Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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最強の魔法使いを撃て

 

 ラインハルトが倒れ、シュヴァルの行動が戒められたことで、改めて詠唱を始めるシャオ。そのエフェクトを見たラインハルトが、血相を変えて仲間に警告を送る。

 

「リューガー、こいつを止めろ……()()()()()!!」

 

 ザワリと、戦場の空気が一変する。

 

 その指示に間髪容れずに反応したリューガーは、雛菊との戦闘を即座に切り上げ転進し……その雛菊も瞬時の判断でターゲットをシャオに切り替えて、彼と並走し始めた。

 

「何故お前がここに居る、シャオ……ッ!?」

「あはは、ごめんね。僕、本当は人間じゃなくて、こういう種族なんだ」

 

 そう軽く舌を出すと、シャオが普段己に施していた変装の魔法を解く。するとそこには……真っ黒な肌と赤い三眼を持つ、影の魔人が立っていた。

 

「僕の種族は、人間じゃなく魔族『シャドウ』……そしてその特性は『影渡り』って言うんだけどね。自由に影に潜って姿を隠せるんだ。レア種族の割には地味な効果でしょ?」

 

 詠唱は自動で進むに任せ、肩を竦め戯けてみせるシャオだったが……問題は、そんなことではない。

 

「いや、それよりも……何故お前が生きている!?」

「ははは、()()()()()よ、おかげさまでね。そして()()()()()()()さ」

 

 大地に戒められたまま声を荒らげるラインハルトの追及に、シャオはなんということでもないようにあっさり種明かしする。

 

 ――自動蘇生魔法。

 

 ゲームではよくある魔法だが、PvPメインのこのDUOでは初耳の魔法だ。

 

「馬鹿な、そんな魔法、僕だって覚えていないのに……」

「なら、君より僕のほうが上なんだろうね?」

 

 そんな彼の煽りにも、ぐうの音も出ない。

 ラインハルトだって、北の氷河レギュラーメンバー唯一の魔法職だけあり回復魔法スキルは90オーバーなのだ。そんな彼が知らないとなれば、もう残るは一つしかない。

 

「……どんだけのめり込んでるんだ、廃人が」

 

 若干引き気味に、頬を痙攣らせるラインハルト。

 

 スキル熟練度70を超えたあたりからは著しく上昇率がガタ落ちし、90台のスキル上げともなればただでさえ気の遠くなるというのに、それを現時点で最低でも二つはこなした廃人プレイヤー。それがこのシャオという少年だった。

 

 

 各魔法スキルの頂点である極大魔法の欠点は、放った時点で全てのMPを全消費すること。

 

 つまりシャオは、ラインハルトが極大魔法で自分たちを倒しに来ると予想した時点で、自らにその自動蘇生魔法を施していた。

 そして北の氷河と嵐蒼龍が戦闘の間、そして今までも、この時のためにずっと、消費した己のMP回復に費やしていたのだ。

 

 そして、あえてラインハルトの『カオスフレア』を受け、それに乗じてまんまと姿を隠し仰せ、機会を窺っていた。

 確かにあの大破壊の間であれば、残光が発生しなかったことなど分かるはずもない……というところまで理解して、ラインハルトは愕然とするのだった。

 

 

 

 全て、奴の手の内。

 自分が読み違えたということ。

 

 

 

 敗戦の将の謗りは、甘んじて受けよう。

 だが、このままでは終われない。

 

 そう……ラインハルトはギリっと唇を噛み、自分にできることを模索するのだった。

 

 

 

 ◇

 

 ――北の氷河が騒然となる一方。

 

 ラインハルトの指示に北の氷河だけでなく、フレイたちルアシェイアも、即座に行動を開始していた。

 

 だが……その発動準備中の魔法を止めるには、あまりにも遠い。そしておそらくはそれも全てあのシャオという少年の計算の内。

 

 ……と推測したフレイは、即座に決断する。

 

「――フレイヤ!」

「ええ、分かってる!」

 

 一言だけ言葉を交わし、フレイとフレイヤは同時に同じ方向……シャオと反対側へと駆け出す。

 だが、それで逃げられるとは思っていない。目的は別にある。

 

 フレイは、もはや魔力切れだ。

 フレイヤには、たとえ生き残っても敵を倒す力は無い。

 

 ならば――今後ろで立ち尽くしている一人の少女に、後の勝利の可能性を託すために。

 

 

 

 ◇

 

「くく、ハハハっ! さようなら、『北の氷河』と『ルアシェイア』の皆さん!!」

 

 前に掲げたシャオの手の内で、空間が球形に割れる。

 そこから溢れる魔力の輝きは奔流となって、亀裂から噴き出し始める。

 

「シャオ、貴様ぁあアアッ!?」

「させませんです……っ!」

 

 鬼のような形相で、少年に飛び掛かるリューガー。

 それに若干遅れながらも、必死に少年へと斬りかかる雛菊。

 

 だが……それはあと一歩、間に合わない。

 

「せめて……シュヴァル、君はっ!!」

「ラインハルト、お前……っ!?」

 

 決死の表情で、最後の魔法を紡ぐラインハルト。

 そんな様子をあざ笑うように――一瞬だけ早く、シャオの魔法が完成を見せた。

 

「ははははっ!! 残念、僕の勝ちさ……喰らうがいい、これが僕の極大魔法――『ディメンジョンソード』……ッ!!」

 

 シャオの手の中の時空の裂け目から、圧力に耐えかねて噴き出すように発生した膨大な魔力の奔流。

 

 あと僅かという所まで迫った雛菊とリューガーの二人、倒れ伏すラインハルト……他、進路上のあらゆる物を巻き込んで、全ては閃光へと呑み込まれて消えていった――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 全てが更地となった視界の中……一人立つシャオが、深々と溜息を吐きながら、自らの体を見下ろす。

 

「いやぁ……参ったね、まさかあれで仕損じているなんて」

 

 ……そこには、胸の中心に、大きな孔が穿たれていた。

 

 さらに視線を前方、遠くのほうに向けると……子供の体くらいの小さな面積、ほんの僅かに盛り上がった地面が残っていた。そこからまるで透明なカーテンを下ろすかのように、少女の姿が現れる。

 

 その姿は……もはやどう見ても、半壊したスクラップが這いつくばっているだけにしか見えない。

 

 だがそれでも、たとえ僅かな時間であっても生き延びた少女は、自分のことを撃ち抜いてみせた。

 そして今も、その構える銃口、そしてスコープ越しの眼が、真っ直ぐにシャオを捉えている。

 

「あー、これは仕方ないなぁ。おめでとう少女、君の執念勝ちだ」

 

 そう苦笑しながら呟くと……次の瞬間頭を撃ちぬかれ、HPを全損して崩れ落ちた。

 

 こうして……二つのギルドをほぼ壊滅させた少年は、今度こそ光に還っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 真っ赤に染まった視界。

 無数の部位欠損アラート。

 刻一刻と減少していくHPの数字は、あと数秒で完全にゼロとなるだろう。

 

 

 

 そんな中で、彼女……リコリスはスコープの先で、今の惨状を引き起こした少年が呆然と胸に穿たれた穴を見つめている光景を、ヒリつく焦燥感と使命感に包まれながら眺めていた。

 

 

 

 ――1発は、まだ撃てた。

 

 ――だから、まだ動ける。

 

 

 フレイとフレイヤ、二人の強化魔法を受けたうえで覆い被さるようにして庇われた彼女は……下肢をほぼ全て失い、部位欠損と重傷によるスリップダメージを受けながらも、まだかろうじて生きていた。

 

 だから……生き残った自分の役割を果たし、生かしてくれた二人に報いねばならない……否、報いたい。

 

「……まだ、死ねない……っ!」

 

 軋む身体、スパークするモーターをそれでも奮い立たせ、起き上がれない体を必死に肘を突いて起こし、銃を構えて再度スコープを覗き込む。

 

「フレイさん……フレイヤさん……雛菊ちゃん……仇は……私が!」

 

 命尽きる間際、最後の力を振り絞り、引鉄に力を込める。最低限の出力の弾丸しか用意できなかったが――それでも、その弾丸は放たれた。

 

 だが同時に、無情に刻まれていくスリップダメージによって、真っ赤に点滅していたリコリスのHPも遂に尽きる。

 

 そんな彼女の、今にも消えそうなノイズまみれの視線の先で……頭を撃ち抜かれた少年が光となって消えていった。

 

 

 

 

 その光景を固唾を呑んで見つめ、一秒、二秒……三秒が経過した。

 

 完全に消滅したシャオの残光を見届け、ホッと息を吐こうとした瞬間……そんな彼女の視界の端を掠め、離れていく一つの人影があった。

 

 

 

 ――まだ、終わってない。

 

 

 

 ぞわりと、背中に悪寒が走る。

 自分の役目を完遂できていない。それが焦燥となってリコリスを苛む。

 

 ――お願い、あと、一発だけ……!

 

 そんな願いも虚しく、既にライフの尽きた体は動かない。それどころか、機械の腕が末端から光へと還っていく。

 

「……ごめん、なさい……お姉ちゃん……」

 

 おそらくは、まだ戦っているであろう人に、ただ謝罪の言葉だけを零す。

 

 そうして――少女は遂に光へと還り、バトルフィールドから消失したのだった――……

 

 

 ――――――

 

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