Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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来客

 

 ――鬼鳴峠、シュヴァルツヴァルト入り口付近。

 

 

 

「あ、来た来た。あれかなー?」

「うん、そうみたいだね」

 

 遠方から見える、黒の軍服の集団……北の氷河メンバーを見つけ、クリムとフレイヤは大きく手を振って自分たちの居場所を主張する。

 

 ――二人は今、合同演習のために遠出していた北の氷河の皆を迎えに、最近新たに支配下に置いたこの鬼鳴峠まで来ていた。

 

 ちなみに、本当はフレイも連れてくる予定だったのだが、今はいない。気付いたら姿を眩ませていた。

 

 ――あの野郎逃げやがったな。

 

 そう、内心で悪態をつくものの、まぁ今回は護衛が必要な柔な連中ではないため大丈夫だろう。

 

 

 

「やあ、出迎えご苦労様」

「うむ、お主は遠路遥々ご苦労じゃった」

 

 クリムは先頭を歩いていたソールレオンと挨拶をして、軽くハイタッチをする。そこに、宿敵としての確執は見て取れず、お互い戦闘は戦闘として割り切っている様子が見て取れた。

 

 ラインハルトとシュヴァルについては、クリムも以前、大会後の配信で自己紹介は済ませてある。となると、あと初対面なのは……

 

「それで……我は、そちらの二人とは初対面じゃな。よろしく頼む」

「リューガーだ、よろしく頼む」

 

 そう、言葉少ないながらも手を差し出してきた大柄なドラゴニュートの男性に、快く握手に応じる。

 

 ――おー、すっぽり手が収まる。

 

 リアル身長から前後十センチメートルまでしか身長を弄れないゲームだというのに、二メートル近くは身長がある彼は、たとえ最大まで盛っていたとしても相当に長身なはずだ。

 その手のサイズ差に、ちょっと感動を覚えるクリムなのだった。

 

 そんな中次に歩み出てきたのは、北の氷河メンバー唯一の女性。

 

「私は、エルネスタと申します。お会いできて光栄ですわ、赤の魔王様」

「う……うむ、こちらこそ、この数日間よろしく頼む」

 

 お嬢様然とした年上の少女に、クリムは内心ドギマギとしながら、その嫋やかに差し出された手を取り握手する。

 

「……?」

 

 ところが、何故か彼女はクリムの手を離そうとせず、それどころかジッとその顔を見つめてくる。

 なんだろう、とクリムが首を傾げた、次の瞬間――

 

「……可愛い」

「……へ? むぐっ!?」

 

 ――ポツリ、と呟いた直後、クリムの頭が、身長の関係上、彼女のちょうど胸のあたりに抱き込まれた。

 

「ああ、やはり可愛いです……っ!」

「――ッ!?!?!?」

 

 柔らかいものに包まれて、呼吸ができない。

 パニックに陥っているクリムだったが……

 

「ちょ……ちょっと、うちのクリムちゃんに何してるんですか!?」

 

 珍しく声を荒らげ、エルネスタからクリムを奪い取るフレイヤ。

 だが結局は埋もれる胸が変わっただけであり、クリム的には全く状況は好転していなかった。

 

「むー! むぅー!!」

「あ……っと、あはは、ごめんねー!」

 

 窒息のスリップダメージでHPゲージが一割ほど減少した頃、さすがにクリムが慌ててフレイヤの背中を叩き、ようやく解放される。

 

 クリムはそのまま、フラフラとした足取りで男性陣のほうへと逃げていくのだった。

 

「えぇと……ごめんなさい」

「ねぇ、ごめんってばー」

「フーッ!!」

 

 ソールレオンを盾に、今回ばかりは女性陣を威嚇するクリム。

 その様子に二人がシュンとなって反省したのを確認し、クリムはようやく盾にしていたソールレオンの陰から出ていく。

 

「……死ぬかと思った」

「……その、すまん」

 

 光が消えた目で呟くクリムに、気まずそうに謝罪してきたのは……意外にも、寡黙なリューガーというドラゴニュートだった。

 

「……あの子は、そういう趣味の持ち主で?」

「いや……」

「一応、ちゃんと恋愛対象は男性だそうだよ……ただし、無類の可愛いもの好きでね。今回こちらに来るのを一番楽しみにしていたんだ」

「はは……僕たちはあまり華がないからね」

「はぁ……」

 

 北の氷河の男性陣が、皆苦笑しながらそんなことを曰う。

 なんということだろう……一番まともに見えた人が、一番ヤバイ人だった。

 

「……お前たちのところの子供たちにも、警告を送っておけ」

「……そうする」

 

 どうやら、本当に一番の常識人なのは、この寡黙なドラゴニュートだったらしい。

 リューガーに促され、クリムは早速雛菊とリコリスに注意喚起の文章を送っておくのだった。

 

 

 

 ……と、そんなドタバタもありながらも、ネーブルに向けて歩き出した一行だったが。

 

 そんな中で一人……いや()()、やけに距離を空けてついてきている者が居た。

 

「……それでシュヴァル、お前はいつまで離れて見ているんだ?」

「いや……でもなあ」

 

 ふと、ソールレオンが呆れた様子で離れた場所でコソコソ付いてくる弓使いに声を掛ける。

 

「大丈夫、さすがに対戦外にまで怨恨を持ち込むほど野暮じゃないというに」

 

 クリムも、もう気にしていないと声を掛けるのだが、加害者側はなかなか割り切れるものではないらしい。

 

「だってよぅ、闇討ちで心臓ぶち抜いた子だぜ、気まずいに決まってんだろ……」

「いいから早く謝れば良いじゃないですか、アホ兄」

 

 ……そう、離れた場所に居る二人目というのが、先日の戦闘には居なかった()()()。この、何故かメイド服を纏っている少女なのだ。

 

 

 

「……のぅソールレオン。ずっ……と気になっていたのじゃが! あのメイド服の子はなんじゃ?」

「ん? ああ、私のお付きの侍女で……」

「申し遅れました、私、そこのシュヴァルの妹の、レティと申します。以後お見知り置きを」

 

 いつのまにか傍に来ていた彼女……レティが、やたらと堂に入った礼を返してくる。その所作は「ごっこ」などではない、長年そうした仕事に就いていた者特有の本物の貫禄を醸し出していた。

 

「あの、ソールレオンとは……」

「幼い頃から、身の回りのお世話をさせていただいております」

 

 軽く会釈して、そう告げる彼女。

 

「身の回りの世話にとついてきたのだが、仲良くしてやってくれると嬉しい」

「……お主、お付きのメイドとか居るんか。貴族か石油王か何かなのか?」

 

 この、家のことはだいたいAIと機械がやってくれるご時世の日本で家政婦をわざわざ雇うなど、よほどの暇と金を持て余した者でしかない……はずだ。

 

「はは、似たようなものですね。ね、レオン?」

「勘弁してくれラインハルト。そう言った煩わしいものから一時的に逃げられるよう、お爺様に頼み込んで『こちら』に留学してきたんだ」

「まぁ、まだ遊んでばっかだけどな」

「シュヴァルも、そう言わないでくれ。仕方ないじゃないか、お爺様が、まだ戸籍の準備には時間が掛かるって言うんだから」

 

 元からリアルでも顔馴染みらしい三人が、何かおかしなことを言っている。

 

「ますます、何者なんじゃ、お主……?」

 

 底知れぬソールレオンに、いよいよもってジト目で睨むクリムなのだった――……

 

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