Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「この……っ、『サンダーボルト』!」
「通しません、『サンダーレジスト』!」
フレイが放った雷撃が、エルネスタという女騎士の寸前で、属性対抗魔法によって虚しく掻き消える。
――この女、対抗魔法の反応が恐ろしく早い。
本来なら相手が使用した魔法に合わせなければならない分、不利なはずのレジスト系魔法。
だが戦闘開始からここまで、彼女はその全てを完封していた。それも、対峙するフレイヤの相手をしながらだ。
……やはり、強い。
だがそれでも、まだ彼女は優しいほうだ。
向こうで雛菊と相対しているリューガーという男など、離れた場所から俯瞰で見てもなお、目で追うのがやっとの戦闘を繰り広げている。双方の間では果たして何重に読み合いが展開されているのか考えたくもない。
あれは雛菊だから凌げているのであり、フレイ程度ではどうにかなる相手ではないだろう。
それを言うならばリコリスの方も同様で、彼女の対峙するシュヴァルという男はおよそ同レベルにある狙撃手であり、そのためお互いが岩陰から出ることができないという膠着状態に陥っていた。
――つまり、二人掛かりな僕たちがどうにか状況を打開しないといけないわけだけど。
彼女……エルネスタのスキル構成は、おそらく抵抗魔法を伸ばしてその中にある各属性抵抗魔法を習得した、魔法に対する防御寄りの魔法戦士。
ゆえに、フレイの攻撃もその殆どが無効化されて、ろくなダメージを与えられずにいた。
――とんだ魔法使い殺しだな。
舌打ちと共に、残りMPに目を配る。
果たして、フレイが力尽きるのが先か、あるいは彼女が打って出るのが先か、という詰んだ状況へと追い込まれていた。
だが、やがて均衡は崩れ……ふとした拍子に体勢を崩され、隙が生じたフレイヤをすり抜けて、エルネスタが無防備に佇むフレイへと迫る。
護り手の居なくなった純後衛など、手練れの前衛職には赤子の手を捻るより容易い。一瞬の後、フレイは彼女のハルバードの餌食となり、大地を地に染めるだろう……と、その光景を見ていた皆は思ったことだろう。
だが……フレイはそこで、前へ出た。
「なっ……ん、ですって……!?」
交差した、魔法職にしてはやけに物々しい革グローブに包まれたその腕で、ハルバードの柄を受け止めたフレイの姿がそこにあった。
「……あなたの仕業ですか、ヒーラー!?」
フレイ自身のフィジカルはそこまで強靭なものではない。ならば外部的な要因……フレイヤの防御バフの効果と考えるのが当然だ。
故に発せられた彼女の問いに、フレイヤはノホホンとしたいつもの笑顔で首を傾げる。
その所作はどうやらこの場では肯定したうえでトボケていると取られたようで、エルネスタはフレイヤをキッと睨み付けていた。
それでも咄嗟にハルバードを引き戻し、再度打ち掛かったエルネスタの判断は大したものだが……その先の光景は、彼女の想定を凌駕していた。
蛇のようにうねったフレイの腕が、エルネスタのハルバードの柄に絡みつき、軌道を逸らす。
地面に突き刺さったその柄を踏み付け封じたフレイは、そのまま彼女の胸にトン、と拳を当て――
「おかえしだ、『ブラスト』……ッ!」
ドンッ! と炸裂音を上げて、その手に生まれた純粋な衝撃が、彼女を吹き飛ばす。
破壊魔法の序盤に覚える、接触型の攻撃魔法。
対象へと触れていなければ使用できない反面、限定的な範囲への破壊力は上位魔法にも迫る。
だが……そんなもの、所詮は一発芸に過ぎない。
そんな魔法を当てたのは、フレイ自身の技量によるものだった。
「なぁ……いつ僕が、近接戦はできないって言ったかな!」
「かはっ……」
今度こそ、純魔法職ではありえない鋭さを以って、震脚からの強烈な裏拳が彼女へと叩き込まれる。
――格闘スキル40『バックハンドスマッシュ』……正真正銘の、戦闘スキルだった。
不意を突かれ、モロに直撃を受けた彼女は鎧越しに肺の空気を絞りだされ、動きが止まる。
そんな彼女のブレストプレートを、まるでその体を支えるように、フレイが手を添えて……
「こちとら、ずっとアイツの……クリムのライバルやってんだよ!!」
「ええ、侮っていたことは認めましょう、ですが……っ!」
再度放たれたフレイの『ブラスト』。
その直撃を受けながら、それでも立ち向かい、ハルバードを振り下ろすエルネスタだったが…… その刃はまるで霞を切ったかのように、フレイの身体を素通りした。そのあまりの手応えの無さに、彼女が目を剥く。
――アストラル・シフト。
ハイエルフの固有特性で、ごく短時間物理に対する絶対回避能力を得るその能力。
それを用いてエルネスタの攻撃を受け流したフレイは、そのまま体勢を崩した彼女を引きずり倒して踏み付け、動きを封じる。
「か……完敗、ですね……よもや……このような隠し球を、お持ちだとは」
「ふん、所詮不意打ちだ。事前に知られていて対策を取られたならば、あんたくらいのレベルの前衛職になんか逆立ちしても通じるものか」
ひゅう、ひゅうと、苦しげな声を上げて座り込むエルネスタの頭を掴むようにしながら、フレイが別の魔法を唱え始める。
それをもはや抵抗せずに聞きながら……フッ、とエルネスタが表情を緩めた。
そんな彼女の足元から、ぱき、ぱきんと氷が覆い尽くしていく。
――精霊魔法、氷属性70『アイスコフィン』
HPが一定以下の者を氷に閉じ込め即死させる、接触発動型の必中魔法だった。
「あなた……よく性格が悪いと言われませんか?」
「よく言われるよ、遺憾だけどね」
その言葉を最後に、彼女……エルネスタ、氷の檻に囚われて、残光となって散っていった。
◇
「エルネスタ!」
ラインハルトが最低限のMPを確保して戦線に戻ってきたのは……丁度、仲間の女騎士が敗北し、光へと還った時だった。
――もう一足遅かった。だが今は悔やんでいる場合ではない。
「待っていて皆、今援護を……」
「おっと、君の役目はここまでさ」
「え……がはっ!?」
突如背後から襲ってきた雷撃に、ひとたまりもなく倒れ込む。
そんな彼に絡みついてくる、影魔法『シャドウバインド』……復帰したばかりの彼は、倒れ伏したまま、瞬く間に行動を封じられてしまった。
「ラインハルト!?」
「おっと、君も邪魔になるね、弓使い!」
「……がぁ!?」
即座に乱入者にターゲットを変更したシュヴァル。だがその矢が放たれるより早く、乱入者が指を銃の形にした放った闇のほうが先に彼に着弾し、膝をつく。
「この……『呪い』と『麻痺』かよ……!」
「闇魔法の高レベルで覚える『カースドバレット』、その麻痺は強力だよ」
脱力感と痺れに、シュヴァルが苦々しい表情を浮かべる。
そんな彼に飄々と解説を述べながら、まるで影から滲み出すように姿を現したのは……
「いやあ、まずいまずい、ヒヤヒヤしたよ。あまりお互い数が減り過ぎたら、逆転できなくなるしあまり望ましくないな」
「貴様……シャオ……!?」
「でも……双方とも、中々いい具合に消耗し合ってくれたね、偉い偉い」
……先程、ラインハルトたち北の氷河に打ち倒されたはずの『嵐蒼龍』団長、シャオ=シンルーだった。