Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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エリア解放

 

 現在、『Destiny Unchain Online』でプレイヤーが活動できるのは、この大陸の外縁部、ドーナツ型の部分だけである。

 

 何故ならば……人の立ち入りを拒むかのように、この大陸の中央にはまるで天から何かが落着した跡のように、外側へと向けて円形に起立した険しい山脈が存在するからだ。

 

 その内側に広がる、広大な窪地。

 

 その更に中心部にある大地に穿たれた巨大なレイラインポイントの直上に建造された皇城と、その周囲にまるで蜘蛛が巣を広げるかのように敷かれた魔導鉄道網と共に際限なく広がった、巨大な都市……人はその街のことを、『帝都アルジェント』と呼んだ。

 

 大陸中心部を覆い、栄華を極めたその広大な都市は、統治者である帝国の崩壊と共に勃発した激しい領有権争いが長く続いたせいで、瞬く間に荒廃していった。

 

 しかしその騒乱は、数年前に勝利者を出す事無く、突然に終結する事になる。

 

 

 数年前……山脈の内側が、発生した謎の瘴気によって覆い尽くされて、人が住める地ではなくなったのだ。

 

 

 瘴気と、それと時を同じくして姿を現した強力な魔物たち。それらに追い立てられた人々は、中にまだ多数の住人を残したまま、唯一の大陸中心部への出入り口である『緋剣門』を封印した。

 

 

 そして――その長く沈黙を守っていた封印された門は今、数年ぶりに解かれようとしていたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 そんな、記念すべき一周年を迎えてまもなく解放されようかという旧帝都へ続く、唯一の峠道。それを塞ぐ『緋剣門』の前は……今このゲームにログインしているプレイヤーのほとんどが集合しているのではないかと思うほどに、無数の人々でひしめき合っていた。

 

 そんな中で。

 

 

「おー……さすがにすごい人数だな」

 

 

 やや幼なげな、澄んだ少女の声。

 

 それが聞こえた瞬間、人垣がざわめきとともに左右に移動して、まるで海が割れたかのように少女……『赤の魔王』クリム・ルアシェイアの前に、門まで続く道ができた。

 

 

「うわ、すげ……」

「攻略サイト以外では初めて見たぞ……」

「あれ、絶界装備だよな……?」

 

 

 そんなクリムたちの姿を見ようと道を開けた周囲のプレイヤーたちが、門に向かうその姿を見てざわざわと騒めくが、さもありなん。

 

 たとえば今、先頭を歩くクリムがトレードマークである赤い外套の下に纏っている衣装は、一見するといつも着ていた黒いゴシックドレス、『アリエルドレス』に見える。

 

 だがそれは、あちこちのディテールに手が入り、白のレース飾りが増量し、可憐さが増していた。

 

 それは――アリエルドレス改め『セフィラドレス』という名の、赤帝十二剣が有していたという十のセフィラの加護を受けたバージョンアップ版の装備であった。

 

「うーむ、やはり注目の的じゃなあ」

「仕方ありませんです、まだ出回っている装備じゃありませんですからね」

「いまのところ、踏破者は私たちと北の人たちだけだもんね!」

 

 クリムの苦笑しながらの言葉に、両隣を歩く撫子柄の和ゴシック風ワンピースを翻して歩く雛菊が、丈の短い黒い戦闘用ドレスに和風の羽織を上手く組み合わせて着こなしてみせたセツナが、余裕たっぷりに笑いながら答える。

 

 そして……新たな衣装を纏うのは、なにも先頭を歩くクリムや雛菊、セツナだけではない。後に続く皆が皆、同一シリーズの装備を纏っていた。

 

「うぅ、目立っちゃってるの……」

「はは、まあこんな装備揃えたらね。努力の賜物なんだから、堂々としているといいよ」

 

 一新された新装備のお披露目ということもあり、周囲から殺到する視線に怯えてフレイの背後に隠れようとする、戦乙女風の青と白のツートンカラーのドレスと白銀の軽鎧を纏うリコリス。

 そんな彼女に大丈夫と笑い掛けつつも、赤と黒を基調とした宮廷魔術師風のスーツを纏うフレイは、羽織った外套でさりげなく視線を遮ってやっていた。

 

「私、ほんとずいぶん遠くまで来た気がするよ……」

「あはは……まさか、自分が羨望される側になるなんて思わなかったよねー」

 

 しみじみと呟くカスミは、活動的なノースリーブとホットパンツ。その上に動きやすさ重視のブレストアーマーとガントレットを身につけて、上に耐刃・対魔繊維で編まれた黒いコートを羽織っていた。

 

 一方で、ふわふわなロングスカートが特徴的な白い法衣の上からヒロイックなプレートメイルを着込んだフレイヤは、言葉とは裏腹に楽しそうに衣装を翻しながら、カスミに同意する。

 

 そのさらに後ろを歩くのは、レザー素材の戦闘用ドレスとアーマーを着込んだサラ。

 そして、キャミソールとスカートを組み合わせたような薄手のドレスの上からベルトで調合器具や多数の試験管を全身あちこちに括り付け、上からぶかぶかなコートを腕に引っ掛けたジェード。

 

 あまり前には出てこない彼女ら大人の女性たちもまた、カスミたち同様にすっかり恐縮して黙り込んでいた。

 

 ……二人が何だか吐きそうな青い顔をしているのは、さすがに今日ばかりは二日酔いで気持ち悪い訳ではないのだろうと願い、周囲からは姿を隠しているリュウノスケに確認の目線を送るクリムだったが。

 しかし、斥候用の消音仕様な黒いレザースーツに身を包んだ彼はただ、曖昧に笑って肩をすくめただけだった。

 

 と、それはさておき。

 

 彼ら大人たちはギルド『ルアシェイア』内でも特に「自分は普通の中堅プレイヤーだから」と思い込んでいた節があるため、今の状況に実感が湧いていないようだ。

 

 

 ……自分たちが、とうとう現環境におけるハイエンドコンテンツに手を出している、上位1パーセント未満の存在であるということに。

 

 

 周囲から突き刺さる無数の羨望と嫉妬の視線。それもやむなし。

 

 今クリムたちが大半の部位に纏う新たな装備群は、あのバアル=ゼブル=エイリーとやりあったイベントの再現である『追憶:魔姫進軍 白の森防衛戦』に匹敵する、高難度レイドダンジョン『絶界領域キャッスル・オブ・セイファート』を幾度もクリアしなければ決して届かないという、現環境ほぼ最強クラスの装備なのだから。

 

 

 幾度も全滅した。

 

 血を吐く思いで攻略チャートを構築した。

 

 そして最後に待ち構えていた本気のエフィエとアドナメレクの兄妹にトラウマを植え付けられながらもどうにか下し……そんな地獄を、何周もデスマーチした集大成が、このクリムたちルアシェイアの決戦装備、『聖遺物(レリック)』シリーズだ。

 

 入手クエストの名前から『絶界装備』と呼称されるその装備群の価値は、PvPトレードレート換算にして実にシリーズ平均『50万』という、正真正銘のトップ廃人装備であった。

 

 

 

 そうして、居心地の悪い想いをしながらも、他のプレイヤーに誘導されるように到着した『緋剣門』。

 数十万の軍が行軍可能だという見上げるほど巨大な、その門の前で。

 

「これはこれは……クリム、流石の私も感服したよ。まさか絶界装備を全員分揃えて来るとはね」

「何を言っておるソールレオン。聞いたぞ、お主らが北海を根城にしていた最上位ネームドボス『世界蛇ミドガルズオルム』を、ついに初討伐したとな」

 

 やはりというか真っ先にクリムたちの装備に興味を抱いて話しかけてきたソールレオンと、お互いのこの二か月の成果について称え合う。

 

「……どうやら、きっちりと仕上げて来たみたいだな」

「うむ、お主らに関してはその辺心配してはおらなんだがな」

 

 そう苦笑しつつ、では誰が心配だったかというと。

 

「スザクの様子は?」

「大丈夫、問題ない。彼が持つ『魔剣グラム』もギリギリだったが完成したし、『ドラゴンアーマー』抜きでも困らないくらいの装備は整えさせた」

 

 自信満々に「ドヤァ」という顔をするソールレオン。彼がこう断言するということは、きっとえらい魔改造されたに違いないとクリムは心の中で合掌する。

 

 そうしてお互いの近況を報告しあっているうちに……時計が『9:59』を表示した。開門目前となり、周囲の人混みが、門が解放されるのを今か今かと待ちかねて、流動を始める。

 

「……ところで、君はこの門が開いたらまず何があると思う、クリム?」

「そうじゃなあ……我ならば、ここから先がどんな世界か理解(わか)らせるために、解放と同時に魔物にプレイヤーを襲撃させるのぅ」

 

 そんな物騒な会話と共に、門が錆びついた音を響かせながら動き始め……それと同時に、クリムはその手に『シェイプシフターTPH-R』を展開して影の大鎌を錬成し、ソールレオンは二振りの剣をしゃらんと鞘から抜き放ち、それを見て察した周囲の皆もそれぞれの武器を、魔法を、スタンバイをし始める。

 

 

 ――そうして、門が解放されるのと同時に。

 

 

 今か今かと外に攻め込む時を待ち侘びていた魔物たちが門を踏み越えて外へと流入し――しかしその第一陣は、外で最初の一歩を踏むことさえ許されぬまま、目にも留まらぬ速さで斬り込んだ赤と黒の二人の魔王に両断されていたのだった――……

 

 

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