「……………」
此処は木ノ葉隠れ忍者アカデミー、忍者を目指す者たちを養成する訓練所である。忍術、体術、幻術への理解を深め、訓練生とも言える下忍となる日まで、勉学に励み、卒業後は中忍を目指し、上忍を指導者に師事する、其れが忍界に於ける習わしである
そして、今日。アカデミーは一年に一度の締め括りとなる卒業試験の日を迎えた
「ねェ、あの子………」
一人、ブランコに跨り俯く少年。彼、ナルトの表情は沈んでいた
今日、数ある卒業生の輪に彼は入れなかった。兄妹同然に育ってきたホノカは余裕で試験を突破し、友人のくノ一等と談笑しているが、ナルトは独りでブランコを漕ぎ、沈んだ表情を浮かべている
「
「フン!!いい気味だわ……」
「あんなのが忍になったら大変よ。だって、本当はあの子……」
「ちょっと、それより先は禁句よ」
義兄達の優しく暖かい眼差しとは異なった畏怖の対象を見るような冷めた眼差し、その眼差しがナルトは嫌いだった。自分を、うずまきナルトを、見ていないその眼差しは、物心着いた時から、彼に孤独を与え、寂しさを与えてきた。誰も自分を見てくれない、誰も認めてくれない、ナルトの寂しさは海よりも深かった。アカデミーを後にする弟の背を屋上から、見下ろす影が一つ、レッカだ。任務からの帰還後直ぐにアカデミーへ来た彼であったが、ナルトの沈んだ表情に全てを悟り、彼は僅かに表情を歪める
「声を掛けてあげないの?」
背後から聞こえた柔らかい声、その声を彼は知っている。誰よりも付き合いの長い親友であると同時に同じ第四班の仲間、
「俺が声を掛けても、下手な慰めにしかならねぇだろ。………其れにだ、アイツはこんな事でヘソを曲げたりしねぇよ」
「信頼してるんだね」
「当たり前だ。血の繋がりはねぇが、俺とアイツは……兄弟だ」
「ったく……夜中に呼び出しとか何を考えてんだ…あの女は」
「アンタねぇ…仮にも、自分の担当上忍を相手にあの女呼ばわりはないでしょ」
「まあまあ、ここは火影室だからね。静かにしよう」
深夜の火影室。三代目火影からの招集を受けたレッカは眠気を飛ばすように悪態を吐き捨て、サクラは彼をジト目で睨み、ビャクヤは親友を咎める
「なんだ、うるせぇと思ったら居たのか。アマ・ゾネス」
「誰よッ!?其れはっ!!しゃーんなろー!」
「ごあっ!?テメェ!!!上等だっ!任務の前に消し炭にしてやらぁっ!!!」
「はぁ……この二人は全く…はいはい、夫婦喧嘩は他所でやろうね」
「「夫婦じゃないっ!!」」
一語一句、同じ事を叫んだ二人の顔は真っ赤に染まっているが何時もの事である為にビャクヤは軽く受け流し、三代目火影とその隣に立つ女性に視線を動かす
「火影様、其れにクサリ先生。今回の呼び出しは里内に関わる事ですか?」
クサリ、そう呼ばれた女性は長い黒髪を掻き上げ、三代目火影に頷く。彼女は由利クサリ、レッカ、サクラ、ビャクヤの属する第四班の隊長を務める木ノ葉隠れの上忍である
「うむ。実はな、ナルトのヤツが封印の書を持ち出したらしいのじゃ。今、中忍と上忍が捜索に当たっておるが……この里で、誰よりもナルトを知るのは、レッカだけじゃ。よって、誰よりも早く、ナルトを見つける事を命ずる…良いな?第四班」
「了解です。聞いていたな?お前たち。ナルトを見つけ次第、捕縛することを最重要事項とする」
「「了解っ!」」
クサリの指示に従い、火影室を後にするサクラとビャクヤ。然しながら、何かを考えているレッカは腰に帯刀した愛刀を握り締め、夜空を見上げる
「……………裏があるな、コイツは。調べるか」
森を移動し、痕跡を追いながら、今回の騒動に関する情報を脳内で整理していく。先ず、第一にナルトは試験不合格となり、アカデミーを後にした。だが彼の心は誰よりも寂しかった筈、だからこそ試験後は自分の家を訪ねるか、担任のイルカに会いに行くと思っていた。然し、彼は現れなかった
何故かと疑問に思うが、ここで浮上するのが、ある男の存在だ
『そう言えば、ミズキ先生とナルトが何かを話してるのを見たけど……何だったのかしら?』
サクラが目撃したという試験官のミズキとナルトの密会的な路上会議だ。その瞬間、全てが脳内で繋がり、殺気を感じ取る
「させるかッ!!」
「っ!?てめぇは……!!!」
殺気の正体であるミズキが放った無数のクナイを即座にレッカが愛刀を抜刀し、弾く。意外な人物の登場にナルトは勿論ながら、彼を探していたイルカとミズキも目を見開く
「あんちゃん……あの…」
「説教は後だ、今はあのゲスヤローをぶった斬るのが先だからな。イルカ、弟が迷惑掛けたな。でも、俺以上にナルトをわかってやれるアンタだから……俺はアンタを助けた。だから、ナルトを頼む」
「レッカ………って!教師を呼び捨てにするとは何事だっ!」
「あー、うぜぇ……今はどうでもいいだろ。さっさと行け、コイツは俺が片付ける」
「はっはっはっはっ!そんなヤツを守って何の意味があるっ!お前だって、知ってるだろう!ソイツが何者なのかをっ!」
「………だったら、どうした」
「ナルト、良いことを教えてやる。お前は、レッカを兄貴の様に慕ってるが………お前なんだよ、お前がレッカの両親を殺し、里を壊滅させた………」
夜の森、ミズキが放った言葉の続きを聞こうとナルトは息を呑む
「九尾の妖狐なんだよ!!!」
「えっ……あんちゃん……ホントなのか?俺が、あんちゃんの、ホノカの父ちゃんと母ちゃんを殺したバケ狐なのかっ!?なぁ!あんちゃん!答えてくれよ!」
「良いか?よく聞け、ナルト。お前は確かにバカで、不器用で、悪戯ばっかのどうしようもないヤツで、隙あればラーメンに食生活が偏ってるスカポンヤローだ……でもな、これだけは言える」
兄の様に慕ってきた、その背中は何時も暖かい炎の様に、道導となり、進むべき道を教えてくれた。里の大人たちが向ける瞳とは違う、彼の優しさに溢れた瞳が、兄の瞳が其処にはあった
「何があっても、俺はお前の兄貴だ。分かったか?
「そうだな、レッカの言う通りだ。お前はこの俺が認めた優秀な生徒だ。努力家で、一途で、人の心の苦しみを知っている……今はもうバケ狐じゃない。アイツは木ノ葉隠れの里の…………うずまきナルトだ」
認めてほしかった、誰かに。其れで気を引く為に悪戯ばかりを繰り返してきた、そして、今この場に自分を認めてくれる者が二人も居る。その事実に涙が頬を伝っていた
「イルカ……この森を抜けた先に、クサリが待機してる」
「あんちゃん……」
「レッカ………お前はどうするんだ?」
「なーに……少し、灸を据えてくるだけだ。あのゲスヤローに。だから、お前は待ってろ」
そう言って、飛び出し行く兄の背中をナルトは、涙目で見送る。自分よりも少し背の高い、遠ざかる背中を見送る事しか出来なかった
弟を守る為にミズキと対峙するレッカ、その刃は焔を纏い、全てを焼き切る
俺の忍道はこの刀が届く範囲全ての奴らを守り抜く刃になることだ