Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――助勤を終えた、その翌日。
紅たちは最後に、今度は参拝客として皆で初詣をしてから、刀祢神社の境内を出た。
「それじゃあ、三日間本当によく頑張ってくれて、ありがとうねぇ」
「今度はまた、DUOの方で会いましょう、です!」
今日も忙しく働き回っている刀祢神社の皆の代表として、駐車場まで見送りに来てくれた桔梗と雛菊の親子に別れを告げ……紅と、聖と昴、そして佳澄は迎えに来た宙の車に、深雪は同じく迎えに来た龍之介の車に、それぞれ別れを惜しみながら乗り込む。
そうして乗り込んだ車内は、最初の十数分ほどはこの一週間の思い出話で盛り上がったものの……すぐに、静寂に包まれていた。
助手席から後部座席を覗き込むと、そこには……お互い寄り掛かりあって静かな寝息を立てている、聖と昴と佳澄ら三人の姿。
「三人とも、よく寝ているね。よっぽど疲れていたのかな?」
「うん……ねえ父さん、働くって大変だね」
「おや、それを知っただけでもアルバイトを許可した甲斐はあったみたいだね」
「そうだね、本当にいい体験ができたよ。それと、いつもお仕事お疲れ様。でもやっぱり父さんたちはもっと休むべきだと思うんだ」
「おっと、これは藪蛇だったようだね」
そう言って紅と宙は視線を交わして、苦笑し合う。
責任を背負って働く大変さ。
誰かの為に動くことの喜び。
そして……お金の大切さ。
今、紅のコートの内ポケットには、最後にこの数日間分のお給金の入った袋が収まっている。それが……これまで手にしたことのあるお金よりも、重く感じていた。
「それで、貰ったお給料はどうするつもりなんだい?」
「うーん……」
実のところ、紅が両親から貰っているお小遣いというのはかなり多い、と紅は思っている。
だが、紅はその大半を無為に使用せず、こまめに貯蓄しているのだ。そして、それは結構な額になり始めている。
この貯蓄癖は、紅が無駄遣いしないよう心がけているというのもあるかもしれないが、それ以上に性格が理由として大きい。
紅は、同年代の少年少女らと比べ、根本的に物欲が薄いのだ。
それでも最近は、聖や佳澄に勧められたりして基礎化粧品くらいは購入するようになったし、衛生用品なども必要なものが増え、出費は中学生の頃よりも増えている。
しかし、「女子になったからには色々と物入りだから」と天理が主張しお小遣いも多少増額してくれたおかげで、出費以上に貯金の方が増えていた。
だが……今回手にした「これ」は、親から貰ったものではなく、正真正銘、生まれて初めて自分で稼いだお金。
であればこそ、臨時収入だからと一時の思いつきで粗末に扱いたくはない。本当に必要になるまで大切にしたい。
「……やっぱり、使わないで取っておくよ。いつもの貯金癖じゃなく、本当に使いたい事ができた時のために」
「そうですか……ふふ、紅さんらしいですね、私はそれで良いと思いますよ」
「うん、ありがと、父さん……ふぁ」
そう、父に向けて礼を告げた直後……紅が、大きな欠伸をする。加えて、ものすごい勢いで瞼が重くなってきているのを感じていた。
「紅さんも、家に着くまで無理せずに眠るといいですよ。昴君たち同様に、きっと疲れが溜まっているんでしょう」
「うん……そーする……」
すでに眠気は深く紅の全身を回り、もう呂律すら怪しくなっていた。
運転手の父に申し訳ないからと眠気を堪えようとしても無駄な足掻きに終わり、これはダメだと、諦めて助手席のシートに深く体を預ける。
急速に薄れていく意識の中で……ふと思い浮かぶのは、もう一週間くらいログインしていない『Destiny Unchain Online』のことだった。
向こうに戻ったら、再来月に控える旧帝都解放に向けた準備で忙しくなるだろう。
だが……その前に紅には、『種族の問題があるのでその場所には行きたくない』という理由でしばらく先延ばしにしてきた懸案事項、きちんと片付けなければならない問題が一つあった。
――決戦前に、いま一番の不確定要素である
そう、紅は次にやるべき事のロードマップを脳裏に描きながら、しかし今は疲れた心身を休めるべくシートに身を預け、目を閉じるのだった――……