Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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暫定ギルドランキング決定戦・本戦③

 ――フレイたちが東海商事を下した頃、南街区の公園内。

 

 中央部には水が噴き出し、その周囲には夏場にはプールにもなる水場を備えたその公園。

 

 普段は清らかなせせらぎの音で、公園内の者たちの憩いの場となっているそこは今――クリムの手で、異様な変貌を遂げていた。

 

 

 

 

「……『シャドウ・ヘヴィウェポン』……両手斧」

 

 ヴン……と手の内に現れた影の斧を検分し、満足気に一つ頷いて、その辺の芝で覆われた地面へと無造作に突き立てた。

 その斧は、クリムの手を離れても消えず、そのままその場に残留する。

 

 そうして、クリムの周囲には、大鎌に刀に両手斧、あるいは木の幹には短剣など……さまざまな漆黒の武器があちこちに突き立っていた……その数、現時点で八本。

 

 

 ――あと、()()かな。

 

 そう、目標までに必要な本数をカウントしていた時だった。

 

 

「随分と、前衛的な芸術だね」

「そいつはどうも」

 

 気安い調子で掛けられた声に、クリムが武器を作る手を止めて、声のしたほうへと向き直る。

 

 そこには、待ち人……黒鉄の鎖帷子を纏い双剣を背負った、銀髪の青年が立っていた。

 

「遅かったではないか……北の氷河団長、ソールレオン」

「いや……その、野暮用が済んだら真っ先に来る予定だったんだよ。ただ、その……」

 

 彼は、どこか気まずそうに頬を掻きながら、呟く。

 

「ちょっと、迷っちゃってね」

「……は?」

「いや……そういえば私は滅多にこの街に帰らなかったし、ショップがある北街区以外、ほとんど一人で歩いたことが無かったんだよ」

 

 どこか慌てたように言い訳を捲し立てながら、そんな事を曰う暫定・最強プレイヤー様。

 

「なんじゃ、そりゃ。お主、案外抜けておるな」

「はは、ラインハルト……ええと、幼なじみにもよく言われるよ」

 

 このまま和やかに会話……などとは、勿論いくまい。

 次の瞬間には、ビリビリと肌を震わす重圧が、周囲を包み込んだ。

 

 

 ……それは、殺気。

 

 おそらくは、クリムが生きてきた中で初めて感じる、正真正銘本物の殺気。

 

 

 だが、問題無く動ける。

 本物の殺気に当てられた時、きちんとコンディションを保てるかという懸念を感じていたクリムは、そのことにひとまずホッと安堵するのだった。

 

「だから、今の私はとてもフラストレーションが溜まっているんだ。君ならば、全部受け止めてくれる事を期待しているよ」

「はん、やなこった。熨斗(のし)をつけて返してやろうぞ」

 

 そんな殺気を浴びても飄々としているクリムに、彼は嬉しそうに口の端を吊り上げた。

 

「……『北の氷河』団長ソールレオン。種族は……ドレイクと言う」

「名乗られたならば返そうか。我はクリム。種族はノーブルレッドじゃ」

「……ノーブルレッド?」

 

 一瞬、クリムの種族名を聞いたソールレオンが僅かに眉をひそめて反応を返す。

 だがそれはすぐに消え、その爬虫類の名残がある縦長の瞳孔を細め、真っ直ぐにクリムのほうを見つめ、その双剣を構えた。

 

 それに対して、クリムも傍の地面に刺さった大鎌を抜く。

 

「それじゃ……行くよ!」

「……っ!?」

 

 そうソールレオンが、開始の宣言をした――次の瞬間、彼の姿はすでにクリムの眼前にあった。

 

 

 ――疾い!

 

 

 咄嗟の判断でのけぞったクリムの、直前まで頭があった場所を、宙に舞ったクリムの白い髪を掠めてソールレオンが手にした長剣が貫く。

 

 辛うじて初撃をかわしたクリムは、のけぞった勢いのまま体を捻り、手にした鎌を下からすくい上げるように繰り出して彼を牽制、そのまま遠心力に引っ張られる鎌の重量に任せるように後方へと跳躍を――

 

 

 ――首筋に、ピリピリと痛いほどの悪い予感。

 

 

 その時にはすでに繰り出されていた、ソールレオンの左手にあるもう一刀、そこから繰り出される鋭い刺突。

 それを咄嗟に構えた鎌の柄で受け流すと、その強制的に与えられた勢いのままさらに後方……公園の噴水の上に着地する。

 

 

 ……ここで、ようやくソールレオンの強烈な踏み出しによって爆ぜた地面、そこに生えていた芝や花々が、はらはら舞い散り始めた。

 

 

「……こんにゃろう」

 

 足下の噴水から噴き出す霧状の水にしとどに濡れ、前髪からポタポタと滴を垂らしながら、ピッと鋭い痛みが走る首を押さえる。

 そこには……薄皮一枚斬られた程度ではあるが、切断ダメージの痕であるエフェクトが光っていた。

 

 ……分かっていたことだったが、剣撃の鋭さが今まで戦ってきた者たちとは桁違いだ。しかもそれを二刀で操るのだから恐れ入る。

 

 

 

 だが一方で、ソールレオンのほうも外すとは思わなかったとばかりに追撃を忘れ、残心の状態のままポカンと呆けていた。

 

「……へぇ、外しちゃったか。今のは本気で獲るつもりだったんだけどな」

 

 そう、むしろ楽しげに言うソールレオンの、改めてクリムへと向けられた目は……完全に、美味しそうな獲物を見る獰猛な肉食獣の物だった。

 

 

 

 

 

 ……だったのだが。

 

 クリムがいつでも飛び出せるようにと噴水の噴出口に足を掛けて、大鎌を構えなおした途端……何故かソールレオンが顔を真っ赤に染めて、慌てた様子でバッとクリムのほうから目を離す。しかも、わざわざ片手の剣を足元に突き立てて、目を空いた手で覆ってまでだ。

 

「……む、どうした?」

「いや……頼むから、すぐにそこから降りてくれないか、その……目のやり場に、困る」

「……? いったい、なん……のぉッ!?」

 

 ようやく事態を理解したクリムの口から、思わず素っ頓狂な悲鳴が漏れた。

 

 

 ――今の服装。

 

 ――真下から噴き出す噴水。

 

 ――そうしてずぶ濡れになっているクリムの現状。

 

 

 そこから推測される、先程から彼が指の隙間からチラチラと目を向けている場所にようやく合点がいったクリムは、慌てて噴水からバッと飛び降りて、スカートの前を押さえる。

 

 

 ――そういえば今日って、フレイヤに強引に押し付けられた何枚かのうち、ちょっと背伸びした感じの白いレースの奴だった。何とは言わないけど。

 

 

 今更ながらに思い出し……恥ずかしさやら、可愛いのを身につけていた所を見られたことに対する()()()()()()()()()とかやらで、クリムの顔がみるみる熱を持っていく。穴があったら入りたいとはこのことだ。

 

 だから、代わりにこのいたたまれなさは、眼前の噴水に吹き飛ばしてくれやがった野郎へと八つ当たり気味にぶつける事にした。

 

「……この、ムッツリスケベがッ!!」

「誤解だ! というか君はそんな短いスカートを履くならば、もう少し自分の格好に頓着したまえ!!」

「やかましい、我だって好きでこんなスカート履いとるんじゃないわバーカぁ!!」

「誰が馬鹿だ! そもそも、何度か君の戦闘を観ていて思っていたが、君はレディとしての恥じらいがだな!?」

 

 珍しく……あるいはこちらが素顔なのか……冷静さを欠き、真っ赤になったまま抗議するソールレオン。

 

 そして同じく真っ赤になり、半ば涙目で怒鳴り返すクリム。

 

 

 

 だが……この時すでに、公式の配信用映像を撮っているマギウスオーブが二人の周囲でカメラを回していることを、二人は知らない。

 

 そしてこの後……およそ一分ほど、この時ばかりはお互い戦闘のことを忘れて罵り合う光景が、後日この決勝のハイライトとしてノーカットで放送されることとなるとは、二人ともこの時点では露にも思ってもみなかったのだった――……

 

 

 

 ――――――

 

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なお、全年齢のゲームなため一定以上には透けません。
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