Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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瘴気の谷

 

「やれやれ、数は多いが……『サウザンド・ソーン』っ!!」

 

 クリムの掲げた手の先で、大地から無数に発生した深紅の棘が、次々とエネミーを刺し貫いてその場に縫い留める。

 

 以前の血魔法『ソーンブラッド』よりも広範囲・高威力化した血壊魔法『千棘の針(サウザンドソーン)』は、迫る鎧騎士の亡霊たちの装甲を、物ともせずに貫いていた。

 

「……リコリス!」

「任せてください、『ピーコックランチャー』、シュート!!」

 

 クリムの指示を受けたリコリスがその場に膝立ちになり、魔機銃『ブランクイーゼル』を、周囲に浮かべていた小型の浮遊砲台『サポートデバイス』を三つ全て連結させた高出力モードで展開する。

 

 モードチェンジにより延長した銃身の側面に、新たに展開されたグリップ。それも握って両手で保持した魔機銃から扇状に放たれたのは、無数の眩い光弾。

 

 まるで孔雀の飾り羽のように広がったその光弾は、それ自体が意思を持つかのように弾道を曲げ、クリムの放った血の棘に拘束されたエネミーたちを次々に打ち抜いて行く。

 

 瞬く間に姿を消した、付近の敵。更に……

 

「道を開けるぞ、『サンダーソード』!」

「任せて、『ホーリー・ジャッジメント』!」

 

 フレイが振り下ろした手から、フレイヤが振り下ろしたメイスの先から、雷光と閃光で構成された二振りの長大な剣が放たれて、狭い峠道を灼く。迫る敵の大半が消え去った往く道へ……

 

「むぅ、ほとんど出番が無かったです」

「まあまあ、雛菊ちゃん、それだけ皆が強くなったって事だよ」

「それじゃお館様。お掃除行って来ますね!」

 

 飛び出して行くのは、雛菊、佳澄、セツナの前衛組。他のプレイヤーたちも慌てて彼女たちを追いかけて参戦し……敵の第二波は、瞬く間に消滅していったのだった。

 

 

 

 ◇

 

「まじぱねぇ……」

「まおーさまたち鍛えすぎ」

「敵がゴミのように……」

「ここの敵、絶対に弱くはないよな?」

 

 ざわつく周囲のプレイヤーたち。

 それくらい、ギルド『ルアシェイア』の戦力は圧倒的だった。

 

 だが……この状況でクリムたちが突出しているのは、それだけが理由ではなく。

 

「よ、魔王様。絶好調みたいだな」

「む、エルミルか……というか、他の者たちの動きが少し悪いのではないか?」

 

 声を掛けてきた、見知った顔。

 すっかり副官ポジションが板についた『銀の翼』、そのリーダーであるエルミルに、クリムはこの道中感じていた違和感を問うてみる。

 

「あー……それは、このフィールドの影響だな。どうも、他のプレイヤーはこの周囲に蔓延している瘴気のせいでデバフを受けているようだ」

「瘴気によるデバフ? エルミル、それは本当か?」

「ああ、幸いそこまで辛い物じゃないみたいだが、奥に進むほど重くなっているみたいだ……魔王様たちも平気なのか?」

 

 クリムたちも、ということはエルミルたち『銀の翼』も平気らしい。揃って首を傾げていると、答えは別の場所から来た。

 

「おそらく、私達の身につけている『聖遺物(レリック)』装備のおかげですわね」

「ああ……そうか、そんな隠し効果があったのか」

 

 横から入ってきたホワイトリリィの言葉に、クリムもエルミルも、なるほど、と頷く。

 

 確かに、これらは初代皇帝に付き従った英雄たちからセフィラの加護を付与された装備群だ。旧帝都を覆う瘴気に耐性があったとしても不思議ではない。

 そして、エルミルやホワイトリリィらも『絶界領域キャッスル・オブ・セイファート』攻略を共にした仲間であり、絶界装備もいくつか装備している。

 

 そのため、クリムたちは他の者よりも、高い瘴気耐性を獲得していたらしいと……そこまで考えて、引っ掛かるものがあった。

 

「……ん、瘴気じゃと?」

「どこかで……何か関係しそうな話を聞いたような……」

 

 クリムが、たまたま隣にきていたフレイヤと共に頭を捻らせる。

 

 あれは、確か二か月前、旅行先のペンションで……と、二人で朧げな記憶を辿っていると。

 

「なるほどな。戦えない程ではないが、調子が悪い訳だ」

「む、ソールレオンか」

 

 調子が悪いと言いつつ危なげなくすぐ後ろをついて来ていた『北の氷河』、その先頭で双刃を振るっていたソールレオンが、クリムたちの話を聞きつけて寄って来る。

 

「ならば……ユリア」

「はい、レオンお兄様」

 

 すぐ後ろに控えていた少女……ユリアに声を掛けると、彼女は緊張した面持ちで手にした杖を握り、頷く。

 

「すまないが……頼む」

「ええ、承りました」

 

 そう言って、彼女は祈るように胸の前で手を組み、目を閉じる。

 

 すると……その背中から眩い光が発生し、瘴気に覆われた渓谷を照らし出した。

 

 光源となっているユリアの背中……そこに生じた金色の六枚羽の輝きに乗って、周囲の穢れた空気は瞬く間に押しのけられ、まるで聖域の如き清浄なものへと変化していく。

 

「あ、そうだ!」

「ユリアちゃん……『光翼種』の浄化能力!」

 

 その光景に、ようやく合点がいったという様子で、クリムとフレイヤが同時に声を上げた。

 周囲からも、突然にデバフの影響から解放されたプレイヤーたちがざわざわと戸惑いの声が広がっていく。

 

 しかし、デバフの影響が消え去ったのだと理解するなりクリムたちの横を抜け、これまでの鬱憤を晴らすかのように勇んで先に展開して、新たに姿を見せた新たな魔物の集団と交戦に入るそのプレイヤーたち。

 その様子を見てホッと安堵の息を吐くユリア。そんな少女の頭を、ソールレオンは優しく撫でてやっていた。

 

「よし……これで皆、問題なく戦えるだろう。ユリア、よくやったぞ」

「は……はい、レオンお兄様!」

 

 ソールレオンに褒められて、嬉しそうに答えるユリア。そんな彼女に頷いたソールレオンは、自分たちもと前に出ようとするクリムたち『ルアシェイア』を手で制する。

 

「クリム、単独で活動できる君たちも、何かあった際のために今は少し休憩するといい、まだまだ先は長いからな」

「ふむ……ではお言葉に甘えて、我らはユリア嬢の護衛に当たるとするかの」

「ああ、そうしてくれ。他の皆の仕事を奪い過ぎても恨まれそうだしな」

「よろしくお願いします、クリム様」

 

 ソールレオンと、光翼を維持したままのユリアの言葉に頷くと、そのすぐ後ろに付く『ルアシェイア』メンバーたち。

 

「それじゃ、俺たちは前線に戻るわ」

「今日はもう、クリムさんたちの出番は無いかもしれませんわよ」

 

 そう言って前に出て行くエルミルとホワイトリリィを見送ると、ユリアの様子を見る。

 

 そこでは……さっそくユリアの隣に並んで談笑していたのは、雛菊とリコリス、そしてセツナの仲良し年少組。

 

 その微笑ましい様子にほっこりと優しい表情を浮かべながら……クリムも今は、他のプレイヤーたちが再び押し寄せる数多の魔物たちと交戦に入ったのを、油断だけはしないよう見守るのだった。

 

 

 

 ――そうしてユリアの浄化能力を受けたフィールド内で元気を取り戻したプレイヤーたちの進行は、改めてクリムたちが手出しする必要もなく、特に危なげもなく進んだ。

 

 時折大規模な魔物の群れと交戦に入りながらも、大陸中央部に続く長い峠道を上っては下り……およそ一時間の行軍の後。

 

 峠の出口となるそこには――おそらくは瘴気の発生地点と思しき、空間に忽然と浮かぶ亀裂が、プレイヤーたちの前へと立ち塞がっていたのだった――……

 

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