Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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間話:空白の画架

 

 ――話は少し前、クリム達のギルドメンバーが、『シュヴァルツヴァルト』へと向かう途中へと遡る。

 

 途中の宿場町で一泊する際に、皆が休む中……クリムの部屋へと訪れたリコリスに『自分のマップにずっと変な光点がある』と相談され、二人は夜の砂漠へと繰り出していた。

 

 

 

「それで、リコリスのマップに変な光点があるっていうのは、こっちのほう?」

「は、はい……このまま、真っ直ぐに進むと……」

 

 

 ――以前、クリムがダウンした砂漠地帯……『龍骨の砂漠』。

 

 別に、本当に龍の骨が転がっているわけではない。

 そこにあるのは、帝国以前の暗黒時代、この一帯が砂漠化するほどの激戦があった痕跡……砂漠を何キロにも渡り横切っている、巨大なマスドライバーの残骸だ。

 

「凄い光景だね……」

「はい……」

 

 巨大な生物の骨に見えなくもないマスドライバーの残骸を見上げ呟いたクリムの言葉に、相槌を打つリコリスだったが……その様子は、どう見ても上の空という感じだった。

 

 

「それで……私だけ連れ出した意味、そろそろ聞いてもいいかな?」

 

 そう切り出したクリムの言葉に、少女の体が目に見えて跳ねる。

 少女がクリム「だけ」を呼び出したのには、何か理由があるのだというクリムの想像は……どうやら当たっていたらしい。

 

「ごめんなさい、少し弱音を吐きたかったのかもしれません」

「弱音?」

「はい……雛菊ちゃんと比べると、自分は本当に駄目だなぁって」

「あー……」

 

 聞いた話では、リコリスが今年から中学生なのに対して雛菊は小学校最高学年。どうやら、自分より歳下の少女に圧倒されていたらしい。

 だが、雛菊のあれは天稟と言ってもいい。ほとんどの人にとっては、比較するだけ辛くなってくる類のものだ。

 

「凄いよね、あの子は。私もうかうかしていたら抜かれそう」

「え……お姉ちゃんも、ですか?」

「そうだね……でも、リコリスがあの子の得意分野で張り合う必要ってあるかな?」

「え……?」

 

 クリムの言葉がよほど予想外だったのか、目をパチパチと瞬かせるリコリス。

 

「ちなみに、リコリスが好きなゲームって何かある?」

「あの……私、レトロFPSやVRFPSが……」

「ああ、だからナイフは得意なんだ」

 

 実のところ、リコリスの近接戦闘は決して弱くはない。むしろ優秀な部類だ。

 だが、どこかぎこちないのは……やはり、メインは銃火器なゲームに慣れていて、あくまでナイフはサブウェポンだったせいだろう。

 

「そうすると、銃とか探してみるのもいいかな、確かあったはず……」

「本当ですか!?」

「う……うん、そんな話を掲示板で見かけた気が……」

 

 銃があると聞いて一転し、嬉しそうに表情を緩める彼女。

 その様子に、元気になったのなら良いかな、と苦笑するクリムなのだった。

 

 

 

 そんな話をしつつ、リコリスの案内で訪れたポイントには……

 

「ここが光点の場所ですが、これは……」

 

 リコリスが、ポカンと眼前に現れたものを眺める。

 それは……四肢は損壊し完全に朽ちた、人型の巨大な機械だった。

 

「帝国成立以前、暗黒時代の魔導アーマーだね」

「光点は、これだったのですね。でも、何故?」

「……ハッチが開いてる。何かのイベントかもしれないし、調べてみよう」

「は……はい!」

 

 そうして二人は手を取り合い、機体の中へと潜り込むのだった。

 

 

 

 ……そうして数分後。

 

 二人は機体の中にあった何かのケースを担ぎ出し、朽ちた蝶番を壊して中身を確かめていた。

 

 そこに鎮座していたのは……白い、サッカーボールくらいのサイズの球体。

 

「これは……」

「リュウノスケが持ってる、マギウスオーブ?」

「いえ……似ていますけど、何か違うような……」

 

 リュウノスケのそれは半透明だったのに対し、こちらは真っ白。

 

「ま、なんにせよこれはリコリスの見つけた物だから、君のものだよ。ほら」

「は、はい……それでは失礼して……」

 

 リコリスが、球体に触れた、その瞬間。

 

「ひゃっ!?」

「だ、大丈夫!?」

「えっと、魔機銃(マギウスガン)っていうスキルを習得した、っていうメッセージが流れたです」

 

 そう告げて、手元の白いマギウスオーブに意識を集中するリコリス。

 すると……みるみる姿を変えていくオーブが、細長い筒状に変化していく。

 

 それは、縦に引き伸ばしたやや歪な『Y』の形をし、二つに分かれたフレームの部分にグリップと引鉄、そして上部にスコープらしき部品を備えた純白の箱。

 その姿は、ファンタジーというにはあまりにSFチックではあるが、まさに……

 

「や、やった、これ銃、銃ですよ!」

 

 リコリスが、嬉しそうにクリムにそう告げた――その時だった。

 

 チリッとうなじのあたりがざわつく違和感。クリムは咄嗟に、リコリスの肩を掴んで砂の上に引きずり倒していた。

 

「きゃ!? あ、あのあの、お姉ちゃん、何を……」

 

 銃を胸に抱いたまま、突然押し倒されて混乱したリコリスが、瞬時に真っ赤になって抗議しようとした瞬間。

 

 ――ジッ

 

 そんな、何かが焼ける小さな音と共に、今までリコリスが立っていた場所に真っ赤に融解した痕が刻まれる。

 

「ひっ……」

「これは……光学兵器の狙撃!? 伏せて!」

 

 今度は真っ青になって硬直したリコリスを庇うように覆い被さったまま、クリムが周囲に視線を巡らせる。

 すると……本当に遥か遠くに、一つ目のボールのような機械がふよふよと浮いていた。

 

「この機体に搭載されていた、自律兵装? そうか、そのマギウスオーブを持ち出したから生きていたヤツが動き出したんだ」

「どっ、どどどど……っ!?」

 

 クリムの腕の下で、今にもオーバーヒートしそうな感じに茹で上がっている機械の少女に、はて、と首を傾げる。

 だが、今はそれどころではない。自律兵装のその目が、再度光り……

 

「リコリス、こっち!」

「ひゃあ!?」

 

 クリムは咄嗟に彼女を助け起こし、彼女を守るようにその胸の内に抱き込んで、魔導アーマーの残骸の陰に飛び込む。

 刹那、その逃げ込んだ装甲の裏側から、ジュッと着弾音。

 

「やっぱり、リコリスを……というか、リコリスが持ってるその銃を狙っているみたいだね」

「あ……そ、そうなんですね」

「ねえ、それは撃てる?」

「ぇ、えっと……」

 

 クリムの言葉に、この危機的状況を認識しようやく再起動したらしいリコリスが、手にした『魔機銃』を確認する。やがて……

 

「うん……弾丸(バレット)は魔力を消費してこの中で精製できるから大丈夫……だと思います」

「うん、よし。それじゃ、私が囮をするから、リコリスはそれでここから狙撃、できる?」

 

 そのクリムの言葉に、リコリスはキュッと唇を噛んで頷いた。

 

「……FPSでは、スナイパーでした」

「よし上等、背中は任せた!」

 

 それだけを告げ、クリムは物陰から飛び出した。

 

 

 

 

 ◇

 

 ――背中は任せた。

 

 そんなことを言われたのは、初めてだった。

 なんだか、胸の内側がほわほわするような気がして、思わず表情が緩む。

 

 だけど……今は、喜んでいる場合ではない。

 

読込(レーゼン)一方通行(アインシェトラーゼ)

 

 コマンドワードと共に、リコリスの頭のディスクが駆動音を上げて回転を始め、周囲に展開する青く輝くフィールド。

 

 ――『アインシェトラーゼ』。通常の魔法を習得できない融機種(ノーマ・マキナ)が、代わりに有する特殊スキル『機術』が一つ。展開中はMPを消費するが、自身への遠隔攻撃を減衰させるフィールドだ。

 

 それを展開したまま、魔導アーマーの陰から手にした銃を構え、スコープを覗き込む。

 

 その、まだ調節前の視界の先では……自律兵装が自衛のためにバラ撒いている無数の散弾の閃光を、時にかわし、時に切り払い、防ぎながら駆ける白い少女の後ろ姿。

 

 ――凄い。

 

 まるで、夜の精霊が踊っているみたい……そう、ふと思った。

 

 それは……リコリスが、あの白い少女の背中に憧れた瞬間。

 

 だから、役に立ちたい。そのために、今できることを。そうグッと唇を噛んだ――そんな瞬間だった。

 

「――リコリス、隠れて!!」

「ぇ……きゃあ!?」

 

 不意の、切迫したクリムの警告。

 次の瞬間、周囲に展開されたアインシェトラーゼを貫いて、右肩に灼熱の感触。視界の端に、火傷の状態異常のマークが点灯した。

 

 

 ……痛い。

 

 痛いし、熱い。けれど……確かに攻撃間隔は、さっきまでよりも遅い。

 

 それは、クリムが向こうで攻撃に晒されていることで、向こうのチャージが遅れているからだ。

 

 次にあれが飛んでくるまでには、まだ余裕がある。だから……

 

 ――その前に、狙い撃つ!

 

 痛みを堪えて少女が再び銃を構え、飛びつくようにスコープを覗き見る。

 肩は火傷のバッドステータスでじくじく痛むけど、腕は問題無く動く。むしろ、意識が冴えてちょうど良いくらいだ。

 

 覗きこんだスコープの中で、宙を飛び回っている自律兵装が、やけにゆっくりと見えた。

 やがてそれは、引き延ばされた時間感覚の中で、ほぼ停止し……

 

 

 ――当たる。

 

 

 それは、確信。

 

 リコリスの中の、覆りようのない決定事項。

 

 まるで導かれるようにして、リコリスの機械の指が、銃の引鉄へと掛かり、引かれる。

 

 

 

 ――それはまるで、夜の砂漠に瞬いた、一条の流星のように。

 

 

 

 真っ直ぐに自律兵装の目……レーザー発振器へと飛び込んで、反対へと抜けていった。

 

「…………やっ、た?」

 

 スコープから顔を上げた先にて、爆炎を上げて落ちていく自律兵装の姿を呆然と眺める。

 

「リコリス! 凄い、すごい狙撃だったよ!」

 

 駆け戻ってきて、興奮したようにリコリスの手を握り、ブンブンと振り回すクリム。

 その様子に、リコリスの胸にもじわじわと達成感が湧き上がってくる。

 

「はい……やりました、できました! この子のおかげです!!」

 

 力を貸してくれた銃を、思い切り抱きしめる。

 もう、この相棒無しなんて考えられない……それくらい、今は無骨なこの魔機銃が愛おしかった。

 

「これからも……よろしくね、『空白の画架(ブランクイーゼル)』……」

 

 そう、リコリスは満面の笑顔で、新たな愛銃の名を呟くのだった――……

 

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