Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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Destiny Unchain Offline ③

 

 公式のアーカイブに保管されている、無数の動画。

 

 紅は今、その中の一つ……自分たちがボスと戦っている配信動画を開き、眺めていた。

 

 多種多様なコメントが流れていく画面の中で、俯瞰で見た自分と仲間たちが、巨大な魔獣と戦闘を繰り広げている。

 

『おい誰だよ最強の魔獣(笑)とか言った奴』

『攻撃痛えなおい』

『俺、北の氷河のタンクが一撃であんだけライフ削られるの初めて見た』

 

 その経緯のせいで、『最強の魔獣(笑)』と呼ばれるようになってしまった可哀想なボスであるが、その姿を知る者は今まで誰も居なかった。

 

 だが蓋を開けて対峙してみれば、それは強靭で巨大な体躯を持ち凶悪な殺気を放つ、決して『(笑)』などと付けられるような生易しい存在ではない、正真正銘の魔獣である。

 

 それがとうとう白日の下に晒されて、思っていたのと違うとばかりに戸惑いを見せるコメントたちに、ついクスッと笑ってしまう。

 

 だがしかし、主な攻撃はメインタンクが受ける一方で、周囲に気紛れに撒き散らされる攻撃を避けながら着実にダメージを与えていく他の者たち。

 そんな中で、白い髪の女の子……つまり自分が、銀髪の双剣士と言い争いながら武器を振るっている。

 

『じゃがーw』

『ぷんすかしとるの可愛いw』

『やっぱりこのボス強化されてるのか……』

『やっぱり以前に撃破したのクリムちゃん確定か』

『そんなことよりじゃがー可愛いw』

 

 流れていくコメントの一部に、思わず口元を覆う。おそらく顔は赤くなっているに違いない。

 

 ……可愛い、と言われるのは未だに慣れない。酷く気まずいものを感じるも、思わず窓を消したくなる衝動をぐっと呑み込んだ。

 

 そうこうしているうちにボス討伐のほうは進み、皆も(こな)れてきてだいぶ軌道に乗り、安定してきた。

 このまま行けば、トラブルも無くすんなりと……そう、流れてくる視聴者のコメントがややダレ始めてきた頃に、突然画面一杯が黒い闇に覆われて――

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「……さん……あれ? ねえ、満月(みつき)さん?」

 

 突如外部からかけられた声に、仮想空間の自分の席に座って動画を眺めていた紅が、現実の側に急遽意識を引き戻される。

 

 デバイスのカメラ正面に映っていたのは、紅の通う学校の制服を纏った、素朴で可愛らしい、黒髪おさげの真面目そうな女の子……紅もたびたびお世話になっている、学級委員長の後藤さんだ。

 

『あ……ごめんなさい』

「ううん、いいの。大丈夫? 具合悪かったりしてない?」

『だ……大丈夫、です』

 

 少しでも声を聞かせないように、だけど愛想が悪くはならないよう、最低限のことをどうにか聞こえているであろうギリギリの音量で返事を返す。

 

 

 

 これは未だに治らないアバターのままの声に対する、紅の最後の抵抗みたいなものなのだが……ところが、クラスの評判はというと。

 

 ――儚げで、人見知り。それでも頑張って返事は返してくれるいい子。

 

 ……という、紅の想定とは違う方向に受けとられていた。先の病弱少女という誤解も相まって、庇護欲を刺激する要因となってしまっているのだが、知らぬは本人ばかりなりとなってしまっているのだった。

 

 

「そう? なら良いけど……ゴールデンウィークの課題、そっちに送るからね?」

 

 そう言って、メモリースティックを紅の机の片隅にあるスロットに挿し込む後藤さん。

 

 そのメモリースティックから転送されてくる課題の量を見て……案外少ないなと安堵するのだった。

 

「それじゃ、お休み楽しんできてね」

『あの……ありがとうございます』

「うん、どういたしまして……早く退院して、一緒に学校に来られるといいね?」

 

 立ち去る彼女の背にそんなお礼の言葉を投げかけると……彼女は、にこっと紅の方へ笑い掛けてそのようなことを告げてから、自分の鞄を手にして教室を出ていった。

 

 

 

 

 ――今は、ゴールデンウィークが始まる前日の放課後。

 

 クラスメイトは皆、明日からの長期休みに心躍らせながら帰宅していくところだった。

 紅はというと、そのまま仮想空間へ戻ればいいだけなのだが、今は職員室に所用で出かけている聖と昴……宙から頼まれた、紅の退院の日取りと登校再開のための書類を担任に届けてくれている二人を待っているところだった。

 

 皆が帰宅し終えても、二人はまだ戻ってこない。

 なんだろうと首を傾げながら、先程の動画の続きを見ていると……丁度戦闘終了したあたりで、ようやく二人が帰ってきた。

 

「あれ、紅君のデバイス、ランプついてるね?」

「まだこっちにアクセスして待っていたのか、紅?」

 

 そんな二人が、帰り支度を整え始めながら紅のほうへと話しかけてくる。

 

『うん。でも、随分と時間が掛かったね?』

「ごめんねー、先生と話してたら遅くなって」

『いいんだよ。その話も、俺に関係することなんでしょ?』

「そうなのよ。宙さんに渡されたのがなんか凄い分厚い封筒でね、理事長に話をするからちょっと待っていてって言われてさぁ」

「なんだか、妙に慌ただしかったけど、あれはなんなんだろうな?」

『ふぅん……?』

 

 聖と昴の話に違和感を覚える紅。はたして、そんな大事(おおごと)にするようなことだろうかと考えていると。

 

「紅くん、裏でこっそり何か見てたでしょ?」

『あ、あはは……うん、前日の魔獣戦の動画をね』

「凄い人気だよな。まだまだ閲覧数は伸びてるんだったか」

 

 ボス討伐実績の豊富な『北の氷河』と、人気のある『ルアシェイア』のメンバーによるコラボ配信という時点で注目度は高かったのだが……今回は、その相手がなぜか最初に討伐されたボスであるということが、その注目度を上げていた。

 

 おかげで折半であるにもかかわらず人気ポイントは大量に入ってきており、北の氷河の三人を傭兵に雇ったことで寒くなりかけたギルドの懐は、今はまただいぶ暖かくなっていた。

 

「雛菊ちゃん、すごく喜んでたねー」

『うんうん、やっぱりああ喜んでくれると嬉しいよね』

 

 

 

 ……先日の魔獣討伐のラストアタックを得たのは、雛菊だった。

 

 そのボーナスとしてドロップしたのが『鬼切の太刀』という強力な刀だったものだから、彼女はそれはもう凄い喜び様だった。

 

「宝物にします!」

 

 そう言って嬉しそうに鞘に収まった太刀を抱きしめて笑う様を見れば、ラストアタックを逃した悔しさなど影も残さず浄化されてしまうというものだ。

 

 その他、レアな革の鎧下なども出たのだが、そちらは残念ながら公正なロットインの結果、北の氷河のメインタンク、リューガーのものとなっていった。

 悔しがっていたのは同じくタンク構成であるフレイヤだったが……直後には気にしていないようで、あっけらかんとしていた。

 

 その他、ハイディングブーツという足音を低減する革のブーツをリコリスが競り落とし、山ほど出た素材はそれぞれ等分してお互いのギルドで分け合って、戦利品の分配は終わったのだった。

 

 

 

 

 

「だが……やはり、向こうのギルドに頼っていた部分が大きかったのは否めないな」

 

 紅のデバイスを聖の肩にマウントし直して下校する途中、ポツリと呟いたのは昴。それは、ギルドの皆が感じていたことだった。

 

『そうだね……やっぱり、本格的なボス討伐ギルドはすごいなって思ったよね』

 

 構成による適材適所とはいえ、最も負担が掛かるメインタンクとサブタンクを向こうにやってもらっていたことには変わりない。そして、自分たちにはあそこまで安定した立ち回りは難しいことも。

 

『今度は、僕らだけでも討伐できるようになりたいところだけど……』

「人員の追加、かぁ」

『うん。今の皆にはサブマスター権限を割り当てておいたから、これはと思う人が居たら勧誘よろしくね』

 

 そう言って、この話題は締め括る。

 そしてもう一つ、伝えなければならないことがあった。

 

『それで……決行の日取りが決まったから、伝えておくね』

 

 クリムの切り出した本題の話……ダンジョンレイドの話だ。

 

『突入は、ゴールデンウィーク最終日の朝の九時』

「その日って……」

『うん……俺がログアウトできる日の、前日だね』

 

 

 どうやら正真正銘、帰還前の最後の大仕事となりそうだった――……

 

 

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