Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜   作:resn

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新ギルドハウス(※修繕中)

 

 合流し、それぞれが簡単な自己紹介を済ませた一行。

 

 青い髪のワービーストの少女が、前情報を得ていた通り、クリムの仲良くなった理学療法士のお姉さんのキャラであるジェード。

 

 そしてもう一人、彼女の同僚にして友人だという赤い髪の人間の女性。リコリスの母でありリュウノスケの奥さんである彼女は、名前を『サラ』と名乗った。

 

 

 ギルドのレベルがある程度上がると、加入しているメンバーには一日一回、ギルドハウスへと帰還する権限が与えられる。

 

 自己紹介も終えたのち……立ち話もなんだからと、その機能を利用してネーブルにあるギルドハウスへと連れてこられた新加入の二人は、眼前に鎮座する湖畔の一軒家に目を輝かせていた。

 

「うーん、すごく素敵なお家だねぇ」

「ですが、近いうちに引っ越すというのは本当なのですか?」

 

 二階ロフトテラスに設けたウッドテーブルに、皆で席について話をしていると……不意に投げかけられたサラのそんな質問。

 

「うむ、ゆえあって城を手に入れてな。こちらのギルドハウスも居心地が良いゆえ宿舎として残すつもりじゃが、ギルド本拠地の機能は修繕が終わったら移動する予定なのじゃ」

「あ、じゃあ取り壊しとかではないんだね、良かったー」

「まあの。我にとっても思い出深い場所じゃから、そんな勿体ない真似はできんさ」

 

 なんせ、クリムにとってはログアウトできない三か月のうちの、半分以上の夜を過ごした我が家だ。新たに城が建ったからといって容易に手放せるほど思い入れは浅くない。

 

 これまでの、このギルドハウスに詰まっている思い出に浸っていたクリムだったが……ふと、不満げな声を上げる。

 

「……ところで、なぜ我は抱きつかれておるのかの?」

 

 何故か今、クリムが座っている場所は……ジェードの膝の上だった。

 対面では自分のポジションを取られたフレイヤが、羨ましそうにクリムのほうを睨んでいる。

 

 そんなあまり記憶にない幼なじみの表情に、内心でダラダラと冷や汗を垂らしながら尋ねるクリムだった。

 

「いや……ごめん、なんか知ってる子がのじゃのじゃ言ってると、以前にも増して可愛く思えて」

「ぐっ……もういい、ロールプレイやめる!」

「ああ、ごめんなさい! 待って、待ってぇ!?」

 

 拗ねてそんなことを(のたま)うクリムに、ジェードは慌てて宥める。

 そんな騒ぎの中、なにかを考え込んでいたサラが、不意にポツリと口を開いた。

 

「……ちなみに、そのクリムさんのロールプレイの発案者は誰ですか?」

 

 そのサラの質問に……自然と皆の目が向いたのは、テラスからこっそり退室しようとしていたリュウノスケのところ。

 

「……あなた?」

「……………………その、スマン」

 

 子供に何をやらせているのか、という叱責を言外に滲ませたその視線に屈し、謝り倒すリュウノスケなのだった。

 

 

 

 

 

 その後、お城を観に行きたいと言う二人を案内し、ギルドハウスを後にしようとする一行。

 だがちょうど玄関から外に出た時、ギルドハウスのすぐ前を通りかかる、見知った顔があった。

 

「あ、クリムお姉ちゃんこんにちはー」

「あ、こら走るなって……よう、元気そうで何よりだ」

「うん、こんにちは、ジュナ。それとジョージも。今日も元気だね」

 

 いつもどおりの元気な挨拶の声。

 バスケットを抱えた少女と、その後ろでハラハラと見守っている少年が、クリムのほうへと挨拶しながら歩いてくる。

 

 その微笑ましい様子に表情を緩めながら、クリムも素の口調に戻して挨拶を返す。

 

「それでお姉ちゃん、そっちの人は、新しいお友達?」

「うん、そうだよ。青い髪のお姉さんがジェードさん、赤い髪のお姉さんがサラさん」

 

 そうクリムが紹介すると……このあたりはさすが看護師らしく、ジェードとサラの二人はすこし屈んで子供たちと目線を合わせ、自己紹介する。

 

「よろしくね、ジュナちゃん、ジョージ君?」

「よろしく、二人とも」

「うん、よろしく!」

「お、おぅ……」

 

 ジュナは元気に、ジョージは照れたようにそっぽを向きながら返事を返したのを見て、どうやらうまくやれそうだと一安心なクリムだった。

 

「……ところで、ジュナたちは大きな荷物を抱えて、どこに行くところなのかな?」

 

 さきほどから気になっていた、ジュナの抱える大荷物について尋ねる。風にのってほんのりと、炙ったパンのたまらなくいい香りが漂ってきているので尚更だ。

 

「ピクニックだよー!」

「ピクニック?」

「ああ、城のところにな」

「お花のお姉ちゃんに会いに行くのー!」

 

 なるほど、とクリムが納得する。

 どうやらセイファート城の主であるあの精霊の女性は、子供たちと仲良くやれているらしい。

 

 ――まあ、彼女の雛菊やリコリスへの態度を見ていると、どうも子供好きっぽいもんね。

 

 案外と寂しがり屋な、大昔の英雄でもある精霊の姿を思い出し、おもわずふふっと笑いが漏れた。

 

「でも、ルドガーさんも一緒なのは珍しいですね?」

 

 二人の更に後ろからついてくる男性……今の時間に店を離れているのは珍しく思えるルドガーに、そんな疑問を投げかける。

 

「まぁ、本当は仕事の一環なんだけどな」

「お仕事?」

「あの城の樹精霊(ドリアード)の嬢ちゃんが、島の一角で育てている貴重な薬草があってな。世話を手伝う代わりとして、すこし分けてもらってるんだよ」

 

 そう言って空の採取かごを掲げてみせるルドガーに、なるほど、と手を叩くクリム。

 

「ついでに小さな子供の面倒もよく見てくれるからな、ジュナたちを連れていっても問題ないわけだ。ジョージに仕事も教えられるしな。町の大人たちも、子供を遊ばせる良い場所ができたって喜んでるぜ」

「あの子、本当にうまく町の人と付き合えているんだね……良かった」

 

 たしかに、あの精霊ならば草木を通じて城内全てを把握しているらしく、子供の危機を見逃すこともないだろうし、何かあったら対処できるだろう。

 また、思いっきり駆け回ることができる広い草むらや、冒険ごっこにもうってつけな古いお城など、遊べる場所もたくさんある。

 

 クリムが城までの橋をかけて島へ渡りやすくなったことで、子供たちの絶好の遊び場となっているというのは嬉しい誤算であった。

 

「ああ、それと……おかげで店の品揃えも増えたからな、今度見に来てくれ、な?」

「あはは、はい、お邪魔させてもらいます」

 

 ちゃっかり商売の話も持ち出したルドガーに、クリムは苦笑しながら快諾する。

 

 このネーブルでは、よく見る当たり前の光景。

 しかし、そんな様子を見て……

 

「……ずいぶんと、人間らしいNPCたちですね」

「はー、ここまで生き生きしたAIは初めて見るねぇ」

 

 ……と、ポカンとしている新参の二人なのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――そうして、せっかくだからとルドガー一家と共に向かったセイファート城。

 

 

 

 クリムは新メンバーに城の案内を買って出て、ルドガーについてダアト=セイファートのもとへと向かった皆と別行動を取っていた。

 

「うっわ、綺麗な場所……なにこれ、エリア一つまるまるお城なのはじめて見た……」

 

 猫系ワービーストの特徴である耳をぺたんと寝かせ、尻尾をピンと立てて周囲をキョロキョロと見回す、まさしく「借りてきた猫」状態で呆然と風景に見惚れているジェード。

 サラはまだそこまでではないものの、やはりその顔には驚きの色を隠せてはいなかった。

 

「これだけのお城、相当なコストが掛かっているのでは?」

「うむ……我らのギルドの貯蓄、半分は修繕で吹き飛んだな」

 

 気になって仕方ないという雰囲気のサラのそんな質問に、クリムがサラリと答える。

 

 

 

 ――以前のレイドダンジョン攻略の動画を公開する代わりにと運営から渡されたものもあり、たくさん増えたはずのルアシェイアのポイント。

 

 その半分以上を注ぎ込んだセイファート城修繕作業は、作業用ゴーレムを総動員してなお、まだひと月以上の時を必要とする大工事となっていた。

 

 

 

「それでも半分なんですね、これが人気トップクラスのギルドですか……」

「どうしようサラちゃん、私たち、もしかしてとんでもないところに来ちゃったんじゃ……」

 

 何やらドン引きしている二人に首を傾げつつ、すっかり修繕が進んで綺麗に舗装された白亜の石畳の上を歩き、庭園を進む。

 子供たちが遊び場にすることもあって最優先で直させた石畳は歩きやすくなっており、景観もかなり向上し……その奥に鎮座する城もあいまって、まるで観光リゾートのような光景になっていた。

 

「これだけ大きなお城なら、私専用の工房なんか作れたりは……」

「あ、大丈夫じゃぞ。むしろ我らこそ世話になるゆえ、最優先で用意しよう」

「え? いやそんな急いでは……」

 

 ポンと部屋を用意しようとするクリムに、慌てた様子で遠慮しようとするジェード。

 

 

 ――鍛冶系や錬金系の工房はその質にピンからキリまでの差があって、一般的には良いものを用意しようとした場合、かなり気合いを入れて稼がなければならないほどに多額のコストがかかる……はずなのだ。

 

 

 しかし、慌てて彼女が遠慮しようとした時には、すでにクリムの行動は終わっていた。

 善は急げとハウジング管理用ウィンドウを操作し、目についた中で最高品質を示す星五つのマークがついた鍛冶場と錬金工房、そして自室がセットとなったアトリエを、城の一角に修繕の次に行う作業として登録する。

 

「いない……ん、ですけど……?」

「あ……すまぬ、もう決定してしもうた」

 

 そう言って、さきほど設定した予定地の図をみせる。

 そこは……南向きで日当たりの良い、一等地の角部屋。広さも二つの作業場と寝室でかなりある。

 

「場所が不満ならば、また別の場所に……」

「無い無い無い、文句なんて言ったらバチがあたるわよ!?」

「そ、そうか……?」

 

 必死に首を振るジェードの剣幕に、クリムが驚いたように目を瞬かせ、首を傾げる。

 

「……あ、そうか。お主は裁縫もやるんじゃったな。ちょっと機織り小屋も隣に併設しておくかの」

「「違う、そうじゃない!?」」

 

 ついに、新メンバー二人揃ってツッコミが入った。

 

「ねぇサラちゃん、私たち、絶対にとんでもないギルドに来ちゃったよ!?」

「これが、人気トップクラスのギルドですか……っ!?」

 

 もはや画風が劇画調に変わらんばかりに、二人から先程以上にドン引きされていることに……クリムは再び首を傾げ、いくつもの疑問符を頭上に浮かべることとなるのだった――……

 

 

 

 




 トップギルドの常識、一般ギルドの非常識。
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