Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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とある週末の風景

 

 ――紅が高校入学後、初の週末。

 

 

「ガフお爺ちゃん、調子はどうですか?」

 

 学校を終えた放課後。今日も今日とてログインし、自らの所有エリアであるネーブルの町を散策していたクリムは、武器屋の店主である、背が低く髭もじゃの、かなり高齢の男性……ドワーフ族であるガフさんに声を掛ける。

 

 クリムにお爺ちゃんと呼ばれたその男性は、その巌のような顔に嬉しそうに好々爺然とした笑みを浮かべて、金床から顔を上げた。

 

「おおクリム嬢ちゃん。あんたが素材を用立ててくれたおかげで、あともう少しで自警団に納入する武器は全部揃うぜ」

「え、もうですか!? 納期にはまだまだ余裕がありますが……」

「なぁに、どうせ他には凹んだ鍋の修理や包丁の研ぎの仕事しか無いからな!」

 

 がっはっは、と豪快に笑う彼に、なら良かった、と微笑んでみせるクリム。

 

「新しい炉や道具の調子はどうですか?」

 

 武具の充実は、最優先事項。

 故に豊富な人気ポイントという財力にあかせて、クリムは可能な限りの投資を彼ともう一人、彼の弟である防具職人に行なっていた。

 そのため設備は現状最高のものを揃えたはずだが、急に環境が変わりその調子を崩してないか不安だったのだが。

 

「ああ、よく働いてくれてるよ。儂の腕を買ってこんな良いモンをわざわざ用立ててくれた嬢ちゃんには、感謝の言葉も無ぇ」

 

 そう、今度は涙を浮かべながら、ありがとうよと頭を下げる。

 

「……今後、いっぱい仕事を回すことになってしまいますけれど」

「街の連中を守るためなんだろう? 儂の作ったモンがそれに役立つなら願ったりってもんだ。喜んで協力するとも」

「ありがとうございます、ガフお爺ちゃん」

 

 再び頭を下げてから、また他の場所にも顔を出してまわり、町の人々と交流して回る。

 それが、学校から戻ってから昴と聖が帰宅してログインするまでの間に行う、クリムの毎日の日課だった。

 

 

 

 

 リアルとは時間のズレのあるこの『Destiny Unchain Online』の世界。

 今は昼下がりの時間であり、遊び盛りな子供たちが、町中を駆け回っていた。

 

「あ、クリムおねーちゃんこんにちはー!」

「「こんにちはー!」」

「うん、こんにちは」

 

 脇を駆け抜けていく子供たちが、すれ違い様にクリムに挨拶をしていく。

 その様子に微笑みながら手を振っていると……ふと、背後に悪い気配を感じた。

 

 パッと振り返って手を伸ばすと……丁度、クリムのスカートに手を伸ばしていた二人組の町の悪ガキの手首が、クリムの手中に収まっていた。

 

「はい残念。あいにくとそんなんじゃ、私の背後は取れないよ」

 

 そうニッコリ微笑みながら……悪ガキたちに見せつけるように握りしめた拳に、息を吐き掛ける。

 その様子から、その後の展開を察した少年が、慌てて頭を下げる。

 

「あ……を、ね、姉ちゃんごめん……!?」

「はい、よく謝れました」

 

 ニコッと笑ってみせるクリムに、悪ガキたちにホッとした空気が流れる。

 

 ――だがしかし、信賞必罰。世の中全てが謝ればそれでOKとはいかないのである。

 

 それはそれとして、心を非情にしたクリムは、その拳を安堵しかけた悪ガキたちの脳天へと思いっきり振り下ろしたのだった。

 

 

 

「くっそ、このブス、覚えてろよ!?」

「パンツくらいで大人気ねーぞこのババア!?」

「くはは、いつでも挑戦を受けて立とうぞ、(わっぱ)どもよ!」

 

 そう、ノリノリで撃退し、仰け反って高笑いし、捨て台詞を吐く少年たちに勝ち誇った――直後。

 

「クリムおねーちゃん!!」

「お゛っ!?」

 

 ちょっと美少女としてあるまじき声が出た。

 背後から全速力で抱きついてきたジュナの体重を腰でモロに受け止めたクリムが、脚をガクガクさせて崩れ落ち、大地に蹲る。

 

「ねぇジュナ……お願い……腰は駄目……いいね……?」

「はーい?」

 

 額に脂汗を浮かべ、はひゅー、はひゅーと変な呼吸音を鳴らしながら息も絶え絶えに告げるクリムの忠告に、首を傾げながらも素直に返事を返す見慣れた少女。

 

 

 だがそこはゲームアバターである。

 すぐに自然治癒スキルで立ち直ったクリムが、ふぅ、と深呼吸をした、その時。

 

「なんていうか、ねーちゃん、めっちゃ町に馴染んでるよな」

「あ、ジョージ、こんにちは」

「おう」

 

 クリムが悶え苦しんでいる間に、いつのまにかジョージが近くまで来ていた。お互いに、軽く手を上げて挨拶する。

 

「あ、お兄ちゃん遅いー」

「無茶言うな、さっきまで雛菊とバトってたからヘトヘトなんだよ……」

 

 ジュナの苦情に、疲れた様子で応えるジョージ。

 なるほど言われてみると、彼はずいぶんとボロボロになっているように見えた。

 

「それで、二人は何をしていたの?」

「ああ、鬼ごっこだよ。ジュナと、あと雛菊とリコリスも一緒に」

「ああ、二人はもう来ていたんだ。でもリコリスはともかく、雛菊は……」

「ああ……全然捕まんねぇの……」

「あのお姉ちゃん凄いねー」

 

 だろうなぁ、とクリムが苦笑する。

 

 多分リコリスは、年下の子供相手だからお姉ちゃんとして手加減してくれているのだろう。

 そもそもが、機術を全開に使用された場合、クリムだってあの子は捕まえられないのだし。

 

 一方で雛菊は、あまりそういうことは頓着しない、勝負事は絶対負けたがらない子だ。

 そもそも身体能力は図抜けているし、案外回避のトレーニングくらいに思ってるんじゃないかなぁ……と思ったが、それは胸中にしまっておいた。

 

「それにしても、てっきりジョージくらいの男の子は、自警団に入れてくれってわがままを言うかと思ったけどね」

「はは、ちょっと前なら言ってたかもな」

 

 クリムの言葉に、苦笑しながら答えるジョージ。だがそれはすぐに、悔しくてたまらないといった表情に染まる。

 

「分かってるよ、オレじゃ実力不足だろ」

「……まぁ、そうだね」

「だよなぁ」

 

 そもそも一度自分の能力以上のことをしようとして、失敗した経験のあるジョージだ。どうやらその時の苦い経験が、彼をぐっと成長させたらしい。

 

「分かってる……オレの役目は、何かあったらジュナと母ちゃんを守ることだからな。悔しいとは思うけど、そんなわがままは言わないさ」

「ジョージ……ふふ、今の君は、格好いいと思うよ?」

「バッ……お前、すぐそういうこと言うのやめろよ!?」

「あ、待ってよお兄ちゃん!?」

 

 何故か顔を真っ赤にして立ち去ってしまったジョージと、慌ててその背中を追っていくジュナ。

 何か怒らせてしまったろうか……そう一人残されたクリムが首を傾げていると。

 

「はは、青春だねぇ」

「あ、ルドガーさん。青春ってなんのことですか?」

「……あ、さてはこれ脈無ぇやつだな」

「……??」

 

 はぁあ、と深々と溜息を吐いて肩をすくめるルドガーに、クリムはさらに頭に疑問符を浮かべ首を傾げる。

 

「いや、なんでも無い、大人が首を突っ込んでいい問題じゃねーしな……しかしまぁ、凄いもんだなあ」

 

 

 話題を変えるように、そうルドガーが呟く。

 彼が見つめているのは、丘の上で石を積み上げて塀を作っている、三体の石人形……エリアマスターが使役できる、施設建造用のゴーレムだ。

 

 エリアマスターのギルドマスターに、各エリア毎に五体ずつ支給されるこのゴーレム。

 一体につき一つの建造物作成の指示しか出せないが、領土開発の心強い味方である。

 

 

「ところでルドガーさん。一つ相談があるんですけど」

「……ん?」

 

 領土開発といえば、有事に備えて相談したいことがあった。そのことを思い出したクリムは、真剣な顔でルドガーに語りかけるのだった。

 

 

 

 

「……なるほどな。有事の際のための避難所を作りたいか」

「ええ。主に火攻めにされた際の対策なのですが。火の手を防ぐ結界を張る手段があるのですが、全ての家に設置する余裕はさすがに無くて」

 

 ……ちなみに、ゲームシステム的には建造物の中に入った住人たちに手出しはできないことになっている。

 

 だが、炎が回れば話は別だ。それ対策の延焼防止の結界も設置は可能だが、発動には日頃からエリアの魔力貯蔵庫に貯めておいたMPを消費するため、民家の一軒一軒に設置するのはあまりにも効率が悪い。

 

 ゆえに、普段は公民館、有事の際に避難所として機能する大きな建物が欲しいクリムだったが……今は、その設置場所に悩んでいるのだった。

 

 

「周辺にそういう争いの気配もありませんし、今後あるとも限りませんので、今すぐどうこうというわけではないのですが。普段は町の皆で使う会議場として開放してもいいですし」

「それは願ってもないが……いいのか嬢ちゃん、それもお前さんに作らせちまって」

「構いません、これも私に必要なことですから」

 

 申し訳なさそうなルドガーに、クリムは『私に必要』を強調しながら笑顔で快諾する。

 

「……分かった。皆と相談して、場所を決めておこう」

「はい、ありがとうございます」

 

 これで、あとは任せれば場所は大丈夫だろう。懸念が一つ減ってホッと一息つくクリムだったが。

 

「あの城が使えたらいいんだが……」

 

 そう言ってルドガーが眺めるのは、うっすらと霧に包まれた湖中の城。

 

「ま、橋でもないと行き来には不便だしな。嬢ちゃんもあんま無理しないよう頑張れよ」

 

 そう言って、立ち去っていくルドガーの背中を見送ったクリムが、顎に手を当てて思索にふける。

 

「橋……そうだ、橋だ、もしかしたら……」

 

 ふと思いついたように、クリムが眼前の空間に手を掲げる。するとそこに現れたのは、野球ボール大の一つの銀色のオーブ。

 

 これは、エリアマスターに与えられる、領地の管理メニューにアクセスするための端末だ。また、建造を担うゴーレムの管理などもここから行うことになる。

 

 そんな端末のメニューから、この『泉霧郷ネーブル』のマップを開き……思わず、よし、とガッツポーズを取った。

 

 湖中央に鎮座する城とその周囲はさすがに『泉霧郷ネーブル』とは別エリア扱いだったが……島の一角が、ギリギリでクリムが有するエリアが踏み込んでいた。

 その場所へと向けて、湖畔の一角、クリムたちのギルドハウス前から湖中央の城が鎮座する島まで一本の線を引く。

 

 ……この線は、城へと向けて架ける橋の予定地だ。

 

「舟で乗り込むつもりだったけど、よく考えたら橋を掛ければ良いんだよね……」

 

 幸い、街のほうでは自警団屯所が今朝方完成したために、施設拡張のためのゴーレムへの指示枠は空きができている。そのゴーレムへと、橋の建造の指示を追加した。

 

「これでヨシ、っと」

 

 城のある島までの橋をゴーレムに指示して、満足げに頷く。工期は二週間、さすがに時間が掛かるみたいだが、のんびり待てばいい。

 

 ……のだが。

 

「……ちょっと、見に行ってみようかな」

 

 やることが終わり、クリムはソワソワとした様子で霧の掛かる湖上、薄らと見える城の方を眺める。

 

 後日、北の氷河、嵐蒼龍と合同で調査する予定ではあるが……行く算段が決まると、かえってどのような場所なのかがどうしても気になる。

 

 

 ――ちょっと偵察してくるくらい、いいよね?

 

 

 そうと決まれば善は急げとばかりに、まるでスキップでも始めそうな軽い足取りで、借りられるボートを探しに行くクリムなのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――この時のクリムの頭からは、すっかりと抜け落ちていたのだろう……好奇心は猫をも殺す、という言葉があるということを――……

 

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