女らに案内され、クリムはいつもの中庭ではなく、湖が見える庭園内の花園へと、首を傾げるユリアの手を取ってエスコートしながら進む。
――不思議といつもの賑やかさはなく、シンと静かなセイファート城。
期待とは違う様にユリアが首を傾げるが、しかし彼女は大人しくついてきている。そんな彼女を先導し、目的地である花壇の中にある広場、そのアーチを潜った――その瞬間だった。
「「「ようこそ、セイファート城へ!!」」」
パン、と複数連なって鳴り響く、クラッカーの破裂音。
ひらひらと紙吹雪が舞う中で、それまで姿が見えなかった城に暮らす人々や、街から招待されて来ているジュナやジョージをはじめとした子供たちが、突如姿を表す。
「え、あれ!?」
目を丸くして慌てふためいているユリアの周囲に集まってくるのは、空飛ぶ小さな人影。どうやら皆の姿が見えなかったのは、幻覚の魔法が働いていたためらしい。
『よし、ビックリしてるビックリしてる!』
『イエーイ、大成功!』
「あ……妖精さん……!」
よほど悪戯が成功したのが嬉しかったのか、複数の妖精たちがユリアのそばを飛び回る。
その周囲では……短い手足を懸命に動かし歓迎の意を示すリコとヒナをはじめとした多数のシェイプシフターたち、それやルゥルゥやクトゥルフ、果てはエイリーまで、セイファート城の住人たちも多数集まっていた。
『はぁ……この子たちも、普段からこれくらいの悪戯に留まってくれてれば楽なんだけどなぁ』
「はは、お主も苦労しとるのじゃなあ、フィーアよ」
「あはは……お疲れ様、フィーアちゃん」
疲れたように、ルージュとは反対側のクリムの肩に座るのは、すっかり顔馴染みとなったガイド妖精のフィーア。
クリムは、今回妖精たちの仕業にしては安全な悪戯で済んだのは、彼女の人知れぬ尽力があったのだろうと察して苦笑する。
そんな、一気に騒がしくなった庭園で、皆を代表して小さな客人の前に進み出てくるのは。
「お花の精霊さん……!」
花を纏う樹精霊に対し、憧れの眼差しを向けるユリア。そんな彼女に、進み出たダアト=セイファートは柔らかく微笑みながら、一礼する
「私は、この地を管理しています、ダアト=セイファートと申します。ようこそいらっしゃいました、可愛らしいお嬢さん」
「ささやかながら、歓迎会の準備をさせて頂きました」
「ごゆっくりお楽しみください、お嬢さん。それに、後ろの皆様方も」
そう歓迎の言葉を告げるダアト=セイファート。そして背後に控えている使用人のツァオバト兄妹。
そんな彼らに導かれ、ユリアはおっかなびっくりながら、庭園中央に立食形式で設られた、軽食や甘味が並べられた宴の席へと踏み込むのだった。
◇
「……ふう。人見知りと聞いていましたので心配していましたが、案外と物怖じしない子で良かったですわ」
城の住人たちに加え今回の護衛に参加した皆も参加して、すっかり賑わっているパーティー会場。
そんな人々の輪から外れた場所で様子を眺めていたクリムの元に、もう一人、樹精霊の少女が隣に座りながらそんな事を宣い、ホッと安堵の息を吐いていた。
「うむ、あの娘、外見のイメージに比べ意外とメンタルは弱くないと思うぞ」
ここまでの道中で思ったのだが、彼女は人見知りではあるが、その人の本質……好意に関しては敏感だ。そしてそれは人外の者でも分け隔てなく、自らに好意を向ける者へは決して怖がってはいなかった。
鬼鳴峠でオーガに接した時もそうだ。初対面の者に相対した固さはあったものの、害意の無いものには人と変わらず接していた。
本人曰く……『小さな頃から良くしてくれる似たような者達がいるから、慣れている』のだそうだが。
「ええ、そうですね……本当に、良い子みたいです」
今は空飛ぶタコ……クルゥを腕に乗せてくすぐったそうに笑っているそのユリアの姿を眺めながら、ダアト=セイファートがクスッと笑う。
「……お主がそうやって笑っているのも、久しぶりに見たな」
「あっ……申し訳ありません」
「いや、別に責めてなどおらぬ。というか少し安心した」
慌てて謝るダアト=セイファートに、そう苦笑しながら告げるクリム。思えば、彼女とこうして談笑するのも『あの日』以来な気がする。
「……『向こう』のダアトが心配なんじゃろ」
「はい……スザク様からお聞きしました。あの子が、正真正銘の私が知る妹なのだと」
「そして、彼女は今この時も戦っている。心配で当然じゃよなあ」
いつのまにか夜になっていた空を見上げながらのクリムの言葉に、彼女は頷く。
そんなダアト=セイファートの頭にポンと手を置きながら、クリムは訥々と語る。
「じゃが、今は何もできぬ。しかし皆、着々とその日に向けて準備は進めておる……あまり一人で気負うでないぞ。これまで無茶を通してこの城に居着いた者らを救って来た皆が、今度はお主の妹を救うために動いておるのじゃからな」
そんなクリムの言葉に、初めはポカンとしていたダアト=セイファートが、やがて肩を震わせ始めた。
「ふ、ふふ……それは確かにすごい説得力ですね」
「うむ、そうじゃろ?」
堪えきれず吹き出し、笑い始めたダアト=セイファートに、クリムも悪戯っぽい笑みを浮かべ、頷くのだった。