「彰さん、随分逞しくなりましたわね。自分でも判るのではありませんか?」
そう言われたのは清一さんも無事退院して、久しぶりにマックイーンに森で再会した日だった。
「そ、そんなこともないと思うけど」
謙遜して見せたが、実際自分でもかなり体力はついてきているように思える。
「ウィニングライブの振り付けへの理解度もだいぶ成長して来ていると思いますわよ?」
「そ、そうかな……」
「まぁ、新人トレーナーよりはまし。という程度ですけど。でもこの何日か、凄い集中力でしたわ」
「指導者の腕が良いからね」
お世辞でもなんでもなくそう言うと、マックイーンは爽やかな笑顔を見せた。
「私、他人に教えるのは初めてでしたから本当は少し不安でしたわ……」
「へぇ……初めてには見えなかったよ」
「チームでは自分の事で必死でしたから、テイオーの様に他人に教えられるところまでは……」
「そうなんだ……」
「でも、いいですわね。こうしてレースの勝敗に関係なくのんびり他人を教えるというのも」
「僕は全然のんびり出来なかったよ……」
「そうですわね……」
マックイーンが、笑いながら頬の汗を拭う。
「おかげさまで、久しぶりに思い出せましたわ。初めて先輩方のウィニングライブのステージを見た時の気持ちを。今みたいに勝敗に追われていなかった頃の気持ちも……」
「……」
「彰さんのおかげさまですわ。……ここに来て良かった」
その彼女の言葉に僅かに寂しさを感じるのは何故だろう……。
「少し帰りたくなくなってしまいましたわ」
僕はレース場以外での彼女を知らない。まして、学園でどんな風にマックイーンが頑張っているかなんて全く解からない。
だけど……。
「足……」
「え?」
「足は、大丈夫なの?」
マックイーンは春の天皇賞で怪我を負っていた。その事はレースを見た僕も知っている。とっくの昔に治っているものだと思っていた。まさか最近まで治っていなかったとは。
けど、その怪我の事をマックイーンは僕に話そうとはしていなかった。
「足? え、ええ……大丈夫ですわよ? 言ったと思いましたけど……ただ捻っただけだと」
「……でも、その怪我、本当はここでしたんじゃないだろ?」
微かにマックイーンの顔が曇る。
「え……」
「春の天皇賞で……」
「何で……。なぜ彰様が御存じなのでしょうか?」
マックイーンの態度がよそよそしくなる。
「何でって、僕だってレースは見たし、これでもここで働いている研修医の端くれだからね。それに院長達に聞いたんだよ。左足はもう完治しているって事も」
「……」
「初耳だったよ。それに……」
これ以上話すのは怖い。でも……。
「走れないって、思うように足が動かせないってどういうことなんだよ?」
「……!」
マックイーンが身を竦めるのがわかった。
「怪我は治っているのに、走れないって……」
「そんなこと、彰様が気にかける事でもないですわ。……なんでもありませんから」
俯くマックイーンに、僕は言葉を続けた。
「ねぇ……マックイーン。僕にできる事が有ったら言ってよ」
俯く彼女。
「マックイーン。何があって、ここに来たのかは……」
言いかける僕をマックイーンの言葉が遮る。
「そんなの、あなたに関係ない事ですわ!」
「え…………?」
「……必要なかったから言わなかっただけです!」
拳を握り締め、マックイーンが激昂する。
その豹変ぶりに戸惑うしかなかった。
「関係ないって……マックイーン……」
「実際、関係ないですわよね!? 余計な詮索はしないでくださいまし!」
呆然とする僕にマックイーンがハッとした表情で顔を上げた。
「……ゴメン」
後悔の色を見せ、俯く彼女。
「……マックイーン、関係ないなんて言うなよ。せっかく仲良くなれたんだから……僕にできることだったら何でも……」
何も言わないマックイーン。
「だから……マックイーン」
「……ないですわ」
絞り出すようなマックイーンの声だった。
「え?」
「出来る事なんてないですわ。わからない……あなたには私の事なんてわからない……」
「マックイーン……」
「私の事、何も知らないくせに……!」
「ああ! 知らないさ! わかる訳ないだろ! そっちが隠してたんだからな!」
僕も思わず声を荒げてしまう。
「そんな風に言われたら僕にできることなんてないよ! したくったってね!」
だめだ……熱くなると歯止めがきかなくなる……。
「して欲しい事なんてありませんわ! 放っといて!」
マックイーンの声は震え、目に微かに滲むものが見えた…気がした。
「私はっ! 誰にも、何にも欲しいなんて思っていない! お節介は迷惑なだけ!」
「マックイーン……」
「……お帰り下さい」
「え?」
「帰ってください。………かえってください。…………帰って。……………帰ってよ!」
マックイーンが両手で僕の胸を突く。
「……マッ」
「帰れぇぇッ……!!」
何度も小突かれ、追い立てられるようにその場を後にした。
…………どうしてなんだよ、何故なんだよ、マックイーン。マックイーン!! マッックイーーン!!!!