昨日の事が気になりつつ、いつもの森へ足を運んだ。
何やってるんだろうな……。マックイーンがいるとは思えないし、いても何て言ったら良いのかわからない。
森が途切れ、広場が見え始めた。
そこに、ウマ娘の影がいつもと同じようにあった。
……いや、よく見ると影は二つだった。ウマ娘の他に……。
「清一さんとマルゼンスキーさん……」
マックイーンの姿は見えない。
……やっぱり、来てないのか。
二人が僕を見つけたらしく、一歩、また一歩。と歩を進めてきた。
「こんな所で待ち合わせか?」
「え? ……いえ、散歩がてらに……」
「来るような場所じゃないと思うけど? マックイーンちゃんと待ち合わせかな?」
そう言って僕の言葉を引き取るマルゼンスキーさん。でもその表情が何時もより暗い。
「時間、空いてるかい?」
清一さんの声。
「はい……」
いつもと若干違う雰囲気の清一さんの声に、違和感を持ちながら答える。
「そうか……。なら、少し話を聞いてもらおうかな、彰君」
清一さんが真剣な表情を見せていた。
「……昨日、あの子が帰ってきてな」
いつになく真剣な眼差しだった。
「食事も摂らずにそのまま部屋に閉じこもっちまったんだ。どうしたのかと思っていたんだが、暫らくするとな、そこから押し殺した泣き声が聞こえるんだよ。……俺達も驚いてな、扉を開けさせようとしたんだが、俺とマルが幾ら言っても開けようとしない。………あの子は昔から気が強くてな。どんな事があっても人前で泣いたことがないんだ。少なくとも俺とマルは見たことがない。私は名門メジロ家の者です。名門の者は無闇に他人に涙を見せてはならないのです。そう言ってな。あの娘は、無理して何でも背負い込んで自分を鎧って……。それが声を押し殺して泣いているんだよ……。落ち込んだ表情を見せても、泣く事はなかったあの子がな……」
マックイーンが……。
「何があったかは聞かない。無理に聞くことでもないだろうからな」
清一さんはそこまで言うと溜息を一つ吐き、これまでにない真剣な表情を僕に向けてきた。
恐い……。
その貌から、その眼差しから、普段感じた事のない、押し潰されそうな威圧感を覚える。
この人が、常勝不敗のチームを育て上げ一流トレーナーと言われたこの人が、真剣になった時の本当の恐さの、その一端を見たような気がした。
「だがな、あの子は俺にとっても娘のようなもんだ。……もし、あの子を悲しませるような事があったら、俺はそいつを許さない」
清一さんの初めて見る表情は正に『父親』の顔だった。
「……彰君。マックイーンちゃんをどう思っているの?」
マルゼンスキーさんの真剣な眼差しが僕を射ぬく。
「正直分かりません」
「そう……。でも、これだけは覚えておいて。いつか、あなたも決断を迫られる時が来るわ。……その時、どんな答えを出すにしても、あの子を不幸にすることだけはしないで」
少し間があってからマルゼンスキーさんがそう言った。
「行きなさい。あなたなら解かるでしょう、あの娘が何処にいるのか」
二人の想いが……。
「……彰君、私達の『娘』をお願いね」
「はい」
* * * * *
マックイーン……。
心当たりの場所に向かう前に一応探したが、森の中の何処にもマックイーンの姿はなかった。
やはり森にはいない……。
「……マックイーン。……やっぱり君はあそこにいるのか?」
マックイーン、君をこのままにしておくわけにはいかない。
あの場所にきっと……マックイーンはいる。