Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

408 / 410
帝都解放委員会

 

【旧帝都エリア『鉱山街レドロック』が浄化されました】

【現在、該当エリアはギルド『ルアシェイア』が優先統治申請期間中です】

 

 

 そんなワールドアナウンスがプレイヤーたちの視界に流れたのと同時に、眼前で幼い少女が四枚の光翼を広げ、『傷』を消滅させ終えていた。

 

「よくやったぞ、エクリアス。お主が、この街の者たちを救ったのじゃ」

「あ……」

 

 すぐ目の前で、残滓も残さず消滅した空間の亀裂。

 

 それに生まれた時から常に立ち向かうことを宿命付けられていた少女は……あまりにも呆気なくその使命が終わったことに現実感がついていかず、もはや何もない空間を見つめながら呆然としていた。

 

「まおーさま、私は……私の役目を、ちゃんと果たせたのかな」

「うむ、立派だったぞ。我が保証する」

 

 きっぱりと断言したクリムの言葉を受けて、強張っていた少女の表情が、ようやくフッと緩んだ。

 そんな、まだまだぎこちない笑顔ではあったが……それでもクリムは、否、この場に居る皆が満足そうに笑い掛ける。

 

「さて、はようこの場所から移動しよう、作戦発案は我がしたことじゃが、流石に臭くて敵わんからな」

 

 今クリムたちがいるのは、残光となり消えていった『マザー・クリスタルイーター』が根を張っていた駅前広場……先の酸の雨の集中豪雨を受けた中心である。

 

 そう告げるクリムの言葉に、異論を挟むものは、誰も居なかったのだった。

 

 

 

 

「ところでまおーさま」

「ん、エクリアス、どうした?」

「あの匂い、いつかはちゃんと取れるのかな?」

 

 少女の疑問に、クリムはうぅむ……と難しい顔をする。

 

「さてのぅ、しばらく酸が抜けるまでは、匂いとか土壌の性質とか色々と問題があるかもしれんな」

「それじゃ……それまで私が、毎日いっぱい水を降らせて洗い流すよ」

「そうか……お主は偉いな」

 

 すでに新たな使命を設定したらしい少女に、クリムは苦笑しながらその頭を撫でてやる。

 

「じゃが、慌てんようにな。少しずつ、無理のない範囲でコツコツとじゃぞ」

「うん、任せて」

 

 そう返事をするエクリアスの笑顔はどこか誇らしげだったと、クリムは語るのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 酢の匂いを避け、西門へと戻ってきたクリムたちが何はともあれまず行ったのは……身体の洗浄である。

 

「ふぃー、これで全員の消臭済んだかなぁ?」

「お疲れ様、フレイヤ」

「うぅ、まだお酢の匂いがする気がするよー」

 

 泣き言をぼやくフレイヤを、クリムが抱きしめて背中を叩き慰めてやる。

 いつもと逆な気もするが、それも致し方なし。彼女はずっと、あの酢の雨に当たった者たちの消臭作業を行なっていたのだから。

 

 神秘魔法『デオドラント』。

 名前通りの匂い抜きの魔法により、皆の装備は脱臭されたが……だがしかし防具の類、特に金属製品は酸を浴びたこともあり、ジェードに預けてオーバーホールになるため、数日はクリムたちも攻略を進めることは難しいだろう。明日からは学校も始まるし。

 

 さて、それでは後は何をしようかと、クリムはとりあえず建築用ゴーレムの稼働状態と、残ギルドポイントを確認していると。

 

 

「どうもー、赤の魔王クリム様でやんすね」

「む……?」

 

 なんだか変な……というか妙な三下口調の、緑髪の狼系ワービーストの少女が、二頭引きの馬車でクリムたちの下へやってきた。

 

「……ああ、お主はもしや、『帝都解放委員会』の者か?」

 

 

 

 ――帝都解放委員会。

 

 それは、はじめはシャオからの発案で発足し、さまざまな勢力の出資により勢力問わず帝都復興のために働くことができるよう、生産職や商業ギルドが発足した小規模ユニオン……互助組織だ。

 

 盟主は、以前の評判の悪かった頃の聖王国から初心者プレイヤーたちを守るための活動をしていた中心人物だという、『お(ひぃ)さま』とだけ呼ばれている謎の人物。

 

 主な目的は旧帝都の修繕と、もし生き残りがいたらその保護と生活基盤の再生の援助。

 

 今では連王同盟国、北方帝国、共和国、そして聖王国の四大ユニオン皆が出資している、一大勢力の中立ユニオンとなっていたのだった。

 

 

 

 そんなクリムの質問に対して、彼女は胸を張って誇らしげに頷いた。

 

「その通りでごぜぇやす! ついに最初の区画、このレドロックの街が解放されたと聞いて、不肖この帝都解放委員会のヴェーネちゃんが補給物資を届けに来たでやんすよ!」

「うむ、助かるが……なんじゃ、その変な口調は?」

 

 見た目はスラっとした闊達な美少女なものだから、違和感が半端ない。そう思って指摘したクリムだったが、しかし。

 

「あっはっは、それをまおーさまに言われたくはないでやんすね!」

 

 ――ぐうの音も出ねぇ。

 

 言葉とは裏腹に一切の嫌味なく笑顔で言われたものだから、不愉快になる気にもなれず、納得してしまうクリムだった。

 

 と、まあ、それはさておき。

 

 

「まあ、『ルアシェイア』の皆の動向は、皆が注目していたでヤンスからね。公式配信の視聴率もトップ争いですし、攻略が終わったって報告はすぐ届くでやんすよ」

「そ、そんなにか?」

「そうでやすよ。人間、皆やっぱりお腹がすいた子供を見るのは辛いものでやんす。そんな子が頑張ってたら、ついつい先走って馬車に大量の食糧を詰め込み始めるってものでやんす」

 

 そう言って……彼女は、クリムの後ろに隠れるようにして見知らぬ人物を見つめていたエクリアスの方に向き直り、膝を折って目の高さを合わせる。

 

「という訳で……お嬢ちゃん、街の人たちの食べ物の心配は、しなくて大丈夫やんすよ。もう、ひもじい思いはさせないでやんすから」

 

 しゃがんでエクリアスに目線を合わせ、優しく笑いかけながらその頭を撫でるヴェーネ。

 その態度に嘘偽りはなさそうで、エクリアスもまだ少し見知らぬ人物に対する警戒はしつつ、逃げる事もなくなすがままにされている。

 

 変な三下口調とは裏腹に、彼女はどうも情深い人物らしい……そう判断したクリムも、彼らは信用できそうだとホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

「それで……この街の領有権はどうするでやんすか?」

 

 不意に、真面目な顔でクリムへと問いかけてくるヴェーネ。

 

 現在この街は、解放したクリムたち『ルアシェイア』に、領有権を得るかどうか選択肢が与えられている。

 これを断れば、あとは他の希望ギルドに統治権が委譲される訳だが……しかし、クリムの答えは最初から決まっていた。

 

「扱いに困るってんなら、この街はこっちで管理するでやすが、ルアシェイアとしては……」

「うむ、救った以上は最後まで責任を取らねばな。我らで復興させるつもりじゃよ」

「そう言うと思ってたでやんすよ。じゃあそれまでの間、救援物資の用意は任せてもらうでやす」

「ああ、頼む。世話になるな」

「いえいえ、あなた方は最大の出資者の一つでやんすからね」

 

 そう言って手を差し出すヴェーネの手を、クリムも握り返す。

 

 

 こうして……旧帝都エリア解放から二日目。旧帝都解放の第一歩となったレドロック解放戦は、終わりを告げたのだった――……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。