Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――最近、『Destiny Unchain Online』第二サーバーで話題になっている、『四皇』と呼ばれるプレイヤーたちがいる。
他者の利益を極力妨げず。
ワールドの情勢には関与せず。
ひっそりと静かに、だが鮮烈にその存在感を示す、一人のお姫様を中心に構成された正体不明の最強集団。そのレギュラーメンバーである四人の戦士に対して付けられた、その異名。
そして――その筆頭こそが目の前の双剣士、『剣聖』レイジだった。
「――つまるところ、彼らはその存在自体がレギュレーション違反なんだ」
「レギュレーション違反? 存在が?」
「そう。言うなれば、サバイバルゲームに銃がモデルガンな以外は完全武装の特殊部隊を投入するようなものでね」
だから、申し訳ないけどゲーム内ではその行動を制限させて貰っているんだよ……そう語る宙の視線の先では、必死に食い下がるスザクを、軽々といなしているレイジの姿があった。
決して、スザクが弱いなどという事はない。
彼は『Destiny Unchain Online』二人目の種族進化を果たした、第一サーバーでもトップクラスのプレイヤーのはずなのだ。
それを、まるで子供のようにあしらうレイジ。クリムでさえ、彼には勝てる気がしない……というか実際にずっと負け続けているのだが。
確かに、彼らが本気を出したら『Destiny Unchain Online』はその有り様を変えてしまう事請け合いだろう。
「彼らは……桔梗さん以外は、冗談も誇張も抜きで世界を守って本物の怪物と戦っている集団の、中核に居る人たちなんだよ」
「はぁ……」
世界を守っていると言われても、当然ながらピンと来るはずもない。
基本的に嘘は言わない父親であると信じているが、これはさすがに話がぶっ飛びすぎている。そのため、ただ生返事する事しかできないクリムなのだった。
「じゃあ、あの『Master of swordsman: Rage』って」
「そうだよ紅さん、あれは彼、支倉玲史君の戦闘記録からデータを取ったAIさ」
そう言うと宙は、蘇生したスザクの呼吸が整うまで一度戦闘を切り上げて、バトルフィールド端に戻ってきたレイジに声を掛ける。
「だけどレイジ君、きみはまた強くなったかい?」
「はは……まあ俺やソール、斉天らは年がら年中、浄化作業のために『禁域』に潜ってますからね、嫌が応にも鍛えられますよ」
「大変だねぇ……世界を守るお仕事ご苦労様」
なんだかよくわからない話をしながら笑う二人の視線の先で……起き上がったスザクが、「もう一戦だ!」と元気に叫ぶのだった。
◇
――そうして黒星は積み上がり、スザクが十敗を喫し、十一回目の対戦中。
「――これなら……ッ!?」
なりふり構わず全身白銀の鎧を纏ったスザクの放つ無数の剣閃が、レイジへと襲いかかる。
その動きは対戦を始めた初期に比べてずっと鋭く、疾くなっているが、それ以上に戦略の組み立て方が向上していた。
闇雲に振り回しているように見える斬撃は、しかし相手を誘導するよう計算され、その締めとなる刺突……ほぼ一瞬に何閃もの刺突を繰り出す 『ハイヴェロシティ・ピアッシング』が、体勢を崩したレイジへと襲いかかる。
――否、体勢を崩したかのように誘導したレイジに、
レイジの両手が、目にも止まらぬ速さ、針穴を穿つような正確さで翻ると、無数の金属と金属がぶつかり合う音がコロッセウムに響き渡る。
「――はぁ、嘘だろ!?」
超高速で繰り出される最高クラスの戦技が、まさかの無補正で繰り出されるただの刺突で全て叩き落とされたことに、愕然とするスザク。その傍をすり抜けるようにして、レイジの左手の剣がその胴を薙いだ。
「がはっ……くそ、負けるかぁああッ!!」
スザクが、『
「なるほど、噂の無限ガッツか。だが隙だらけだぜ!」
本来なら隙とも呼べないような発動のほんの一瞬の隙で、レイジの双剣が、四度閃く。
狙い違わず正確に両肩、両腿の腱に相当する部位を断たれてひとたまりもなく地面に崩れ落ちたスザクは、スキルの効果によりすぐさま再生が始まった手足の治癒が済むまで身動きが取れず、その間にレイジは距離を離してしまっている。
「ぐっ――てめぇ、おっさん、今の隙に何回か殺せるって事かよ……!」
「いや、まあ……できなくはないが趣味じゃないしな」
困ったように苦笑して頭を掻いているレイジに、ギリギリと歯を軋ませて食って掛かるスザク。
だがそんな一方的な戦いに見える中でも、スザクの目は死んでいない。
むしろ、この圧倒的な強者との戦いから可能な限り糧を毟り取ってやるという餓狼のようなその表情を見て、クリムはこう思った――楽しそうだな、と。
そんなクリムの視線の先で、『竜血の英雄』の効果の切れたスザクが斬り伏せられ、また一つ黒星を更新していた。
「で、どうする、もう一本やるか?」
「……お願いします!」
「おう、気が済むまで付き合ってやるよ」
いつのまにか敬語で頼み込み、戦闘終了と同時に蘇生したスザクが黒い魔剣を支えに立ち上がる。
そんな様子に満足げに頷くレイジが、両手の剣を構え直した。
――このままで、終わってたまるか。
そんな気迫すら滲ませるスザクが、また力を振り絞って立ち向かっていく。勝てないまでも、せめて一太刀。なんせ……いまだに彼、レイジは、一度もスキルの恩恵を受けずに戦っているのだから。
そんな足掻くスザクを見ているうちに、クリムも我慢できなくなってきているのを感じていた。
――自分も、彼と戦いたい。
きっと、戦えば今のスザク同様に、自分も何度も無様に打ち負かされるだろう。
だがそれはあの人が、今自分たちが直面している障害を、もう何十年も昔に乗り越えてきている先人だからだ。
――あの人に、勝ちたい。
そのためにも、あのAIではない本物の『師匠』との戦いは、きっと得るものがあるはずだ……そんな予感に仕切りの柵をぎゅっと握りしめる。ふつふつと腹の奥底から湧き上がる熱に、クリムは思わず口に出していた。
「あの、父さん、母さん。次から、私も参戦していいかな」
――と。
バトルジャンキー共め