桜火剣客浪漫伝   作:田中滅

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筆が乗ると書けるんだけど……知らない内にフェードアウトしちゃうんだよなぁ……なぜだ?


第五ノ巻 団子の匂い

「くぁ〜………」

 

護衛対象を知るのも任務の内とクサリに指示を受けた第四班は映画鑑賞中なのだが、大きな欠伸を漏らし、船を漕ぐ少年が一名。気怠るそうな眼差しは半目ではあるが画面を見据えている

 

ちょっと…欠伸なんかしてないで、真面目に見なさいよね。この映画を観ておくのも任務の一環よ?分かってんの?アンタは

 

しかし、それを良しとしない者が一名。彼を咎めるように小声で小言を耳打ちしたサクラに対し、彼は無造作に頭を掻き乱す

 

「るせぇな、テメェこそ黙って見ろや。アマ・ゾネス」

 

「だから誰よ!?それは!しゃーんなろー!」

 

「映画も真面に見れないの?キミたちは……。夫婦喧嘩は犬も食わないよ」

 

「「夫婦じゃないっ!!」」

 

一語一句、同じ事を叫んだ二人の顔は真っ赤に染まっているが、「はいはい、そうだったね」と軽く受け流したビャクヤは再び画面に意識を向ける

 

「風雲姫かぁ〜悪くなかったわね。私みたいで美人だったし」

 

「鏡見てから出直せ」

 

映画鑑賞を終え、依頼主が待つ撮影現場に向かっていると影響を受けたサクラが主演女優を自分と同じくらいに美人だったと自画自賛。其処に吐き捨てるかのように放たれた悪態にピキッと何かが音を立てた

 

「しゃーんなろー!!!こんのバカレッカ!!!」

 

「ごあっ!?」

 

そして、言わずもがなのサクラの見事な一撃が放たれ、宙を舞うレッカ。口に咥えていた団子串が床に転がり、同じように本人も床に転がる

 

「………ビャクヤ。こいつ等は何をしている」

 

「気にしないでください、何時もと変わらない夫婦喧嘩です」

 

任務中であるにも関わらず、喧嘩をする二人に冷めた視線を向けるのはクサリ。傍観者に徹するビャクヤに事の顛末を問えば、返ってきたのは余りにも呆れる何時も通り過ぎる解答。故に彼女は額に手を当て、小さいながらも呆れたようにため息を吐いた

 

「雪の国といやぁ…晶壁が有名だったらしいな、昔は」

 

「昔?アンタなんで知ってんのよ、そんなこと」

 

ゆっくりと上体を起こしたレッカは遠い記憶を掘り起こすように雪の国についての情報を語る。付き合いの長いサクラは意外そうに首を傾げた

 

「兄貴がな……雪の国に行ったことがあんだよ。そん時に聞かされた話だ。晶壁が虹色に輝くって聞かされた時のホノカとナルトの反応がどんなだったか、言わなくてもオメェなら分かるだろ?」

 

「なんとなくね。あの子たちのことだから、行きたいとか駄々捏ねたんでしょ?」

 

「ああ……ソイツを叶える前に兄貴は……逝っちまいやがったけどな」

 

懐かしむように昔の事を語るレッカ。遠い日の叶わない約束は彼の胸に今も消えない傷を残し、受け継いだ火の意志は彼を繋ぎ止め、誰からも認められない少年と誰とでも仲良くなる少女の前を歩き続けている。受け継がれた意志を伝え、守り抜く為に若いながらも彼は宿命を背負っていた

 

「ホノカとナルトは其れを覚えてるの?」

 

「さぁな、兄貴が死んでからはなんにも言わねぇから忘れてんじゃねぇか?」

 

「雪の国は僕も興味があったんだよね」

 

「ビャクヤも?それこそ意外ね」

 

雪の国が話題であることに気付いたビャクヤは実は自分も興味があったと会話に混ざる。もう一人の幼馴染の意外な発言にサクラは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を見せる

 

「雪の国の先代に当たる風花早雪殿は絡繰好きで有名だったんだ。僕の祖父と親交があったらしくてね、家にあった絡繰の設計図にレッカが言ってた晶壁に関係しているモノの初期段階のがあったのを見たことがあるよ。いやぁ……アレは見事な絡繰だよ、春の無い国に春を呼ぶ為の絡繰。一度でいいから実物を拝見したかったんだよね……あぁ……美しい…」

 

「「あぁ……悪いクセが始まった……」」

 

普段は喧嘩ばかりのレッカとサクラを止める仲裁役のビャクヤには悪いクセが存在する。それは絡繰に関係することになると周りが見えなくなる程に、恋い焦がれるかのように想いを馳せるという悪癖がある。普段は彼にもストッパー役が存在するのだが、別の班であるが故に生憎と不在の今は止める者が居合わせていない

 

「お前たち、今から依頼主に会うんだ。少しは静かにしないか」

 

「へいへい」

 

「返事は一回でいいのよ!バカレッカ!」

 

呆れたように部下を咎めるクサリ。担当上忍を務めから、一年が経つが彼等の騒がしさには頭を抱える程に困らされてばかりだ

 

「いっでぇ!?ボカスカ殴ってんじゃねぇぞ!怪力女!消し炭にされてぇのか!!」

 

サクラの拳骨を喰らい、頭に大きな瘤を作ったレッカは彼女に詰め寄り、腰の愛刀に手を添える。無論、抜刀する気は持ち合わせていない形式だけのやり取りであるが側から見れば、明らかに少女を相手に斬り掛かろうとしている少年にしか見えないのは火を見るよりも明らかだ

 

「キミ。女の子を相手にそれはいけないね」

 

「あ?誰だ、テメェは」

 

その様子を見ていた俳優の一人がレッカを咎めるように声を掛ける。その声に振り返ると、サクラを庇うように背後に隠し、分かりやすく警戒心を露わにすると不機嫌そうに問う

 

「助悪郎役のミッチー様…!?」

 

しかし、俳優が答えるよりも早くに反応したのはサクラだった。レッカの背後から顔を出した彼女は興奮気味に俳優の名を呼んだのだ

 

「嬉しいね、キミみたいな可憐な少女に知られているなんて」

 

「ファンなんです!あのサインとかって、お願いできたりします?妹みたいに可愛がってる子がすごく欲しがってて……あ、あと、出来たら、私にも……」

 

「構わないよ。キミとその子の名前は?」

 

「私は春野サクラ、妹分は狒々ホノカって言います!」

 

恥ずかしそうにサインを強請る姿は正に借りてきた猫のように可憐。普段の彼女を知るレッカとビャクヤは変なものを見たかのように誰だ?これはと言わんばかりの視線を向けている

 

「………ホノカがファンなの?本当に?」

 

そして、親友の妹に意外な趣味があると感じたビャクヤは頭を無造作に掻き乱すレッカに問いを投げかける

 

「そんな話は聞いたことねーよ、アイツを映画に連れてっても十秒もしねぇ間に寝ちまうからな。ナルトに至っては騒ぎまくって、追い出されるし……真面に映画なんざ見たことねーしな」

 

「………だと思ってたよ。ということはアレは自分用と布教用ってところかな?見た感じ」

 

返ってきたのは予想通りの答え。苦笑を浮かべながらもビャクヤはサインに別の意図があると踏み、レッカに視線を向けるも、彼は面白くなそうに外方を向いている

 

「なによ、その顔は」

 

「別になんでもねーよ」

 

何か言いたそうな眼差しに気付いたのだろう、疑問視したサクラが問うも返ってきたのは素っ気ない返事。その意味が分からない彼女は首を傾げ、「なに?アイツ」とビャクヤに問うが、「なんだろうね」と彼は苦笑を浮かべるだけで、答え合わせにはならなかった

 

「それで富士風雪絵さんは何処に居るんですか?クサリ先生」

 

楽屋周辺に差し替った頃、中に雪絵の気配が無いことに気付いたビャクヤは先頭を歩いていたクサリに居場所を問う

 

「マネージャーの三太夫さんが言うには、雪の国行きを渋っているらしくてな…恐らくは近くのバーに居るだろうとのことだ。全く…どいつもこいつも…世話が妬ける」

 

「心中お察しします…先生」

 

頭を抱え、本日何度目になるかも分からないため息を吐く彼女の気持ちを察したらしく、これまた何度目になるか分からない苦笑がビャクヤに浮かぶ

 

「バーに居るだぁ?ちっ……なんだって、そんなとこに」

 

雪絵の所在が分かるや否、露骨に嫌悪感丸出しの表情を見せたのはレッカ。酒の話題が出た瞬間、咥えていた団子串を口から落とすくらいに動揺を見せる

 

「あー…アンタって確か、匂いを嗅ぐだけで酔っ払うくらいにお酒に弱かったんだっけ?」

 

「見かけに寄らないよね、大人になったら一番呑みそうなクセに」

 

「るせぇよ……余計なお世話だ」

 

意外や意外、酒に関係する物に対する免疫力が極端に弱かったレッカ。面白いものを見たと言わんばかりに揶揄うように嫌味な笑顔を見せるサクラとビャクヤに苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる

 

「兎に角だ、今は富士風雪絵の保護を優先する。レッカは楽屋付近で待機していろ」

 

「ああ、そうする…」

 

サクラとビャクヤを連れたクサリがバーに向かっていくのを見送ったレッカは楽屋の側にあった長椅子に腰掛け、朝早くに起きてしまった事による寝不足を解消しようと目を閉じる

 

「もしや……木の葉の忍の方では?」

 

眠りに落ちようとした瞬間、聞き馴染みの無いが耳に入った。眠りを邪魔された事により、薄目で声の主を確認するように視線を向ける

 

「アンタがお探しの人なら、俺の仲間たちがバーに探しに行ったぞ。俺は生憎と…酒の匂いが苦手でな」

 

「そうでしたか。申し遅れた私は浅間三太夫と言いまして、雪絵様のマネージャーをしております」

 

「知ってるよ、んなことは。任務内容と依頼者に関する情報を事前に頭に叩き込んであんだよ。それで?その三太夫がなんのようだ」

 

顳顬を人差し指で叩き、情報は全て把握していると口にするレッカ。本来は冷静か思考の持ち主である彼は事前に情報収集を怠らない、故に関係者の情報も彼にとっては引き出しを開けるかの如く簡単に把握可能なのだ

 

「雪絵様は雪の国に戻ることを渋っておられます……どうにかしていただけないモノでしょうか」

 

「安心しろ、んなことは直ぐに解決する」

 

「ちょっ……!」

 

故郷に帰ることを渋っていると聞かされ、レッカは気怠そうに答えを返す。その意図が分からない三太夫は眠りに落ちようとする彼を引き止めようと体に触れようとする

 

「三太夫さんでしたっけ?寝ているレッカには触らない方が良いですよ」

 

其れを制止したのは、バーに向かった筈のビャクヤ。彼は三太夫の手を掴み、眠る親友と距離を取る

 

「あ、あなたは?」

 

「僕は機巧ビャクヤと言います。彼、狒々レッカとは同じ班に所属しています」

 

「そうでしたか、私は浅間三太夫。雪絵様のマネージャーです」

 

名を問われ、律儀に名乗ったビャクヤは同時に名乗っていなかったであろう親友の名も告げた

 

「存じています。それで、レッカは寝ているのを妨げられると気を悪くする悪癖があるので、気軽に触れないことをおすすめします。それから、富士風雪絵さんは班長の由利クサリの術である鎖捕縛で捕まえています。あっ、大丈夫ですよ?捕縛したのは班員の春野サクラの幻術で眠らせた後ですから、危害は加えていません」

 

「左様で……」

 

「じゃあ、レッカを起こしますね」

 

捲し立てるように説明を終わらせたビャクヤは次にレッカを起こす為の行動に移るべく、腰のポーチに携帯していた出来たての団子を鼻の下付近に近付ける

 

「ん………あ?団子!しかもみたらし屋のヤツじゃねーか!」

 

その匂いに気付いたレッカは飛び付くような勢いで飛び起き、団子に食い付く。その時間は実に数秒に満たないほどに早く、不機嫌そうな表情は一気に幸福感に溢れたモノに変化する

 

「おはよ、任務の時間だよ」

 

「ああ。行くとするか……雪の国に」




雪が降る国、春の無い国に降り立つ第四班を迎えるは敵からの望まぬ歓迎だった

俺の忍道はこの刀が届く範囲全ての奴らを守り抜く刃になることだ
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