Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――聖都動乱の翌日。
だいぶ聖都オラトリアも平穏を取り戻した中で……クリムとスザクは、聖王セオドライトに呼び出しされていた。
場所は、聖王国本拠である大聖堂ではなく、セオドライトの住居である領主の館にある彼の執務室。
そこで……スザクは、先日の世界樹の元で起きた一連の出来事の詳細を、セオドライトに説明していたのだった。
「そうですか……世界樹セイファートと、冥界樹の種子。僕らの知らないところで、そんな話になっていたのですね」
ひとしきりスザクの話を聞き終えたセオドライトは、そう言って、少し考えこんだ後。
「……あの、システムはプレイヤー間戦闘を全面的に推奨してる裏で、実は団結が大切とは性格悪すぎませんか、運営」
「「我 (俺)もそう思う」」
こめかみを指で押さえながら絞り出したセオドライトの言葉に、クリムとスザクが綺麗にハモって返事をする。
「では……スザク先輩は、そのダアト=クリファードというNPCの少女を助けたいため、再来月の旧帝都攻略を何としても成功させたいんですね?」
「……ああ。だから、頼む」
「あ、頭を上げてくださいスザク先輩!」
頭を下げるスザクに慌てて止めるよう言い、コホンと一つ咳払いしたセオドライトは、正面を真っ直ぐ見て、クリムたちに告げる。
「わかりました、協力しますよ。帝都攻略が済むまで、お互い不可侵ということでいいんでしょう?」
「ああ、そうだけど……いいのか?」
「……スザク先輩だから正直に言いますが」
若干声のトーンを落とし、訥々と語るセオドライト。それは、聖王国の内情についての話だった。
「実のところ、現時点で無理に戦争状態を維持することに、疑問の声が聖王国でも上がっていました……それこそ、今度解放される旧帝都攻略の準備に専念したいってね」
皆が新エリア解放というニュースに心躍らせている中で、しかし戦争状態にある聖王国ではいつ宣戦布告があるか分からないというストレスは、彼らの間にも着実に積み上がっていたのを感じていたという。
「このまま膠着状態が続いているのは好ましくありませんでした。では、さてこちらから仕掛けた手前、どうやって矛を収めたらいいかという話だったので……そちらから譲歩して何のリスクもなく休戦できるなら、皆も納得してくれると思います」
そう語り、深々と溜息をついた後……彼は、キッとクリムを睨みつける。
「……非ッ常に不本意ですが、おかげさまで、今回の騒動により国内の膿の摘出もできました。
そう宣うセオドライトに、はっとクリムが目を見張る。
確かに、現在の第一サーバーは平和ではあるが、人と魔族のパワーバランスという点では非常に大きな差がある。
極論……クリムたち三魔王が示し合わせれば、この第一サーバーはかなり好き勝手にできるのだ。
もちろん、いざという時は協力し合っているクリムたち三人ではあるが……そこまで共謀して好き放題するつもりは無いし、ソールレオンとシャオのどちらも我が強いため、おそらく性格的に不可能だろう。
ソールレオンなどは、そんな惰弱な提案をした瞬間、こちらを見限って戦争を仕掛けてくる可能性さえある。
シャオは……あれは、おそらく不義には不義で返してくるタイプだとクリムは思っている。下手をすれば、背後から討たれかねない。
というわけで、そんな話を持ち掛けた瞬間からまた戦乱の時代に突入するであろう、意外と危うい三魔王間のパワーバランスが成立しているのだが……しかしそれは、一般プレイヤーには知る由もない事でしかない。
そしてそれが一部の人族プレイヤーの間で反感を呼んでおり、先日の戦争が始まる原因の一端を担っていた事もまた事実だ。
そして……セオドライトが改めて実権を握ったこの『シュヴェルトロート聖王国』が、そんな不満を持つプレイヤーの受け皿となっている事も。
「では……お主が回りくどい手段を使ってまでこの国を樹立したのは、もしかして」
「お前たち三魔王が手を組んでこの世界を好き勝手しないよう、監視できる勢力を作る為ですよ。もしもそんな兆候が見られたら、僕はどれだけ不利でも断固としてそれに反抗しますからね」
そう、真っ直ぐな目でクリムに釘を刺すセオドライト。それはまるで、第一サーバーの一般的な人族側プレイヤーの声を背負い、代弁しているかのようだった。
その彼の姿に、クリムもスザクも、ほぅ、と感心する。
「……すまん、俺、少しお前のこと見くびってたわ」
「お主のその言葉、我もしかと心に留めておこう。そして、そんな日が来ないよう気をつけるとしよう」
そう、スザクとクリムが真剣な顔で頷くのを見て、彼は少し照れたように、そっぽを向く。
「では……少なくとも再来月の旧帝都攻略は、お主らも協力してくれるということで良いのじゃな?」
「ええ、約束しましょう」
そう確認し合うと、クリムとセオドライトは二人、握手をする。
が、そのクリムの手をギリギリと握り締めながら、セオドライトは微妙に引き攣った笑顔のまま青筋を浮かべ、クリムへと告げる。
「言っておくけど、僕が協力するのはスザク先輩から頼まれたからですからね……お前の為じゃないから勘違いしないでくださいよ……!」
「はいはい、分かった分かった。それで構わぬから、しばらくの間よろしく頼むぞ?」
「……ふんっ!」
そう、握手が済んだと思ったら鼻を鳴らしてそっぽを向くセオドライト。どうやら、クリムはすっかり彼に嫌われてしまったらしい。
――こいつ、蓋を開けたらとんでもないワンコ野郎じゃったわ。
なんだかもう一周回って好感すら抱いているのを自覚し苦笑しながら、クリムはそう、噛み付いてくるセオドライトをやり過ごすのだった。