Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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休憩時間

「満月さん、古谷さん、後藤さん。交代のお時間です」

 

 背後から掛けられた先輩巫女さんの声に、紅がハッと顔を上げる。

 

 気付いたら、目の前の参拝客たちによる行列を流すのに必死になりすぎて時間を忘れていた。時計を見ると、現在時刻はもうすぐ昼の13時。お昼休憩の時間だった。

 

「では……あとは、よろしくお願いします」

 

 そう紅たちは先輩たちに礼を告げ、一礼して授与所を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

「それにしても、さすがに満月さんと古谷さんは大人気でしたなぁ」

 

 にしし、と笑いながら話を振ってくる佳澄。それは、もちろん先程までの目の前に並んでいた参拝客の数のことだ。

 

「あはは……でも、紅ちゃんは私よりずっと回転が速かったから敵わないよー」

「あ、聖ずるっ……こほん」

 

 思わぬ場所からの不意打ちに紅が一瞬声を荒げかけ、慌てて咳払いして声を顰め、周囲には笑って一礼し誤魔化す。今は助勤とはいえれっきとした巫女さんなのだ、境内を荒らすような真似はできない。

 

 

 ……たしかに、授与所前にできていた行列は、聖と紅のところに並ぶ参拝客が多かった。

 

 二人とも類稀な美少女であるというのは勿論あるだろうが、紅の場合はその特殊な色彩からより一層注目を集め、ふらふらとその前の列に並ぶ者が多かったという事情が一つ。

 

 もう一つの理由が……語学力。

 紅と聖、そして今ここにはいない昴は、世界中から技術者が集まる会社の社長と重役という両親の仕事の関係で……幼い頃から今や必須の教養である英語以外にも、中国語やドイツ語など多数の外国の言語に触れていたせいで、いくつもの言語に対応できるマルチリンガルなのだ。

 

 また、紅たち自身もよく忘れがちなのだが……紅たちの在籍する杜之宮学園は県下、いや地方全体でも有数の名門私立学校であり、その教育水準は高い。

 普段は紅や昴らの中で自信無さげにしている佳澄でさえ、世間から見ればその名門校の成績上位者に該当する。

 

 と、いうわけで。紅たち三人は他の人たちから「さすがは杜之宮の生徒」という感嘆を受けているのだが、知らぬは本人たちばかりなのである。

 

 

 おかげで、外国人観光客と思しき参拝客は優先的に紅たちの方へと振られ、その分忙しくなったのだった。

 

 

 

「皆、お疲れ様」

「あれ、桔梗さん?」

 

 既婚のため巫女でこそないが、神主の妻ということで助勤の総取りまとめをしている桔梗は、紅らに負けず劣らず忙しかったはずと……今この場に彼女がいることに紅は首を傾げる。

 

「これから昼休みというときに申し訳ありませんが、皆、宿舎の方に来てもらっていいかしら?」

 

 そう言われ、慌てて彼女について行くと……そこには、数日ぶりの顔……紅や聖らの両親たちが集まっていた。

 

「……母さん!」

「うむ、皆で初詣に参った。お前もよく働いておったな。遠くから見て感心しておったぞ」

 

 そう言って満足そうに紅の頭を撫でてくる天理。照れて真っ赤になり「やーめーろー!」と抗議する紅ではあるが、しかしその手を振り払わない程度には満更でも無さそうだった。

 

 一方、聖の方も。

 

「社長ってば、娘には甘いんだから……でも、下の駐車場で会った昴もそうだけど、頑張っているわね、聖」

「うん、ママ、大変だけどすっごく楽しいよ」

 

 こちらも母、茜に褒められて、照れ臭そうに笑っていた。

 

 

 そんな団欒が繰り広げられる中、共に来ていたはずの宙と要の父親コンビはというと。

 

「……愛娘の清楚な巫女装束姿、良いものだなあ」

「はは……ええ、親としてこんな光景を見れるとは、私たちは幸せものです」

 

 やや離れたところで……楚々とした巫女装束を纏い、立派にお務めを果たす愛娘の姿を目にして感極まっているらしく、涙すら流さんばかりにしみじみと頷き合っていたのだった。

 

 

 

「あ、お母さんも来ていたんだ」

 

 不意に佳澄が、集団の中にいた顔を見つけて声を上げる。

 そこに居たのは、花火大会の時に一度会ったことがある、佳澄の母。

 

「ええ、娘の晴れ姿ですもの、絶対に来ようって思っていたの。でも……」

 

 そう言って、佳澄の母が隣をチラッと見る。

 そんな彼女の視線の先には、明らかに日本人ではない容姿と色彩を持つために非常に目立っている女性……イリスの姿があった。

 

「まさか、ユーバーさんと再会するなんて思わなかったわ。本当に驚いたわよ、昔とあまり姿が変わっていないんだもの」

「ふふ……私も、委員長に再会できて嬉しいです。連絡先がわからなかったから、半ば諦めていたんですけれど」

 

 そう言って、二人は嬉しそうに笑い合っている。その仲睦まじそうな様子は、二人が古い友人であると物語っていた。

 

「お母さん、もしかしてイリスさんと知り合いなの?」

「ええ、そうよ、私の大切なお友達」

「三か月だけだったけど、同級生だったんです。色々とお世話になったんですよ?」

「うんうん、懐かしいわねえ……あのお姫様も、もうじき二児の母親かぁ、歳を取ったわけだわ」

 

 そう言って昔話に花を咲かせる、イリスと、佳澄の母。玲史と佳澄の父はそんな妻の様子に苦笑し合っている。

 一方で、なんだか話が長くなりそうだなと、佳澄は所在なさげにしていたユリアを手招きして構い始めていた。

 

 そんな、意外な繋がりがあった両家のことはさておき。

 

「あなたたちは確か、今から二時間のお昼休憩よねぇ。せっかくだから一度着替えて、親御さん達と一緒に昼食がてら、屋台でも見て回ってきたらいかがかしらぁ?」

 

 そう提案する桔梗のお言葉に甘えて、紅たちは両親とともに、駐車場の方に並んでいる屋台へと向かうのだった。

 

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