Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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満月紅の帰還

 

 イベントも終了し、レイドダンジョンの外に放り出された一行。

 最後に核地雷級の爆弾を残していかれたものの、まだやるべきことは残っていた。

 

 ――そう、楽しい楽しい戦利品分配である。

 

 ルアシェイアでは、道中のボスのラストアタックボーナスとして、まずアドナメレクに最後の一撃を与えたリコリスが、『サンダルフォンリング』という確率で光属性の追加ダメージを与えるリングを入手した。

 

「私、リアルではそうした装飾品は持ったことが無いから嬉しいの……!」

 

 そう言って喜んで指に嵌めて眺めていたリコリスだったが……後で、おそらく「誰から貰った」とこちらに問い詰めてくるであろうリュウノスケに説明するのが大変そうだなぁと、こっそり悩むクリムだった。

 

 続いて、アドニスを下したクリム。こちらは『アリエルドレス』という可愛らしい戦闘用ドレスだった。

 入手した品を確認した瞬間「げ」とうめき声をあげて顔を引きつらせたクリムだったが……お蔵入りにしようとしたところ、主にルアシェイアの女性陣に強硬に拒否されて、後日もとの姿に戻ったあとにお披露目することを約束させられて、さめざめと泣くのだった。

 

 その他、フレイヤは『カマエルの錫杖』という治癒術師向けのロッドと、『ザフキエルの聖衣』という鎧の下に着られる法衣をロット勝負にて競り勝って入手した。

 

 フレイというと、こちらは『セファー・ラジエール』といういかにもレアじみた魔導書を入手して、とても嬉しそうにしていた。

 

 雛菊も雛菊で『ザドキエルの外套』なる、かなり防御性能が優秀なマントを入手してご満悦であり、少なくともルアシェイアのメンバーは皆、なんらかの収穫を得ることができていたのだった。

 

 主な有用なレア品はそのあたり。他にもレアではないが高品質な装備などの戦利品もあって、戦力的にはかなりの向上が見込めそうだった。

 

 

 

 

「さて……」

「最後に決めねばならぬのは『これ』じゃな」

 

 ある意味では、今回最大の戦利品。

 そう……セイファート城である。

 

 ちなみにやや離れた場所では、ダアトが次のご主人様が決まるのを今か今かとソワソワしながら待っているため……

 

「また後日、とはいかんよなぁ……」

「だな……」

「ですね……」

 

 彼女の期待の眼差しを無下にはできず、ギルドマスター三人が、腹を括って話し合いすることに決めたのだった。

 

 

 

 

「私は自領に城があるからな、二つも管理できるものでもなし、ゆえに必要無い」

 

 真っ先に先手を打ってきたのは、すでにノバルディス城を所有しているソールレオン。これはまぁ、想定の範囲内だった。

 

「僕は……この城、修繕と維持にかなりポイント必要そうですよね?」

 

 次に、シャオが恥ずかしそうに挙手しながらそんなことを聞いてくる。

 

「お恥ずかしながら、僕ら『嵐蒼龍』ってあなたたち二つのギルドほどポイントに余裕が無いんですよね。ほら、悪評立っちゃっているから」

「「あー……」」

「いや、別に否定してほしかったわけじゃないですし、べつにいいんですけどね……」

 

 シャオの自らのギルドの懐具合を暴露するその言葉に、クリムもソールレオンも納得の声をあげる。

 その反応に、不満そうに苦笑するシャオだったが……そうなると。

 

 城を所有しておらず。

 資金は余裕がある。

 

 そんな都合の良いギルドは……あった。

 

「というわけで、頼んだぞ赤の魔王様?」

「というわけで、頼みましたよ赤の魔王様?」

 

 ポン、と両肩を叩かれるクリム。

 その顔は清々しいまでに、持て余すものを押しつけようとしている感バリバリな、胡散臭いほどに晴れやかな笑顔だった。

 

「……分かった、のじゃ」

 

 どこか理不尽なものを感じながらも、実のところあの城が自分の居城になるのも悪くないと心の片隅では思っていたクリムは、渋々と頷くのだった。

 

 ――というよりは、この話が出た時点で多分こうなるだろうなと思っていた。

 

「というわけで……ありがたく、このお城は我らルアシェイアが利用させてもらうからの?」

「は……はい、よろしくお願いします、ご主人様!」

 

 尻尾があれば振っていそうな勢いで喜びの表情を浮かべる、ダアト=セイファート。そこには、この城に一人墓守として過ごした時間がいかに寂しかったのかが窺えた。

 

「これからお願いしますなの、お花のお姉ちゃん!」

「よろしくなのです、精霊さん!」

「は、はい……!」

 

 即座に懐いたのは、リコリスと雛菊の年少組。そんな二人の女の子に抱きつかれて、まんざらでもない様子の彼女の様子に……

 

「ま、良かったんじゃないか?」

「うんうん、二人も喜んでるし、この島も綺麗だしね」

「はは……まあ、たしかにね、これで良かったんだ、きっと」

 

 結果オーライかなと、皆と共に笑顔を浮かべるクリムなのだった。

 

 

 

 

 戦利品の分配も終わり、戻ってきたネーブルの町。

 

 あとは自由解散ということで、せっかくだからと黒の森探索に出かけた者や、早々に転送して帰っていった者などですっかりレイドメンバーが立ち去った時には、すでに現実世界では夜の22時を過ぎていた。

 

 リコリスや雛菊など年少組はとっくにログアウトをして、すでに居ない。

 残るクリム、フレイ、フレイヤの三人は……ギルドマスターとして最後まで残っていたソールレオンとシャオを見送りに、テレポーター・プラザへと集まっていた。

 

「それじゃ、お主らにも随分と世話になった。機会があればまたの」

「ええ。僕は今回の情報を基に、攻略法を突き詰めてみますので、また機会があればご一緒願いますね」

「なんなら月一くらいならば周回するのも悪くない、報酬も美味しいからな」

「はは……まあ、考えておこう。ギルド関係は同盟にしておくゆえ、気が向いたら遊びに来て構わぬぞ」

 

 そう笑顔で見送るクリムの言葉に、それぞれ手を挙げて応え、テレポーターへと消えていったソールレオンとシャオ。

 ライバルとしてギルド同士の対戦でぶつかる際には手心を加える気は無いが……すっかり、この一日で打ち解けた三人の魔王なのだった。

 

 

「さて……我らも、今日はこれで解散じゃな?」

「あーあ、もうゴールデンウィークも終わりかぁ」

「はは、宿題終わらせておいて良かったね」

 

 フレイの言葉に、違いない、と苦笑するクリム。

 今更ここから課題に手をつけるようなやる気など、おそらく湧いてくるはずもないだろうというくらい、皆揃って燃え尽きていた。

 

「クリム……紅は、明日の朝から病院だっけ?」

「いいや、昼から。でも、どのみち明日は学校は休むって伝えてあるけどね」

「そっか……それじゃあ、夕方学校が終わったらお見舞いにいくね!」

「生身で会うのは三か月ぶりか、久しぶりに姉さんに会うからってあまり緊張するなよ?」

「おい、フレイ!?」

 

 からからと笑いながらクリムをからかうフレイに、クリムが食って掛かる。そんな二人を優しく見つめているフレイヤ。

 

 そんな馬鹿話に興じながら……やがて、皆ログアウトしていき、長かった一日は終わりを告げたのだった――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ――翌日、ちょうど昼の十一時を回ったころ。

 

 

 父、(そら)の指示に従って『Destiny Unchain Online 』からログアウトした紅は……上下もわからぬほどに、真っ暗な空間に居た。

 

『――紅さん、聞こえる? 聞こえたら、軽くでいいから手で床面を叩いてもらっていいかな?』

 

 ぼんやりと浮かび上がってくる意識の中で、宙の声が耳元のスピーカーから聞こえてくる。

 

 ――手。手を……どうやって動かすんだっけ。

 

 驚くほどに、全身の感覚が鈍い。

 だが、幾度かの失敗の後、かすかに紅の右手が浮き上がった。それを、重力に任せて下に落とす。ぴちゃんと、やや粘性のある液体の感触がした。

 

『……うん、意識はちゃんと体に戻ってるね』

 

 ――でも、父さん。暗いんだ。

 

 目を開けたはずなのに、視界が利かない。

 そう伝えようとしたが、喉を震わせても声にはならなかった。

 

 だが……

 

『大丈夫、こちらで声帯の振動は取れてるからちゃんと聞こえてるよ。暗いのは、部屋の照明を落としているだけだから安心して。すぐに明るい場所に出すと、ずっと刺激を受けていなかった眼球や視神経がびっくりするからね』

 

 少しずつ明るくしていくよ……そう宙が告げたあと、徐々に明るくなっていく室内。

 やけに眩しく感じるが……宙が言うには、まだ常夜灯くらいの明るさしかないらしい。

 

 

『うーん、色素が無くなったからかな……まだちょっと刺激に耐えられないようだから、徐々に慣らしていこうか……とりあえず部屋の明るさはこのままで……あの、茜さん、あとのことはお願いしていいかな』

『はいはい、任されました。デリケートな問題ですもんねー』

 

 照れたような、困ったような、歯切れの悪い宙の言葉に……聖と昴の母親であり、宙の助手でもある茜が返事を返すのが聞こえた。やがて、すぐに誰かが紅のいる部屋に入ってくる。

 

「それじゃ紅くん、体を起こしますからね?」

 

 それは、つい先ほど通信で聞こえてきた茜と同じ声。

 

 彼女は、あの『クレイドル』と思しき機械の中に仰向けに横たわったままの紅の背中に腕を差し入れて、ゆっくり、ゆっくりと身体を起こしてくれる。

 

 

 ……濡れそぼった長い髪らしき糸束が、するりと冷たい感触を残して紅の頬を滑り落ちた。

 

 

「……………ぇ?」

 

 ボタボタと大量の液体が髪から流れ落ちる中で、紅は違和感に首を捻る。果たして、紅の髪はこんなに長かっただろうか。ゲーム内にいた三か月近い期間を考慮してもあまりに長すぎる気がする。

 

 そう混乱しているうちに、背中と膝裏へと腕を回されて……ひょい、とあまりにも軽い調子で抱え上げられてしまう。

 

 突然身体が宙に浮き上がり、落とされるのではという恐怖に、思わず声が出ないなりに悲鳴を上げかけた……が、茜はなんということもないように、そのまま紅の身体を横抱きにしたまま、いずこかに移動しはじめる。

 

 

 

 しがないVR技術者の助手であり、特に体格がいいというわけでもない茜さんが、なぜこんな軽く、今年で高校生になる紅を担ぎ上げられるのか。

 

 そもそも、茜さんはこんなに身体が大きな女性だっただろうか。

 

 そして、そういえばほぼ裸に近い貫頭衣姿を友達の母親に見られているということによる羞恥。

 

 

 

 紅がそういった諸々に混乱し、パニックを起こしかけていた、その時だった。

 

「再生治療用のジェル、洗い落とさないと気持ち悪いわよね。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど我慢してね?」

 

 茜が優しくそう言いながら、紅を抱えて入ったのは……おそらくは病院の個室に備えつけられたものと思しき、介護用バスルーム。

 

 そこで対面した鏡に映っていた、茜に担ぎ上げられている人物……つまり自分の姿に、紅はピシリと固まった。

 

 

 

 鏡の向こうから、今は驚愕に見開かれてこちらを見つめている、ぱっちりと大きな目と真紅の瞳。

 

 あらゆる部位が華奢で小さめなパーツで構成された体は、薄暗い部屋の中でも浮かび上がって見えるほどに白い。

 

 そして、身の丈以上あるのではないかという長さの、肌の色に負けぬほど白く輝く長い髪。先端だけがわずかに茶色を残しているのが、まるで元の『満月紅』という存在の残滓に思えた。

 

 

 

 大量の粘性の液体にまみれてぐっしょりと濡れそぼってはいたものの……その姿は、もとの紅とは似ても似つかぬ姿の――ゲームアバターのはずの『クリム』と、ほとんど違わぬ見た目の少女だったのだから――……

 

 

 

 

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