Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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鉱山街の巫女①

 

 ――渓谷に降りて、しばらく川沿いに進んだ先。

 

 そこにある最西端の駅がある街、レドロックに到着したクリムたちだったが、しかし……予想はしていたが、街一帯は例の瘴気にすっぽり覆われていた。更に……

 

 

 

「何あれぇー!?」

「詮索は後じゃ、今はとにかく逃げよ……っ!!」

 

 泣きが入ったまま必死に足を動かすフレイヤを、クリムが励ましながら、その隣をひた走る。

 

「流石にあれは生理的に無理というやつですー!」

「もーやだー!?」

「ぬるぬるしてるのはダメー!?」

 

 ひたすら必死に走る一同。

 

 そんなクリムたちを追いかけてくるのは……一見すると蜘蛛に見える、体長1メートルくらいの十本足の魔物。

 だがよく見るとその脚は節足動物の甲殻に包まれた脚ではなく、柔軟に動く軟体の触腕だ。

 

 ほぼ全面を結晶と鉱石に覆われた本体には頭しかなく、しかもそのほとんどが口であり、胴体に直接口が開いているかのよう。その奥には、硬いものをすりつぶすための人間で言う奥歯のような平たい歯が、ずらっと並んでいる。

 

 また、本来ならば触肢という触覚に当たる前二本の触腕先端には、眼球らしき黄色い球体がぎょろ、ぎょろと周囲に向けて動いていた。

 

 端的にその見た目を表すなら……めちゃめちゃきもい。生理的嫌悪感を助長するためにデザインされたとしか思えない。

 しかも――いまはそれが、住人の気配の無い廃墟……元は鉱山の町として栄えていたレドロックの市街地である……の大通りを駆けるクリムたちの後ろから、それこそ街を覆い尽くさんばかりの大群で走って迫ってきているのだ。

 

 悪夢かホラー映画のような光景に、さしものクリムたちも思わず一時撤退を選んだのは無理もあるまい、が。

 

「どんだけ潜んでたんじゃあやつらー!?」

「まだまだ増えてるよー!?」

「やばい、向こうの方が早いぞ!」

 

 街のあちこちの建物から、窓を這い出し、わしゃわしゃと生理的嫌悪感を催す湿った走行音を上げて徐々に迫るその集団に、もはや泣きの入った表情で必死に足を動かす皆。

 

 だがそれも、長くは持ちそうにない。

 

 もはやこれまで、やむを得ない、反転して攻撃に移るしかない、そう覚悟を固めかけた……その時だった。

 

「……え?」

「止まっ……た?」

 

 皆をカバーするため後ろを走っていた足の速い二人……カスミとセツナが、訝しげな声をあげて速度を緩める。

 

 それに釣られ立ち止まったクリムたちが振り返った先では……迫っていた魔物たちが皆、何かに怯えているように追撃をやめ、ジリジリと距離を空けて様子を伺っているだけになっていた。

 

「皆さん、今のうちに、こちらに」

 

 そこに居たのは……肩の少し上あたりで切りそろえた銀の髪が外套のフードから覗く、雛菊よりも、あるいは下手をしたらユリアよりも小柄で幼い少女だった。

 

 そして……その背には、二対四枚の光の翼。

 

 色々と問いたいことはあるものの、今はとりあえず、少女が先導するままに魔物蔓延る市街地から離れるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

「はぁ、はぁ……良かった、ここまでは追ってきてないみたい……」

 

 入り口の方を覗き込み、あの気持ち悪い十本足が居ないことに安堵の息を吐くフレイヤ。

 

 少女に案内されたのは……街の外れから渓谷に再度降りた先、坑道のうち一つであった。

 

「もしかして……君が、セフィラの巫女?」

「肯定……私はセフィラの巫女『エクリアス』。ですが、話は後で。まずは安全な場所へ行きます」

 

 そう言って翼を消し、ここまで急いできたため若干息を切らせながらもクリムたちを先導し坑道に踏み込んでいく、エクリアスと名乗った少女。全体的に言葉少なく無愛想で、感情が希薄な印象がある少女だったが、しかし。

 

「はー、坑道内で電気もないのに、明るいです」

「これは、この採掘場で取れるマナクリスタルの光」

「マナクリスタル、ですか?」

 

 先頭を歩くエクリアスに、すぐ後ろを歩く雛菊が首を傾げて質問する。

 

 そんな彼女に対し、一見無愛想にも見えたエクリアスは、意外にも淡々と、しかし丁寧に解説してくれる。

 

「暗黒時代の魔導機械で使われていた、燃料になる鉱石。本当はもっとずっと深い場所にあるんだけど、このレドロックの街は川に地面を深く削られたせいで、鉱脈が剥き出しになってる」

「へー……」

 

 少女の解説に、雛菊だけでなく、クリムたち全員が耳を傾けていた。

 

 なんでも鉄道の燃料でもあるらしく、この街はその需要により栄えていたそうだが……しかし、人のいなくなった街はもはや、あの魔物たちの巣なのだそうだ。

 

「これ、採掘とかできるのかなぁ?」

「入り用なら、どうぞ。どうせ今はどこでも使えません」

 

 なんでも燃料としている装置はほとんど止まっており、それ以前に外は危険だらけでまともに活動できないという。

 

 そのため、使えない資源など持て余すだけであり、欲しければ勝手に掘って構わないとお墨付きが出た。

 

 しかしそんな話を聞いたら我慢できない者も居るわけで……

 

「ね、ね、それならちょっと掘っていっていいかな?」

「はいはい、後でね」

 

 新素材にウズウズしているジェードが涎を垂らさんばかりに周囲を見回しており、サラは呆れた様子で苦笑しながら、そんな目を離したら逸れてしまいそうな手を引いてやっていた。

 

「天井が、星空みたいです……きゃ!?」

「おっと、明るいといっても薄暗いから足元に気をつけて。これは……坑道時代のトロッコのレールかな」

「あ、あぁあぁありがとうございます……」

 

 天井に気を取られて転びそうになったリコリスを、咄嗟に後ろから抱きかかえて支えるフレイ。

 彼は、顔を真っ赤にして慌てているリコリスをよそに、周囲の風景を興味深そうに眺めている。

 

 その初々しい少女と朴念仁の姿を見て……すぐ後ろを並んで歩いていたクリムとフレイヤは「そこだ」「もっと攻めて」と小声でエールを送っていたが、効果は残念ながら無く。

 

「……クリム、マスケット一丁貸してくれ」

「馬鹿言っておらんで、はよ行くぞ」

 

 代わりに、据わった目で後ろから怨嗟の声を漏らすリュウノスケの手を掴み、内心冷や汗を流しながら引き摺るクリムなのであった。

 

 

 

 

 

 




 ちなみに最初に出会った双子の巫女はそれぞれ「ジェミー」と「ミニー」という名前でした(名乗れなかった)
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