Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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頂上決戦

 

 ――ルアシェイアと北の氷河、双方のギルドを壊滅させた少年を、皆の遺志を継いだ生き残りの少女が討ち果たしたのと、ほぼ同時刻。

 

 たった二人の人物の交戦の余波により、すっかりと荒廃し元の美しい庭園が見る影も無くなった、南街区の公園では……今もなお、激戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

「……『ソーンブラッド』!」

 

 クリムから放たれた、血魔法40『ソーンブラッド』……対象の足元から無数に飛び出す、真っ赤な大量のスパイクによる攻撃魔法。

 だが、そんな足元からという非常に対処しにくいはずの攻撃を……彼はスパイクに貫かれるどころか、そのスパイクの腹を蹴ってクリムのほうへ飛び込んでくる。

 

 ――ウソだろお前!?

 

 そうは思いつつ、状況は待ってはくれない。

 咄嗟に次の詠唱を唱え、放つ。

 

「『シャドウ・ヘヴィウェポン』大鎌!!」

 

 ――あと三本!

 

 脳内で、作成した武器のカウントを取りながら、襲い来る二本の剣を手の内に出現したばかりの大鎌によって迎撃する。

 そうして弾き飛ばされたソールレオンの着地際を狙い、更に新たな魔法を紡ぐ。

 

「『スレイヴチェイン』!!」

 

 クリムの左手から伸びた血の鎖が、ソールレオンの右腕へ絡みついた。

 本来ならば、相手を引き寄せるための魔法。それを、バランスを崩し、あわよくばすれ違い様に一撃くれてやるつもりで放った魔法。

 

 だがクリム――そしてソールレオンも、躊躇わずに踏み込む。

 

「「……ッ!?」」

 

 お互いにそう来るとは思っていなかったため、双方驚愕に目を見開く。

 だが……すぐに上等だとばかりに口元を歪ませ、構わずに突っ込んだ。

 

 ――頭ごと。

 

 ――聴いていた者こそ身の毛もよだつ、「ごづっ……」という音が鳴り響いた。

 

「い゛、づぅ……!?」

「ぐっ、がっ……!?」

 

 お互いに、衝撃で脳裏に星が散る。

 

 二人揃って蹲り、痛みを堪えていたが……ほぼ同時にガバッと起き上がり、立ち上がり様に手にした刃を振るい合い、中間地点でぶつかり合ったその刃から、周囲の芝がめくり返るほどの衝撃が迸った。

 

「……馬鹿か君は!?」

「はぁ? お主こそ、何ゆえ本気で頭突いてくるか!!」

「避けると思ったんだよ!!」

 

 お互いちょっと涙目になりながら、ギリギリと鍔迫り合いする。

 

「だいたい、女の子が、本気で躱しもせずに頭突きしてくるとか思うわけないだろ!!」

「戦いの場にそんなん関係あるかバカ!!」

「君、また馬鹿って言ったな!?」

「言ったとも、バーカ、バーカ!!」

 

 ……非常に低レベルな罵声が飛び交っているが、その両者の間では、未だに激しく斬り合いが続いている。

 

 罵詈雑言をぶつけ合いながら、血の鎖に繋がれお互いに引き寄せられながら、退がることもできない状況で凄まじい速度で斬り合う二人。

 それは、いわゆるチェーンデスマッチの様相だ。

 

「『ヘヴィスマッシュ』!」

「『ダークハーヴェスト』!」

 

 ソールレオンが体を旋回させ勢いをつけた横薙ぎの刃を、同じように横薙ぎに振るわれた、闇の魔力を纏ったクリムの大鎌が迎撃・相殺し、お互い弾かれる。

 

「まだまだ! 『朧薙』!」

「っの、『ナハトアングリフ』!」

 

 弾かれた反動をそのまま始動モーションに利用したソールレオンが、姿が霞むような踏み込みと共に左手の剣を薙ぐ。だがこれも、とっさに繰り出したクリムの鋭い踏み込みからの一閃が、相殺する。

 

 

 そこからは、壮絶な戦技(アーツ)の打ち合いとなった。

 

 双方一歩も譲らずに、戦技の終端と次の戦技の始端を接続(コネクト)し、これまで誰も経験したことがないような矢継ぎ早に放たれる剣閃と、まるで花火のように乱舞するエフェクト。

 

 本来ならば、クリムは今回初披露のつもりで意気揚々と使用した、技の終わりと始動を揃え、戦技を隙なく連続発動させる絶技『戦技接続(アーツコネクト)』……だったのだが、さも当たり前のようにソールレオンも使用してきたことに凹んでいるのだが、それはそれ。

 

 おそらく、余人がここに踏み込もうものなら瞬時に命を失うであろう技と技の応酬。

 傍にあった噴水とプールが余波で崩れ落ちるほどに激しい戦技の相殺合戦が繰り広げられていたが……

 

「……ここだ!」

「ぐっ……っ!?」

 

 その途上、ソールレオンが、首を狙って振るわれたクリムの大鎌の刃と柄の境目に左手の剣を引っ掛けるようにして押さえ、腕を返して地面へと押しつけ、止めた。

 

「懐に入りさえすれば……!」

「させるか……ッ!」

 

 滑るように鎌の攻撃範囲の内側へと入り込み、右手の剣を突き出すソールレオン。

 だが同時にクリムも、フィジカルでは敵わないと見るや躊躇わずに鎌を手放すと、その魔物のように凶々しく変貌した左手の鍵爪を、抜き手の形で突き入れた。

 

「ぐっ……!」

「いっつ…っ!」

 

 お互い首狙いだった攻撃は逸れ、ソールレオンの剣はクリムの左脇腹を少し抉り、クリムの爪はソールレオンの右目を浅く掠めた。

 

 ……と、そこで『スレイヴチェイン』の効果が切れ、血の鎖が消滅する。

 

 

「――『告死天使の輪(アズリール・リング)』!!」

 

 落下途中にあった大鎌の柄を掴むと、即座に全身のバネを使い投げ放つ。

 旋盤の如く猛烈な回転を付与され飛翔する大鎌は、ソールレオンさえひとたまりもなく吹き飛ばし、彼我の距離が再び開く。

 

 一度仕切り直しとなる中で……クリムは傍の地面に刺さったままの刀を抜きながら、新たな刀を、手の内に顕現させた。

 

 ――あと、二本!

 

 もう少し……そうはやる気持ちを抑えて、構えながら相手の様子を見る。

 

「よくもまあ変幻自在に武器を変え品を変え、本当に器用だな君は」

「……平然と二刀流しとるお主が言うか?」

「いやいや、私は一点突破型だから。幼い頃からこれ一筋なら、様にもなるさ」

 

 ……幼い頃から?

 

 いったいどんな家だと思いつつ、今はその無意味な疑問を頭から締め出す。

 

「どうやら私たちの戦いは、一を突き詰めた私と、水の流れのように自在な多を操る君、対極にあるものなようだ」

「……なんじゃお主、急に詩人にでもなりたくなったのか?」

「……ふむ、一応教養として心得はあるし、君を称える歌ならば喜んで作るけど?」

「うげ……やめてくれ、頼むから」

 

 演技も忘れ、本気で拒否するクリムだった、が。

 

「よし、君のその心底嫌そうな顔を見たら興が乗ってきたぞ、この大会が終わったらやってみよう」

「ヤメロォ!?」

 

 実に愉しげに、そんなことを曰うソールレオン。

 そんなドSの片鱗を見せる彼に、クリムは心底嫌そうな顔をしながら叫ぶのだった。

 

「……この野郎、今までは『最強にしか興味ありません』みたいなツラしておってからに、猫被っておったな」

「おっと……どうにも君と居ると楽しくなって、ついやってしまうな」

 

 愉しげに笑っていたソールレオンだったが……次の瞬間、ふっとその雰囲気が冷たいものへと変化した。

 

 

 ――来る。

 

 

 ここからが本番だと、クリムが額に冷や汗を浮かべながら構え直した時。

 

「それじゃ……本音ついでに、本気の本気で相手してあげるよ」

 

 そう言って、何か透明な結晶のような物を懐から取り出して口へ放り込み、嚥下したソールレオン。

 

 いったい何を……そう思った瞬間、彼の身体が不自然な蠢動を始めた。

 

「おいおい……この後に及んで第二形態とか、冗談じゃろ……」

 

 眼前で起きている事態に、クリムは今度こそ、引き攣った顔で不自然な笑いを漏らすのだった。

 

 

 

 彼の丁寧に梳かれ、纏められていた銀髪は急速に伸び、その頭に生えていた角も先程までより長く禍々しい形状へと変化する。

 

 青白く変じた皮膚には所々銀色の鱗のようなものが覆い、その手足はまるで竜のもののようになり、鋭い爪を備えた物へと変貌していた。

 

 背にはまるで翼の付け根のように隆起した骨格から、炎のような物がチロチロと覗いている。

 

 それは……まるで、竜が人の形を取ったような、そんな姿だった。

 

 

 

 

「これが、私の種族特性である『竜変化』……対人戦では初めて使うけど、すぐにやられないでくれよ?」

「……まだ力を隠しておったとは、お主、化け物か」

「さあ、それはお互い様に見えるけど。あるんだろう、隠し球?」

 

 彼の言葉に、クリムは思わず黙り込む。

 

 ……確かに、ある。

 

それは、ステータスにいつの間にか紛れていた、謎のスキル。だが……それはまだ、発動条件があとほんの少しだけ整っていない。

 

「……さて、なんのことじゃろうな」

「さっきからやけに沢山用意してる武器、何か意味があってのことだよね?」

「……」

 

 ソールレオンの言葉に、クリムが再度黙り込む。

 

「大丈夫、今更それを潰そうなんて野暮はしないさ。僕だって君の奥の手には興味あるし……」

 

 ……それじゃ、面白くないだろう?

 

 そう言外に滲ませて、悠然と構えるソールレオン。

 その言動に……クリムは少し、イラッと来た。

 

「……絶対、後悔させてやるからな」

「それは楽しみだ」

 

 ギリギリと睨みつけるクリムだったが、余裕綽々とも取れる様子で悠然とクリムの視線を受け止める、異形と化したソールレオン。

 

 ……否、それは、クリムが、何を企もうと、全て正面から叩き潰すという自信の現れか。

 

 そして……クリムが全身の肌でビリビリと感じる先程までの比ではない圧力(プレッシャー)が、それが間違いではないことも告げている。

 

 どうやらただでさえ化け物じみた最強プレイヤー様は、本当に化け物になったようだ。

 

「……化け物は、退治せんとな」

 

 でなければ、我儘を押して彼との決戦を望んだ自分を、呆れながらも快く送り出してくれた皆に、申し訳が立たない。

 

 手にした新しいほうの刀を地面に突き刺して、更にもう一本刀を呼び出す。

 

 ――あと、一本。

 

 だが、今はそのあと一本が、はるか遠い。

 次の『シャドウ・ヘヴィウェポン』が再使用できるようになるまで、あと六十秒。そこまで、果たして生き延びられるか……いや。

 

 ――そこまで、全力で耐え切る……ッ!!

 

 そう強く両手の刀を握りしめ、クリムは自分を鼓舞するかのように、強く地を蹴るのだった――……

 

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