Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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仕事を終えて

 

 ――お正月を迎えてからは、目が回るような忙しさだった。

 

 

 この刀祢神社では、授与所のシフトはだいたい一時間半詰めた後に三十分間休み。四つの班によるローテーションで授与所を抜け、休憩に入る。

 

 しかし、ではその三十分全て休憩に充てるというと……全然休んでくれて構わないそうなのだが、もしも困っている参拝客がいたら助けてあげてほしい、ただし無理はしない範囲で、とのことだった。

 

 ……しかし、こうした仕事を選んでくる者たちだ、皆が真面目で面倒見のいい善良な者ばかりである。困っている人がいて見過ごすことができる者は居なかった。

 

 そんな例に漏れず似たような気質の紅たち三人も、ついつい境内で困っている人を見つけるなり、案内に奔走してしまうのだった。

 

 その、周囲の先輩巫女のお姉様がたに負けず劣らずなワーカーホリックぶりは、休憩に外へ出てきた雛菊と深雪に呆れられるほどだった、とか。

 

 

 

 そうして慌ただしく日は巡り――助勤三日目ともなると何処からか情報が漏れ出たのか、紅の姿を……あるいはリアルまおーさまの巫女装束姿を……撮影しようという者が散見された。

 

 撮影禁止エリアでは規制が入り、神社の場合は社務所で許可を受けて制限解除してもらわないとスクリーンショットが撮れないNLDではなく、わざわざデジタル一眼カメラを手にした者たちが、ちらほら見え始めたのだ。

 

 中には授与所での奉仕シフト外の時間、参拝客の案内中である紅や聖をはじめとした巫女たちを「一緒に写って欲しい」と追い回す者も出始めたりした。

 

 自分で鑑賞する用で、絶対に外には漏らさないから……そう執拗に頼み込んでくる彼らは、しかしその写真をSNSなどに上げて自慢する気なのは、その立ち振る舞いを側から見ていても明白だった。

 

 そんなしつこい相手をどう振り切るか考えていると……そんな紅たちの前に割って入るは、巫女を統括する責任者である桔梗。

 

 

「当神社の境内は撮影禁止です。それに彼女達は職務中ですので、そうした行為はご遠慮ください」

「職務中なら、これくらいサービスとして応じてくれても」

「当神社ではそうしたサービスは行っておりません。他の参拝者のご迷惑になりますので、ご遠慮ください」

「でも……」

()()()()()()()

 

 ゴネる参拝客に、一歩も引かない彼女。

 最後、変わらぬ穏やかな笑顔のままなのに、なぜか周囲で見ていて彼女が激怒しているのがひしひしと伝わってきた。

 

 紅たちはなんだか周囲の気温が何度か低くなったような、うなじのあたりがピリピリするような……それはまるで、今か今かと血を欲する妖刀を首筋にピタリと添えられているような、命の危機が目と鼻の先まで迫った感覚……を覚える中。

 

「…………はい」

 

 顔を真っ青にして冷や汗をダラダラと垂れ流し、真正面からその圧力に相対する羽目となった哀れな迷惑客は、すごすごと引き下がっていった。

 

 

 ――桔梗さん、強い。

 

 

 この人は、絶対に怒らせないようにしよう。

 そう深く心に誓う、紅たち助勤巫女一同なのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ――と、まあ、そんな些末なトラブルこそあったものの。

 

 現在、1月3日の夜21時を回ったところ。授与所も本日のお勤めを終えて、この日はもう参拝客もほとんど居ない。

 

 すっかり静けさを取り戻した刀祢神社の宿舎、その食堂では。

 

「では、臨時助勤の皆さん。三が日のご奉公も無事終わりましたね、本当にお疲れ様でした」

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

 そんな静寂が戻ったはずの神社の一角にて、桔梗の挨拶に続いて一斉に上がる、主に女の子たちの労いの声。

 

 もっとも忙しい大晦日と三が日を無事乗り切り……本職の者たちや長期契約の助勤の者たちはこの後も神事が続くため忙しそうにしているが、紅たちをはじめとした臨時雇用の助勤巫女は、この日でお役御免となる。

 

 というわけで、桔梗を始めとした刀祢神社の神職の方々のご厚意により、食堂のテーブルにはお餅やおせちなどの料理が所狭しと並べられ、宴会となっていた。

 

「すごい、どれも美味しいの!」

「ふふん、母様の料理は天下一品なのです」

 

 驚きの表情で箸を進める深雪に、雛菊が胸を張って母親の料理を自慢していた。

 

 たしかに……お出汁のよく染みた煮物、しっとりとした舌触りの伊達巻、優しい甘さの栗きんとんや、ふっくら炊き上げられた黒豆まで、どれもが絶品だ。

 桔梗が腕を奮って用意してくれたというそれらは、紅にとって母、天理と同レベルの領域であり、「ちょっと料理が得意な学生」という紅では全く足元にも及ばないレベルで美味だった。

 

 そんな料理に舌鼓を打ちながら、別れを惜しみ語り合い、中には連絡先を交換し合う者も居る中で。

 

 

「満月さん、古谷さん、後藤さん、本当にありがとう」

「あなたたちはすごく真面目に仕事をしてくれて、本当に助かりました」

「外国の方々の対応、任せちゃってごめんなさいね」

 

 

 初めての助勤ながら獅子奮迅の働きを見せた紅たち三人にも、先輩の巫女さん達がそうひっきりなしに声を掛けてくる。

 なんだか褒められてこそばゆい思いをしながらも、満更でもなく思っていた紅たちだったが。

 

「あーあ、これでこの仕事も終わりかぁ」

「……そうだよね」

「……そっか、終わりかぁ」

 

 何気なく佳澄が発した言葉に、ふと胸に湧き上がる寂しさ。紅と聖が、周囲の今日で終わりの先輩方も、しんみりとした表情になる。

 

 

 ――楽しかった。

 

 

 もちろん、目が回るくらいに大変だった。働いているときは、仕事に追われてそんな余計なことを考える暇も無かった。

 

 だがしかし、普段は着る機会のない伝統衣装を纏い、大勢の参拝客に喜んでもらえるよう奔走するこの数日を、皆、どこかで楽しんでいたのだ。

 

「ふふ……あなた達がもしよければ、来年も来てくれると嬉しいわぁ。あなた達なら大歓迎よぉ?」

「それは……か、考えておきます」

 

 繰り返すが……仕事自体は、目が回るくらい忙しかったのである。

 

 改めて桔梗に誘われて、この数日の忙しさを振り返った三人の心情を、紅が代表で答える。

 三人揃って引き攣った表情になって言葉を濁したのを見て、周囲からわっと笑い声が巻き起こった。

 

 

 

 そうしているうちに、やがて最後の参拝客を送り出し駐車場整理を終えた昴たち男性助勤らも宿舎へと戻ってくる。

 

 すっかり冷え切った彼らに温かい甘酒を振る舞いつつ迎え入れ、さらに人数を増した宴会は、日が変わる頃まで大いに盛り上がり……こうして、紅たちの慌ただしい年末年始は終わりを告げたのだった――……

 

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