アメジスト色の瞳の彼女と自分と   作:fire-cat

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第10話

 午前の仕事を終えると、久々の半休だった。

 何をしようかと考えたところで、そう言えば。と思い出した。

 今日から、空き時間にマックイーンと一緒に練習をする約束だった。

 時間にはまだ早かったが、一足先に森に行って彼女を出迎えるのも良いかもしれない。

 

 

「やあ!」

 

 森の中を通って広場にきたマックイーンを出迎える。

 

「あら、お早いのですね」

「まぁね……」

 

 少し照れ臭い気持ちになりながら答える。

 実際、少しやる気になっているから。

 

「昨日は身体で振り付けの感覚を掴んでもらう程度でしたけど、今日からは本格的にしますわよ」

「うん……」

「うん、じゃない。返事は『はい』……でしょ?」

「はい」

「素直で宜しい」

 

 マックイーンの声に笑いが混じる。

 

「ま、習うより慣れろ、ですわね。これが終わったら、今日は少しだけ私の訓練にも付き合って下さいね」

 


 

「……こんな感じですけど覚えましたか?」

「うん、何とか……」

 

 マックイーンが見せてくれた動きは単純なもので、何度かやっているうちに流れを頭に入れることが出来た。

 

「じゃ、今度は見ていますから、一人でやってください」

 

 たどたどしいながらも、先程の動きをなぞる。

 

 

「そうですわ。最初は歩幅とかは気にしなくていいので。うん……いい感じですわね」

 

 暫らくやっているうちに形だけは真似することが出来た。

 

「さすがトレーナー資格をお持ちだけのことはありますわね、飲み込みが早いですわ」

 

 動きを繰り返す僕に、マックイーンが近寄ってくる。

 

「今度は私も一緒にあわせますわ。相手がいても自分の動きを忘れないでくださいね」

 

 マックイーンが僕に向き合う。

 僕の動きに合わせて足を動かすマックイーン。

 一人の時とあまり変わらない。

 でも……。

 

「あっ……」

「大丈夫ですわ。慌てないでください……」

 

 マックイーンはそう言ってくれるが、俄然難しく感じる。

 

「えっ……? さっきは簡単だったのに……あれ?」

 

 悪戦苦闘する僕に、辛抱強く付き合ってくれるマックイーン。

 でも、焦れば焦るほど体が動かなくなる。

 失敗が重なる……。

 

「下を見てはいけませんわ!」

 

 躓く度に、頭が真っ白になって立て直せない。

 

「だめだ……」

 

 自分からやめてしまった。

 息が上がってこめかみを汗が滴る。

 目眩もする。

 マックイーンが声をかけてきた。

 

「頭で考えてはいけませんわ。彰さん」

「ハァ……」

 

 大きく一度深呼吸をすると、僕はマックイーンの手を取った。

 

「もう一度……」

「ええ。良いですわよ。何度でも」

 


 

 苦戦の末、何とかそれらしいものが出来てきた。

 

「そう、そんな感じですわ。本格的になると、今みたいに大きく回ったりしながら大人数で踊るのです」

 

 練習が終わり一息ついているとマックイーンが覗き込んでくる。

 

「……え? ……ああ、そう言えば」

「え? 気づいてなかったのですか? では今度は役割を反対にしてみましょうか?」

「え!?」

「さ、やりましょう!」

 

 引っ張られるように立ち上がり再開してみたものの、せっかく覚えた順番が頭の中で混じり合ってしまった。

 

「意外とついて来られてますわね」

「ちょっと待って……」

「頭で考えないでくださいね」

 

 少しは上達したと思えるものの、結局へとへとになって座り込む羽目になってしまった。

 

「……やっぱりだめだ……」

「そんなことありませんわよ」

 

 マックイーンが横に座る。

 

「まだ始めたばかりで、上出来ですわ」

 

 言いながら、マックイーンが両足のふくらはぎをしきりに揉んでいる。

 

「どうしたの?」

「久しぶりのウィニングライブの練習だったので……疲れましたわ」

「え? 自分で練習してたんじゃないの?」

「えっ……そうですわね」

 

 一瞬ハッとしたようなマックイーンの表情。

 

「え?」

「あ……その……ウィニングライブの基礎の基礎をやるが久しぶりだったので」

「……?」

「……あなたが下手だから気を使ってるのですわ!」

 

 急に怒り出すマックイーン。

 ……何か悪い事言ったかな?

 

「な、何? そんなに怒らなくても……」

「ごめんなさいっ! ……痛っ」

 

 怒りながら謝るマックイーン。

 ……まだ足を押さえて痛がっている?

 

「そんなに痛いの?」

「ええ……なんでしょう?」

「どれ……?」

 

 立ち上がり、マックイーンの前に座りなおす。

 

「え? 何ですの?」

 

 きょとんとする彼女。

 

「揉んであげるよ」

「い、いいですわ。自分でできます……」

 

 顔を赤らめる彼女。

 

「こう見えてもスポーツ診療医の卵なんだから。無料奉仕させていただきます」

 

 その言い方に、マックイーンが笑い声をあげる。

 

「それではお願いしますね」

 

 右足に手を伸ばし、揉み解す。

 

「痛っ……」

「疲れが溜まっているのかな? ……ここ痛くない?」

「あっ……そこですわ。ええ……湿布を貼っても、なかなか取れなくて。これくらいでお医者様に罹る訳にもいきませんから」

「そりゃそうだね……っと」

「あ、……そこ、です、わ」

「ここね……」

「……あの。……病院の方はどうなんですの?」

 

 脈絡も無く話題が振られた。

 

「え? 何が?」

「……どうですか? 頑張っていますか?」

「まぁ、頑張ってはいるけど……急に何で?」

「どちらの道に進むのかなって……」

 

 そう言えば、どっちにするのかはっきりしなさいって、マックイーンに言われたっけ……。

 

「よっと……。まぁ、まだ考え中かな」

「もう。しっかり……しっかりしてくださいまし」

「うん、わかった」

 

 要望通り力を少し強める。

 

「痛いっ! ちょっと! い、痛いですわ!」

 

 もがくマックイーン。

 

「え? だって……しっかりって」

「ち、違いますわ! あなたの将来の事です」

「え? ……うん、そうだね。でも、今はこっちの方に力が入ってるかな?」

「?」

「うん。マックイーンの練習相手」

「それはうれしいですけど、あなた、本来は研修医なんですから。本来のお仕事の方もしっかりしないと」

「うん。……マックイーンも頑張ってね」

「え?」

「レースに向けた練習」

「あ……え、ええ……」

「何か手伝える事あったらいって欲しいな」

「え、良いですわ。別に……って、痛っ! 痛いですわ!」

「え? そんなに力入れてないよ?」

 顔を顰めて足を庇っている。

「そこ、きっと、痛い秘孔ですわ」

「マックイーン、漫画見すぎ。秘孔なんて無いよ。経穴でしょ?」

 

 押さえたのは右膝より上の大腿部外側。風市・中瀆・足陽関からも外れていそうな何もない場所だった。もちろん秘孔なんてある訳ない。

 

「とにかく、やめてくださいまし……」

「そういう痛いところに限って、しつこく押したくなるんだよなぁ……」

 

 もう一度緩めに押してみる。

 

「痛っ! ……それは医師としての診断なのでしょうか?」

「……」

 

 無言で首を振る。

 

「止せば良いのに、固まりかけたかさぶたを剥したくなる、生物としての自然な欲求」

 

 指を動かしながらゆっくり近づく僕に、マックイーンが顔を引きつらせ後ずさりしていく。

 

「じょ、冗談ですわよね!? ……や、やめてぇっ!」

 

 暴れるマックイーンを笑いながら宥め、他の場所を揉み解す。

 

「ふう……楽になりましたわ。ありがとうございました」

 

 暫らくしてマックイーンが立ち上がる。

 

「ま……これくらいはね。いろいろ教えてもらってるお礼って事で」

「私が勝手にやっていることですから。彰さん、物覚えが早いので私も張り合いありますわ」

「そう?」

 

 お世辞でもそういわれると嬉しくなる。

 

「スペシャルウィークさんが始めた時より上達早いと思いますわよ? 彼女、最初は棒立ちでしたからね。尤も私たちのチームは……」

 

 苦笑するマックイーン。

 

「う~ん。想像つかないなぁ。スペシャルウィークさんなんて『日本の総大将』なんて呼ばれて何度もウィニングライブでセンターを務めているのに」

 

「皆さん努力しましたもの。テイオーが大変でしたわね、あの当時は……あっ、今の話はご内密に、ね」

「言う相手もいないよ……」

「それもそうですわね……」

 

 そう言えば。といった顔で見つめるマックイーン。

 

「とにかく、私は努力することの大切さを、かけがえのない仲間達から教わりましたわ。その私が教えるのですから、覚悟を決めてくださいね」

 

 

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