Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「……で、惨敗してきたわけだ」
先にログアウトしていた昴が、夕飯の時間だと紅たちを呼びに来て……呆れたように眼前の惨状を眺めながら、呟く。
そこには……ソファにぐったりと身を預け、チーン、という効果音がよく似合いそうなほど真っ白に燃え尽きている、紅と朱雀の姿があった。
◇
流石に十三敗もしたら限界を迎えたスザクと交代したクリムが、入れ替わりでバトルフィールドに入って……これで、早くも四戦目。ぼちぼち夕飯の時間というタイムアップが迫る、そんな中。
「動きが速くなった分、直線的な動きが増えたぞ!」「あ……はい!」
まるで先回りするように振るわれたレイジの剣を、体を逸らせてどうにかギリギリでかわし、バク転で距離を稼ぎながら、レイジからの叱責にクリムが返事を返す。
「君は目がいい分、それに頼りすぎている、もっと先を考えて動け!」
「は……はい!」
そんな叱責に内心で歯噛みをしつつ返事をしながらも、必死にコネクトして繋いだ無数の戦技が……しかし目にも止まらぬ速さで繰り出されるレイジの両手に持つ剣に、全て叩き落とされる。その剣閃は、クリムよりも更に速く、鋭い。
――違う、こちらの動きが読まれてる!
レイジの動きがクリム自身のそれよりも速く見えるのは、向こうはクリムが攻撃を繰り出すときにはすでに迎撃に入っているからだ。身体能力は、間違いなく進化済みのクリムの方が高い。
だけど、スピードで勝てない。それはついぞ経験の無かった、技量での敗北だ。
そんな、本来ならば自分のフィールドだった場所で完敗する悔しさを感じる中で……反撃に転じたレイジの剣に、辛うじてクリムが刀身でガードを間に合わせる。
けたたましい金属と金属がぶつかり合い、クリムの持つ漆黒の刀が半ばから折れる音を響かせて、クリムの小さな体は弾き飛ばされて大きく後退した。
「君はなまじ見た後に対処できるその眼の良さのせいで、相手の動きを見て対処しようとするきらいがあるな」
「う……」
「だけどその高い身体能力を生かすにはそれじゃ遅い、振り回されて動きが雑になっている、もっと先を読んで動けるはずだ!」
「は……はい!」
一度立ち合いをぶった斬るかのようなレイジの一閃を刀で受けて大きく後退したところで飛んできた、レイジの厳しい叱責に……自分でも漠然とそんな気がしていたクリムが、新たな刀を生成しながら返事を返す。
たしかに指摘通り、種族進化後は体のコントロールに必死になるあまりに、以前より場当たり的な動きが増えた気がしていた。そして、それで対処できてしまっていたために慢心し、雑になっていたのも否めない。
……こうして悪い点を叱責されながら戦うのは、初めてな気がする。
――でも、悪い気はしない。
紅がこうして戦闘について誰かから教えを受けるのは、思えば小学生の時、剣術道場に通っていたとき以来だ。
以後は宙から貰ったAIから独学で動きを学び、どうにか勝とうと創意工夫を凝らしながら負け続けていくうちに……気付いた時には、仮想空間にて行うゲームにおいては他者から学ぶような機会はとんと無くなっていた。
だから、この希少な機会は、そう。
――楽しい。
誰かに問題点を指摘され、自分より強い者に食い下がり、必死に考えて体を動かす中で着実に成長している実感。
初めは数合撃ち合うのが限界だったレイジとの戦闘も、三戦目になる今はみっともなく逃げ惑いながらもだいぶ食い下がれている。
――そうだ、先を読んで動け。
相手だけじゃない。自分の、足を置く場所、体の重心、体勢……オーバースペックな身体能力に振り回されぬためには、常に無数の先のことを考えて、針穴を通すように最善を選択し続けねばならない。
――やってやろうじゃないか。
紅は一つ深呼吸して一度気分をリセットすると、改めて刀を握り、構え直す。
思考が、随分とクリアになっている気がする。
今はただ、あの人に一撃を加える事にのみ処理能力の全てを注ぎ込んだクリム、その冷たく加速していく思考とは反対に、高まっていく戦意。
それを受けたせいか、クリムの全身から、以前種族進化したバルガン砦でも見た、あの赤い粒子が湧き上がる。
今なら、あの時のように動けるはず――そんな無意識の確信と共に、クリムがコロッセウムの床石を爆ぜさせるほどの全力で、地を蹴った。
赤い粒子を纏う髪が軌跡を残し、クリムの小柄な体が今まで以上の速度でレイジへと肉薄する。
「へぇ、なかなか良い動きになったな。そうだ、来い!」
「言われなくとも、今度こそ……っ!」
無数の過程を予測し、その中から必死に正解と思われる選択肢を手繰り寄せての何十手も先まで予測しながらの超高速の斬り合い。
今まですぐに当たり負けていた打ち合いは、しかし今回はレイジの動きがクリムにも見える。打ち合えている。
――いける!
そうした色さえ認識するのを放棄し加速した思考、全てがスローで見える世界の中――結果、読み合いに負けたクリムの細い首に、レイジの剣が皮一枚分隔てたところでぴたりと添えられていた。
「……あの、レイジさん。ここはせめて、私が一太刀返す場面じゃあないですかね?」
「ははは、十年早い。出直してきな」
冷や汗を垂らしながら苦笑するクリムへ、ドヤァ、といった感じの悪戯小僧みたいな笑顔を浮かべながら振るわれたレイジの剣が、本日四度目、クリムのライフを全て刈り取ったのだった。
◇
「――って訳で、残念ながら夕飯の時間でタイムアップ。続きはまた夜にってさ」
「……はぁ、ドンマイ」
がっくりと意気消沈してそう語る紅。そして一言も発せず虚な目で宙を見上げ、口からエクトプラズムが出ていそうな朱雀。
そんなすっかりボコボコに凹んでいる二人に、昴はただ苦笑するのだった――……