Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 作:resn
――ゴールデンウィーク最終日、決戦当日。
ルアシェイア、北の氷河両ギルドは今、残る嵐蒼龍のメンバーを出迎えに、森の入り口へと集合していた。
「……来たようじゃな」
そう森のほうへと目を向けると、森へと続く道……交通の利便性の確保のため、知らなければ見つけにくいようカモフラージュして新たに開通させた……から、五人の集団が現れたところだった。
現れた五人……嵐蒼龍の先頭を歩く少年、ギルドマスターであるシャオがクリムたちのほうに気付き、一歩前に出て礼を取る。
「本日は、お招きいただきありがとうございます……もっとも、一部の人にはたいそう恨まれているみたいですけど」
そう苦笑して肩をすくめるシャオに、周囲の空気が張り詰め掛けるが……
「あー、お兄ってば、まだちゃんと謝ってなかったの!?」
「ちょ……メイ、来てもいいから静かにしていろって約束だったろう!」
嵐蒼龍のメンバーから歩み出てきた、一人だけ小柄な少女……おそらくはリコリスと同じくらいの年の少女が、なんとシャオに怒り付けていた。
「ごめんなさい、性格の悪いお兄で。でもでも、お兄にも可愛いところがあるんですよ?」
「メイ、ちょっと黙ってくれないか。今大事な話の最中で……」
「例えばー、お兄ってばキャラで『シャオ=シンルー』なんて付けてるけど、これ半分はパパについていって海外に出張中のママの名前から取っててー……」
「メイ、ちょっと黙っててくれないかなぁ!?」
普段の人を小馬鹿にした仮面をかなぐり捨てて、妹の口を慌てて塞ぐシャオ。その光景に、一同揃って呆気に取られていた。
「えー、でも……」
「おい、誰かこいつを一時的に摘み出せ、話が進まない!!」
「はいはい、ちょっとこっち行ってましょうね、お嬢」
「ちょっとー!?」
もはや冷徹な少年の顔もどこへやら。必死の形相でそう部下に指示を出すと、嵐蒼龍から二人のメンバーが歩いてきて、彼女を引きずって連れていってしまう。
……どうやら、青の魔王様も妹には勝てないらしい。
これ、どうしよう……そんな空気が全員の間に流れるのだった。
「全く……これだから、連れてくるのは嫌だったんだ」
「あ、あはは……ドンマイじゃ。元気で可愛い妹さんじゃな?」
頭を抱えてボヤく彼に、クリムが苦笑しながらフォローを入れる。
「元気すぎて厄介ですけどね……さて」
彼はこほん、と一つ咳払いすると……特にシャオに敵意を向ける様子もなく静かに佇んでいたドラゴニュートの男性、リューガーに視線を向ける。
「それで、実際に直接影響を受ける君は? 僕が後ろを務めることに対して何か言いたいことはないの?」
揶揄するような微笑を浮かべ尋ねるシャオだったが……
「……背中を預ける仲間を信じなければ、タンクなぞできんからな」
「おっと……これは一本取られましたね」
ボソリと呟いた、リューガーの至極まっとうな正論。その大人の意見に、シャオもさすがに頬を掻いて苦笑する。
その後を引き継ぎ声を発したのは、総指揮官となるソールレオンだった。
「それに、私のギルドメンバーに不利益となるような何かをしでかすならば、皆に代わり私が斬るだけだ」
「……怖いなぁ。少なくとも、貴方だけは敵にしたくないですね」
ソールレオンの率直な言葉に、ひくりとシャオが顔を引きつらせる。ちょっと可哀想になってきたクリムは、少しフォローしておくことにした。
「でも、主は約束とか契約とか、それを介した信頼は大事にする人に思えるからの。我は主を信じよう」
「……っく、これだから恥ずかしいことを臆面もなく言える天然は困るんですよね」
ニコッと笑ってサラリと答えたクリムに、シャオがとうとう照れた様子で視線を逸らす。
そんな彼を見て、どうしたんだろうと首を傾げているクリムに、はぁ、と溜息をついて肩をすくめるシャオなのだった。
「……全く、どうも僕以外の魔王二人は常識に欠けるんですから困ったものです」
「は? どちらかというと主とソールレオンが非常識じゃないかの、育成速度とか」
「私に言わせたら、君たち二人の場当たり的なギルド運営こそ随分非常識だと思うんだけど」
「「「……え?」」」
三人揃って首を傾げる魔王たち。
どうやら、三人とも皆、自分だけはまともだと思っていたらしい。故に……
「お前ら三人全員非常識なんだよ……ッ!!」
そう腹の底から本音を吐き出すようなフレイの発言に……その場にいた三人を除く一同が、揃って頷いたのだった。
◇
完成した島へと続く長い橋を渡り、崖の階段の下に立つ。
いよいよリベンジの時……皆の代表として、クリムは階段を登る。
『赫剣神域キャッスル・オブ・セイファート を開始しますか? Yes/No 【参加人数 15/15】』
その問いに、YESのボタンを押す。すると、みるみる周囲を覆う霧が晴れていき、道が開かれていく。
「さあ、行こう、皆」
振り返り、皆を促して階段を上り切る。
「うわ、綺っ麗ー!?」
階段を登り切って早々、真っ先にそんな声を上げたのは、フレイヤだった。
「凄いです、空も湖も真っ青です!」
「草原と、奥の白いお城がとても素敵なの……!」
「お弁当持ってくるんだったなあ、ピクニックとかしたら楽しそう!」
雛菊とリコリス、そしてもうここまでの道中で彼女たちと仲良くなったらしいメイの年少組が、目の前に現れた絶景に感動し、草原をはしゃぎ回る。
そんな様子を優しく見守る皆だったが。
「綺麗だけど、寂しさを感じる場所だね。この辺りには、敵は居ないんだね?」
「うむ。だけど気をつけるのじゃ、しばらく歩いていくと急にバトルフィールドが現れるからの」
「君が負けたという、アドナメレクという女騎士か」
そんなソールレオンの言葉に、クリムが頷く。
以前は、クリムも風景に見惚れて歩いた道。
諸行無常を感じさせるその廃墟を歩いていくと……なるほど、一つ丘を越えた場所に、庭園跡地らしき円形の石畳があった。おそらく前回は、うっかりあの場所に踏み込んだのだろう。
「あそこじゃ」
「……? 何も見当たらないが……」
クリムの横を歩くフレイが、首を捻る。
だが……ある程度近寄った時、それは起きた。
『――ようこそ、強き少女とその仲間たち』
そんな涼やかな声と共に、まるで刻が過去に巻き戻るようにして、周囲の風景が一変した。
朽ちた石畳は、綺麗な白亜へ。
周囲の枯れ果てた庭園は、色とりどりの花園へと。
『どうやら、今度はきちんと仲間を連れてきたようですね』
すうっと現れた、黄金の髪を持つ真紅の騎士……アドナメレク。
いっそ慈愛すら感じる笑みを浮かべる彼女だが……しかしその姿を見せた瞬間、周囲の圧が増した気がした。
『我が名はアドナメレク。獅子赤帝十二剣、第十席にして、騎士長エフィエの妹。魔を滅する光の騎士である』
そう、前回と同じ口上を述べて立ち塞がる彼女に、皆がそれぞれの武器を構える。
「それじゃ……皆、頼んだぞ」
「任せて、この日のためにやれることは全部やってきたんだから!」
そう力強く頷いて、皆の前に立つフレイヤ。他の皆も、それに追従して並ぶ。
「お前ら魔王ども抜きでもやれるって、証明してみせるさ、行こう、皆!」
指揮を執るフレイに、皆が応、と頷く。
それを見届けて、クリムたち魔族系プレイヤーはバトルフィールド外へと後退した。
『では……参ります。全霊を以てあなた方がこの先へ進む資格があるか、私に示してみなさい』
そう言って彼女は赤剣を大地から抜き放つ。
こうして戦いの火蓋は切られ、長い一日が始まるのだった――……