Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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旧帝都解放前日

 

 ――この一年を締め括る三学期、最後の期末テストが終わり……今日ばかりは開放感に浮ついた空気漂う杜之宮学園の、初等部校舎の前。

 

 

 

「ユリア、おつかれさま。迎えに来たよ」

「お兄様……!」

 

 白を基調とした初等部の制服を纏い、その制服とセットの白いベレー帽を被った天使のような銀髪の少女……ユリアが、すっかり甘やかし王子様モードの玲央と、ひしっと抱きしめ合っていた。

 

 途端にその周囲に流れるは、美形の兄妹の愛に対する黄色い歓声……などではなく、「またか……」という諦観の雰囲気だった。

 

 最初こそ周囲をざわつかせたその耽美な光景も、毎日繰り返していれば皆慣れるというもので……何人かの夢見る初等部の少女たちが王子様然とした玲央に熱視線を送っている以外は、苦笑いしながら横を通り過ぎていっていた。

 

「ほら、満足したならさっさと帰るぞ」

「全く、毎日よく飽きないな、このシスコンめ」

「おっと済まない、それじゃあユリア、帰ろうか」

 

 そんな慣れ切った塩対応を返す紅と昴に、しかし彼は気にした様子もなく、ユリアの手からサッと重そうな荷物を取り上げて小脇に抱え、もう片手で手を繋ぎながら追従する。

 

「ユリアちゃん、またねー」

「う、うん、また明日!」

 

 そんな中で、通りすがりの同級生らしき少女たちにすれ違った際に笑顔で手を振っているユリアの姿を見て、どうやら仲良くやれているらしいと安堵しながら……紅たちは、談笑しながら帰路へと着くのだった。

 

 

 

 ◇

 

「ところで……君たち『ルアシェイア』は、明日は昼10時の旧帝都エリア解放に間に合うようにログインするのか?」

 

 帰りの電車の中。

 

 早い時間に学校が終わったため空いている、電車の座席。そんな中、皆で一緒に座れそうな場所に腰を下ろしひと心地ついたところで、玲央が紅たち皆に、そんな問い掛けを放った。

 

 

 ……学校も休みとなる明日、土曜日。それはとうとうやって来た、旧帝都のエリアが解禁される日だった。

 

 

「もちろん。週末で学校が休みな皆だけじゃなく、大人たちも明日は有給を取っていてくれてるんだってさ」

 

 そんな玲央の質問に、紅がはっきり頷いて回答し、聖と昴も首肯する。

 

「いよいよ決戦だもんねー、やっぱりみんな、そわそわしてるよね」

「ああ、どんな結果が待ち受けていても、それはきっと一つの大きな節目だろうからな。皆、待ちきれないってさ」

 

 聖が口にした『決戦』という言葉は、決して大袈裟でもない。この二ヶ月間の間に、それだけ数多くのプレイヤーが、この旧帝都エリア解放に無関係では居られなかった。

 

 

 

 ――例えば、ユニオン『ノール・グラシェ北方帝国』は、国内の不穏分子を追いかけていくシナリオを進行する中で、クリフォ4i『アスタロト』と交戦になり、激戦の末取り逃したという。

 

 

 ――一方で、ユニオン『ブルーライン共和国』も、領土内にて暗躍していた裏組織を追う中で、その黒幕としてクリフォ3i『ルキフグス』と一悶着あったとシャオが言っていた。

 

 

 そして――未だ記憶に新しい、シュヴェルトロート聖王国で勃発した聖都動乱。

 あの件も、首謀者であったロドリーゴ枢機卿の裏を追って行く中で、修道女に紛れて内部に入り込んでいたクリフォ9i『リリス』と交戦になったと、スザクから報告があった。

 

 

 そんな悪魔たちは皆健在のまま、ベリアル同様に『旧帝都で待つ』と言い残して姿を消したらしい。

 

 他、無所属のプレイヤーたちが追いかけていたそれぞれの個別シナリオも――数多のプレイヤーが歩んできた無数のシナリオは、今この時、残る悪魔たちの影をチラつかせながら旧帝都へと向かって収束していた。

 

 そんな流れが、否応無しにプレイヤーたちをざわめかせていた……これは、決戦なのだと。

 

 

 

 そして……それは当然、紅たちだけの話ではなくて。

 

「私も、微力を尽くして頑張ります、お兄様」

 

 このメンバー中で最も幼い少女もまた、両手をぐっと握り、そう意気込みを見せていた。

 

「そうだな、ユリアが回復を担ってくれるなら、ラインハルトの負担も減ってやりやすくなる。頼りにしているよ」

「そうそう。だからユリアちゃんも、僕らの立派な仲間だよ。明日はよろしくね」

「は、はい、頑張ります!」

 

 意気込むユリアに、玲央とラインハルトは優しい目を向け、彼女に語りかける。

 

 

 ……この二か月の間に、ユリアはヒーラーとしてめきめきと頭角を表し、幼いながらもトップギルドである北の氷河の後方を守るに足る実力をつけていた。それは、実際に何度か共闘した紅たちも間近で見て、よく知っている。

 

 それは、『Worldgate Online』にてヒーラーの中でトッププレイヤーだったという彼女の母親の指導の賜物だとユリアは謙遜していたが……それ以上に「玲央たちの役に立ちたい」という、彼女の強い意思の賜物であるということも。

 

 ゆえに、もう紅たちは皆、ユリアのことを守られているだけのお姫様ではなく……共に戦う仲間として、認めていた。

 

 

 

 しかし、それはそれ、これはこれ。

 

 今はただ、そんな可愛らしく意気込みを見せる少女に、つい皆は我慢できず良い子良い子と彼女の頭を撫でまわして、大いに慌てさせてしまうのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 ……そうして、明日に向けてああでもない、こうでもないと話をしているうちに、電車は紅たちが利用している駅に到着する。

 

 ユリアを支倉家に滞在している玲史たちの元にたしかに送り届け、ラインハルトも自分の住まいに戻るために別れ……満月家と古谷家へ続く道の途中、玲央が暮らしている家の前。

 

「……玲央!」

 

 ここで別れ、家の中に入ろうとする玲央の背中へと、紅が声を掛ける。

 

 何だろうと振り返った玲央に向け……紅、そして昴と聖は、その手を突き出して、宣言する。

 

「玲央、いや、ソールレオン。これが終わったら、今度こそ我らの決着をつけようぞ」

「ずいぶん待たせたが、一年前のリベンジマッチだ。次は僕らが勝つ」

「ふふ、皆強くなったからね。もう、以前みたいにはいかないよ?」

 

 口々に宣う紅たち三人に、玲央は不敵に、しかし嬉しそうに、返答するのだった。

 

 

「いいだろう、その挑戦を受けて立つ」

 

 

 ――そう、獰猛な獅子の如き笑顔を、その端正な顔に浮かべながら。

 

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