Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
「――はい、参加者さんも視聴者さんも、二日間に渡る暫定ギルドランク決定戦、お疲れ様でしたー!!」
そう、大きな円卓が鎮座する部屋にて愛想を振りまきながら、カメラへと向けて挨拶をする、全体的にピンク色をした少女。
彼女は、
この『Destiny Unchain Online』公式提携VR配信者として、イベントなどで活躍中の、個人勢の動画配信者である女性だった。
涼やかに伸びる澄んだ声が特徴で、特に歌に関しては『カタギの歌声じゃない』とまで評される女性で、その歌い方や声がとあるシンガーソングライターに酷似しており、「親子?」と疑惑が付き纏う彼女。
そのアバターは、優しげで柔らかな顔立ちと、名前と同じ桜色のロングヘア、清楚ながら何故か腰の横あたりが開いている不思議な花柄の振袖という、総じて和装の狐耳の少女だった。
「今回は、決勝において特に活躍めざましかった上位三チームの方々に来てもらっています! 残念ながら、北の氷河のエルネスタさんとリューガーさんは予定があって来られなかったのですが……はい、視聴者さんたちは、健闘した彼らに温かい拍手をお願いします!」
そう、拍手を促す彼女。
うんうんと機嫌良さそうに頷いている様子を見ると、どうやら反応は良好らしい。
「……で、ですね、ギルド『ルアシェイア』の団長のクリムさん。その……多分、視聴者さんからもたくさん質問が来ていて、みんな聞きたくて仕方がないのかなと思うのですが」
そう、真っ先にクリムに話を振る彼女に、クリムが首を傾げる。
「その……更に可愛らしくなった体は、いったい?」
「そういう体質なのじゃ」
「は、はぁ……」
ぶすっとクリムが返したシンプルな答えに、さすがに困惑する司会の彼女。
――今のクリムは、『ブレイズ・ブラッド』によって大半の血を喪失し、小さな体になっていた。
そして、やはりというか即座にフレイヤに捕まって、今は膝の上に座らせられて愛でられている最中だった。
「えへへ、かわいいよね、小さなクリムちゃん」
「あの、フレイヤさん……配信が終わった後で、私にも貸してくれません?」
「駄目じゃからな!?」
知人以外の女性にこんな扱いさせてたまるかと、さすがに慌てて拒否するクリムに、今もなおその髪をモフりたそうにしている司会のサクラが、えー、と不満げに呟くのだった。
だが、プロ故の矜持かすぐに咳払いして、真面目な顔に戻る。
「さて……今回、プレイヤー最強と目されていたソールレオンさんを見事下しましたクリムさん。先程の激闘は私も手に汗握って観戦していました!」
「うむ、ありがとう。我も勝てるとは思っとらなんだ。勝ちたいとは思っていたがな」
「それで、最後に北の氷河のシュヴァルさんに不意を突かれて惜しくも優勝を逃したわけですが、彼について何か思うことはございますか?」
そう、クリムへとマイクを向け質問する霧須サクラ。
端っこのほうを見ると、シュヴァルは気まずそうに目を背けていた。
「思うこと……か、そうじゃな」
クリムはこほん、と一つ咳払いすると、語り出す。
「勝負の場において、我はあやつの行動に何も問題は無かったと思うておる。あやつはあくまでも、戦闘不能になった仲間の代わりに己が役目を果たしただけ。負けたのは悔しいが、奴のことについては天晴れだと認識しておる」
元々そういうルール形式のバトルロイヤルに、そもそも卑怯も何もないしの、とクリムは肩を竦めてみせる。
「なるほど。落ち着いた、大人のご意見ありがとうございます……で、本音は?」
「お前今度戦場で見かけたら最優先で潰すからな」
「はい、素直なご意見ありがとうございました!」
完全に無表情で淡々と呟いたその回答に、司会のサクラが満足そうに頷いた。
その一方で、名指してヘイトを表明された彼はというと。
「おお怖……」
「ねぇ、シュヴァル」
「ん、どうした団長」
「君、後でちょっとツラ貸して?」
「なんで団長までソッチ側なんだよ!?」
目だけが笑っていないソールレオンに、何やら凄まれていた。どうやら自分は満足して負けたところだったのに結果がひっくり返されたのが、さぞ面白くなかったらしい。
「……ま、冗談はそこまでにして」
「本当に冗談なんだろうな!?」
そんな疑問を口にしたシュヴァルだったが、さっくり無視したソールレオンは、沈んだ表情をしていたリコリスへと向き直る。
「そっちの機械の娘も、すまなかったね。こいつが生きていたせいで辛い思いをしたんじゃないかな?」
「え……?」
「おい団長言い方ァ!?」
リコリスは突然気遣われて戸惑う一方で、シュヴァルはたまらずツッコミを入れる。
「そうだよシュヴァル。君、せっかく僕が最後に君の状態異常を治療して逃したのに、何シャオを女の子に任せて美味しいところ取りに行ったのさ」
「お前もかラインハルトォ!?」
そう、責めている……というか険悪な雰囲気は無いので、仲良く戯れあっている北の氷河が賑やかにしていると……不意に声を上げる人物がいた。
それは、三位ということで呼ばれたは良いが、大した活躍も無かったため小さくなっていた嵐蒼龍の面々……その中で一人、何事も無かったかのように愛想笑いを振り撒いているシャオだった。
「まぁまぁ、皆さん生配信ですし、ここは穏便に……」
「「「「「てめぇは黙れ (です) (なの)」」」」」
あの場に居たルアシェイアと北の氷河全員(ただしクリムを愛でることに夢中なフレイヤを除く)の声が唱和した。
なんと落ち込んでいたはずのリコリスさえその中に加わるほどで、その嫌われっぷりに、彼はやれやれと肩を竦め、黙り込むのだった。
「そんなわけで、僕ら北の氷河としても、あのクソむかつくニヤニヤ顔を吹っ飛ばしてくれた君には感謝しているよ」
「そうだぜ、あん時は先を越されて悔しかったが、スカッとしたぜ」
そう、彼女の健闘を称える北の氷河の面々。一方でルアシェイア側も……
「クリムも言っていたけど、最後負けたのは君のせいじゃない、向こうのラインハルトが一枚上手だったのさ。むしろあの生意気な餓鬼にひと泡吹かせてくれたおかげで俺たちが二位なんだから、誇っていいよ」
「取り逃していたら、あっちが一位だったかもしれませんです。それはぞっとしないのです」
「皆さん……ありがとうございます」
そう、励まされようやく笑顔を見せたリコリスに、両ギルド間でほっこりとした空気が流れる。
それを見ていた司会のサクラが、ハンカチを目に当てて何やらうんうんと頷いていた。
「いやー、先程まで覇を競い合っていたプレイヤー同士の友情、美しいですねー」
「……あの、司会のお姉さん。僕がずっとディスられているんですが……」
「は?」
「……ナンデモナイデス」
散々な言われように抗議しようとしたシャオだったが、司会の彼女の、清楚系で売っている身としてはちょっと生放送で流してはならない顔で凄まれて、渋々退散するのだった。
一方で、当事者ではなかったクリムとソールレオンはと言うと。
「……なあ、向こうでは何があったんだ?」
「……さあ?」
周囲についていけず、二人揃って疎外感を覚え、しょんぼりとしているのだった。
……そんな感じで、しばらく雑談に興じた後。
「さてここからは、個人賞の発表です。そして、ここからはゲストの皆さん、そして画面の向こうの視聴者の皆さんにも。コメントが見えるように表示しますね」
そう言って、司会の霧須サクラがパチンと指を鳴らす。
すると眼前の円卓に、コメント欄の様子が映し出された。
まずは、えーと、『トリックスター賞』ですね。戦場を盛り上げてくださった方に贈る賞なのですが……こちらの受賞者は、ギルド『嵐蒼龍』のシャオさんとなりました、はい拍手お願いします!」
『88888』
『妥当』
『おかげで盛り上がった。そこは認める』
『だが許さない』
『絶許』
名前が発表された瞬間、わっと流れるコメント欄。
やはりというか批判が多い内容に、彼は苦笑しながら賞状が入った額縁を受け取った。
そのほかに、敢闘賞には参加者最低年齢である雛菊が、最優秀指揮官賞にはラインハルトがそれぞれ選ばれた。
「それでは次『ベストバトル賞』! これはもう皆さん予想通りでしょうね!!」
『せやろな』
『これは疑う余地なし』
『事実上の最終決戦』
サクラの言葉に、コメント欄も満場一致で追従する。
「ベストバトル賞は……ギルド『北の氷河』のソールレオンさん、そしてギルド『ルアシェイア』のクリムさんですー! おめでとうございます!!」
『888888888』
『本当に熱かった、二人とも強かった』
『だがくりむちゃん痛め付けたのは許せん』
『ろりくりむちゃん可愛い』
『矢の刺さった箇所優しく撫でさすってあげたい』
『お巡りさんこいつです』
『で、結局最後の技はなんだったのか情報マダー?』
これまで以上にわっと流れていくコメント欄。
その内容がだんだんと。小さくなったクリムに対する『可愛い』に飲み込まれていくのを苦笑して眺めながら、ソールレオンのほうを向く。
「……次は、負けないからな」
「ああ、我もじゃ」
そう、ソールレオンと拳を合わせて、再戦を誓うのだった。
「あ、ちなみにベストバトル賞を受賞したお二人の激闘に関しては、後日公式のアーカイブにノーカットで配信されますので、皆さんおたのしみに!!」
「……は!?」
「ちょ、ノーカット!?」
「はい、お二人がエンカウントしてからずっと、ノーカットです!」
「「ちょっと待てぇぇええいッ!?」」
途中やらかした記憶が残る二人は、慌てふためいて抗議するが暖簾に腕押し。
さっくり無視した彼女は、次の話題へと話を切り替えるのであった。
「では次は、ついに個人の賞も最後、『MVP』の発表です……っ!!」
彼女の宣言と同時に周囲が暗くなり、ドラムロールと共に動きを再開したスポットライトが、一人の姿を示した。
「MVPは……ギルド『ルアシェイア』の、リコリスちゃんでしたー!」
「……ふぇ!?」
どうやら予想だにしていなかったであろう彼女が、スポットライトを向けられながら、フリーズした。
「選出理由としては、このゲームでは非常に難易度が高いと言われている狙撃手でありながらも、攻防両面においてその正確な狙撃が要所要所では仲間を助け続けていたこと、あとは『メカっ娘可愛い』という大量のファンメッセージ……それにやはり、シャオさんとの戦いでの最後の一射の時、その健気な様子に泣いた……という声が非常に大きかったから、ということによります」
「あ、ああ、あの、私ですか? ですが私は負けて……」
「そうですね……確かに、MVPは優勝チームからとの声も選出する側の運営からもあったのですが、今回は当の優勝チームからの強い推薦でもあるのです」
「え……」
優勝チームからの推薦。
思わず顔を上げて、北の氷河のほうを見つめるリコリスだったが。
「ま、あんだけ頑張った嬢ちゃんにはなんか悪いことしちまったからな」
「でも、君がそれだけの働きをしたって思ったから、推薦したんだよ。胸を張って誇って大丈夫さ」
そんなライバルチームからの温かい声に……とうとう、彼女は嬉し泣きの形にくしゃりと顔を歪めた。
「あの……私、こんな褒めてもらえるなんて思ってなくて……でも、皆さん優しい言葉をくれて、本当に……ありがとうございます、なの」
そう言って、目の端から一雫涙を零しながらも満面の笑みを浮かべるリコリス。
そんな彼女を隣に座っていたフレイが、よしよし、と撫でる。
『かわいい』
『カワイイ!』
『泣かないでー』
『おめでとー!』
『メカっ娘カワイイヤッター!』
『おかげでメカっ娘に目覚めました、ありがとう』
ワッと流れる、かわいいコール。
それにワタワタと焦りながら、必死にカメラへ向け何度も頭を下げている光景に……ふっとクリムの表情が緩む。
「……良かったねー、クリムちゃん?」
「……まぁな」
後ろから耳元に囁かれた、撮影機材が拾わないくらい小さなフレイヤの言葉に、クリムも深く頷く。
どうやら彼女が悲しい気持ちのままイベントを終えなくて良かったと、クリムはその光景を眺めながら、ホッと胸を撫で下ろすのだった――……
――――――
最終結果
1. 北の氷河 (40pt)
2. ルアシェイア (36pt)
3. 嵐蒼龍 (17pt)
4. Hexen Schuss (6pt)
5. 新巻シャケ (4pt)
6. 東海商事 (0pt)
7. リリィ・ガーデン (0pt)
8. 黒狼隊 (0pt)