Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――EXドライヴ。
クリムの切り札である『それ』の習得方法は……不明。
クリム自身も気付かないうちに、『それ』は所持スキル欄に現れていた。
初めは、文字化けしていた表記が現れた。『それ』はいつしか徐々に修復されていき……きちんとした表記に完全に復帰したのが、つい先日。
果たして、クリムと同じスキル構成にすれば同じものが習得できるかは、不明。
あるいはこれは、個々人のバトルスタイルやそれまでの戦闘履歴から構成された、そのプレイヤーだけの『必殺技』なのではないか……と、クリムは予想していた。
◇
――さっきまでより、遥かに速い。
そう、彼……ソールレオンは、相対する少女の決死の抵抗をどうにか凌ぎながら、内心で独り言ちていた。
彼女の髪の色が真紅に変わって以来、その疾さも、力も、恐ろしく向上していた。
だが……それでも『竜形態』の自分ほどではなく、間違いなくポテンシャルは自分のほうが上なのだ。
だというのに……
――速いし、強い。が、この追い込まれようはいったい……っ!?
膂力に劣るはずの彼女の攻撃が、ひどく重い。
壊れかけな体に鞭打っているはずの彼女に、攻撃が届かない。
ソールレオンに初めて焦りが生まれる。
それは……決して認めたくない、敗北への予感だった――……
◇
一方でクリムも、眼前の『最強』の壁の高さに、舌を巻いていた。
――攻めきれない、この化け物め……っ!?
自身の切り札である『ブレイズ・ブラッド』そして『刹那幽冥剣』を切ってでさえ、まだ届かない。
これ以上絞り出せるものがない全力だからこそ分かる、ソールレオンの異常な技量。
だがそれでも、決して食らいついた喉元は離すまいと、クリムは必死に片手で保持した紅い騎士剣を振る。
すると連動するように僅かな時間差を付けて、周囲を回遊する剣も同じ、ただし僅かにズラした軌道でソールレオンへと襲い掛かる。
剣一振りにつき、六連。まるで爪痕のような斬撃。
それがクリムの膂力でもソールレオンを圧倒する「重さ」を生み出し、なおかつヒットストップを力尽くで延長させることで、彼が自由に動くことを阻害している。
だがなんのデメリットも無いわけでなく……それは主に膨大な処理速度を求められた脳へと押しつけられて、徐々に激しくなる頭痛という形でクリムの中に疲労として蓄積していた。
――一度に同時操作できるのは、攻撃を伴う複雑な操作ならば五本まで。
それ以上は、戦闘しながら――ソールレオンと斬り合いながらでは、クリムの処理能力をオーバーする。
だが……それでもこの紅剣は確かに、ソールレオンに抗ううえでクリムの足りない部分を補ってくれていた。
更に……
「そこだ……ッ!!」
片手しか無いクリムは体幹のバランスが崩れ、剣の重みに身体が流されて、攻撃後の僅かな隙が生じやすくなっていた。
そんな隙、そして左眼と左腕を失ったクリムの死角である左半身をついて、嵐のような紅剣の乱舞を掻い潜って一瞬で踏み込んできたソールレオン。
だが……そんな彼の決死の吶喊は、鳴り響く二つの剣戟の音で露と消える。
「……っ、本ッ当に厄介だな君のこれは!」
「ククッ、ハハッ! そいつは結構、存分に嫌がるがいい!!」
クリムを護るように駆け抜けた二本の紅剣に阻害され、彼は歯噛みしながら後退り、その宙駆ける斬撃を二刀を振るって往なす。
そんな彼の上げた苛立たしげな声に、散々痛めつけられた鬱憤が溜まっていたクリムはここぞとばかりに高笑いを上げて、嬉々として煽り散らすのだった。
あらゆる者にとって、逃れ得ない攻撃後の隙。
だが、クリムの意思を受けて自在に駆ける紅剣たちがその隙を補完し、鉄壁の守護と化していた。
……当然、そんなことは彼だって百も承知しているだろう。
「……認めよう、今、直接の斬り合いならば君のほうが、強い」
不意に、彼が後退し、ここに来てようやく構えらしき構えを取る。その剣に膨大な力が集まっていくのが、ピリピリとしたものが増していく空気を介してクリムにも分かる。
「だが、真っ向からの斬り合いは不利、ならば……!!」
直感で、理解した。
今、彼が放とうとしているのは、武器スキル100……極大魔法と同じく、その道を極めた者に与えられるその技――奥義。
「――最終剣技『黄龍』……ッ!!」
ソールレオンの身体が、龍の
一方、クリムは手を掲げ、十二本全ての『剣』を自分のもとへと集わせる。
クリムに残る魔力全てが剣へと注ぎ込まれ、オーバーロードした十二本の剣が、紅い光を放ち始めた。
そのうちの一本を掴み、矢を引き絞るように切っ先をピタリとソールレオンに向けて構える。
連動し、残り十一本の剣も同じように切っ先を揃え、クリムを守るようにぐるりと取り囲む。
――勝っても負けても、これで最後。持っていけ、ありったけ……ッ!!
「――『レギオンレイヴ』……ッ!!」
クリムの周囲を、切っ先をソールレオンにピタリと合わせて取り囲む十一本の赤い剣。それが回転を始め、バチバチと赤雷を放ち始める。
そんな『剣』達を従えて、眼前から迫る龍のオーラへと正面から突撃した。
――二人が最後の力を賭して激突した戦場が、閃光に満たされた。
ソールレオンの『黄龍』を、クリムの『レギオンレイヴ』がまるで削岩機のように削り取る。
一方で、『黄龍』の破壊力はクリムの紅剣を不吉な音色で軋ませて、その小賢しい『
両者は拮抗して周囲にオーラと雷光を撒き散らし、周囲に破壊的な嵐を巻き起こしていた。
だが……パキン、と圧力に耐えかねて、『剣』の一本が砕け散る。
その後も、一本、また一本と砕け散っていく『剣』たち。しかし一方で、ソールレオンの纏う黄金の龍の雷撃も、急速に勢いを減じていく。
「貫、け、ぇぇえええっっ!!!」
裂帛の気合いと共に放たれたクリムの叫び。
やがて……ジリジリと切っ先を進めていた剣の一本が、龍を貫き前へと進んだ。
「なん……だと……ぐあっ!?」
驚愕するソールレオンの視線の先、やがてまた一本、さらにまた一本と、刀身をひび割れさせながらも貫き通す『剣』達が、その彼の身体へ突き立っていく。
「ああ……くそ、悔しいな」
不意にそんな呟きが耳に届き、クリムがハッと顔を上げる。
そこには……己が敗北を察し、うっすらと目に悔し涙を浮かべながらもどこか満足そうな笑顔を浮かべた彼の顔が、間近にあった。
――次の瞬間、完全に『黄龍』を千々に引き裂いた残る四本の紅剣、そしてクリムの手にした剣が彼を貫いて……その姿は、
周囲を漂っていた『剣』は霞のように消え、クリムの紅に染まっていた髪も元の白色へと戻った頃。
「――っ、はあっ、はあっ……」
ようやく詰めていた呼気を吐き出し、荒い息を吐く。
すっかり原型を止めぬ荒地となった公園は……今はもう、完全に静まり返っていた。
「勝っ……た?」
その疑問に応える者は、誰もいない。
そう……戦っていた、ソールレオンの姿さえも、無い。
疲労困憊といった様子のクリムの胸にも、ようやくジワリジワリと勝利の余韻が浮かび上がってきた――その時だった。
――トッ
そんな、小さな胸に突き立つ小さな衝撃。
視界の端にまだ僅かに明滅していたHPバーが突然消えたかと思うと、クリムの脚が力を失い、女の子座りの形にすとんと地面に崩れ落ちた。
「………………え?」
そう小さく呟いて、クリムが呆然と見下ろした先。
そこには……クリムが小さくなったことでずり落ちたブレストアーマー、その下のすっかりボロボロに破れて防具の体を為さなくなった、ぶかぶかの服。
その陰から露になった、守る物を全て失った白い胸の中心に――細く小さな矢が突き立っていた。
しゅうしゅうと、矢の刺さった場所から煙が出ているということは……これは、銀か。
「いや……本っ当に、悪いと思っているんだが、これって勝負だからな」
その声にクリムがノロノロと顔を上げると……そこには何故か全身……特に左半身は腕が炭化するほどにズタボロになった、ソールレオンの隣にいた灰色髪の青年の姿があった。
彼は右手の小手に仕込まれた小型のボウガンをこちらに向けて、感情を読み取れない完全な無表情で佇んでいた。
周囲から、先程ソールレオンの散っていった時によく似た光が、天へと舞い上がる。
――ああ、撃たれたのか。
そんなことにようやく思い至ったクリムもまた……種族的弱点である銀で心臓を撃ち抜かれたことによってHPを全損し、光に還っていくのだった――……
――――――
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シュ「この後めっちゃブーイングされた」