メジロ家の主治医を交えてマックイーンの手術についてカンファレンスが始まった。
冒頭、メジロ家の主治医から自己紹介があったが、なぜかマックイーン達が驚いていた。この方、武田さんと仰り、院長とは同窓だったらしい。
あのカンファレンスでとんでもないことが判明したが……。
* * * * *
「マックイーンお嬢様の手術についてですが」
「なにか?」
「こちらの病院で行う事については何も反対致しません。正直なところ、この規模の病院にしては不釣り合いなほど最新設備がそろっています。まさか手術支援ロボットを備えたハイブリッド手術室まであるとは予想しておりませんでした。確認したいことは、手術中の出血への対処です」
「と仰いますと」
「マックイーンお嬢様はABO式ではA型です」
いささか気の抜けた安堵感がその場に広がったが、次の瞬間、場が凍り付いた。
「そしてRh式ではnullです」
Rh null―アールエイチナル―……? 嘘だろ? こんなところまで……。
「馬鹿な……。!! それでは!!」
先輩医師の発言に
「ええ。輸血は極めて困難になるかと」
主治医の武田氏が沈痛そうな表情で頷いた。
だがふと疑問に思ったことがあった。
「それならマックイーンはなぜ危険なレースを続けられていたのでしょうか?」
マックイーンは幼いときからトレセン学園に入りレースに向けた練習を行ってきていたはずだ。当然ケガなどもあっただろう。大けがなどがあったら大変なことになる。場合によっては生命の危険もあったはずだ。メジロ家がそれを許すはずがない。
そんな僕の疑問に返ってきた答えが
「お嬢様はこの地に来るまでは毎週1回定期的に採血されておりました。その血液の一部は英国のIBGRLに回っていますが大部分はメジロ家の医療施設で赤血球と血漿に分離した後それぞれを冷凍保存し、厳重に保管されています」
というものだった。特殊な設備が必要となるはずだがメジロ家にはその設備がある施設があるようだ。
僕もそのうちお世話になるかもな。
「だが、今後のことも考えるとそれだけに頼るわけにも……」
「自己輸血も行うしかないでしょうな」
「ですが、出血回収法での自己輸血は万が一腫瘍が悪性だった場合の危険性を考えると行えませんよ」
「貯血式自己血輸血でいくしかない」
「マックイーンさんの病状の進行と貯血のどちらが早いか勝負だな。赤十字を通してIBGRLにも依頼する必要もあるな」
「後は――」
「いや、それは――」
「――」
「――」
会議がしばらく続き、やがて。
「何はともあれ、採血前の心身の安定は必須になるな」
「それは間違いない。常時傍にいる事ができる人物の支えが必要だ」
カンファレンス参加者の発言がひと段落ついた。
院長とメジロ家主治医の武田さんが僕を見つめる。
「比企彰研修医。君にメジロマックイーン嬢の完治までの間、彼女の専属担当を命じる」
* * * * *
それから1週間に1回の採血が始まった。
初回は良かったのだが、2回目以降はマックイーンの機嫌は急降下し続けた。
休みの度にパーマーさん達メジロ家のウマ娘やチームメイトが見舞いに来たが見舞客が帰るとたちまち不機嫌になり、僕に一緒に寝ろだの、全身を拭けだの無理難題を言ってきた。
できるわけないだろう! ……やりたいけどさ。
そして最後の採血の日が近づくにつれマックイーンの顔が引きつり始める。
「この採血というものはどうしても好きになれませんわ。それにこの鉄剤も」
「まぁまぁ。必要なことだから」
「嫌なものは嫌なのです。彰、なんとかなさい」
プクゥと頬を膨らませるマックイーンを宥めすかしているうちに、いつのまにか採血の後に二人で山を散歩する事になっていた。
念のためカンファレンスで患者からの要望として伝えたが、転倒などで大怪我をされるのは怖いが、それでマックイーンの機嫌が治るならまぁ良いだろう。との有難いお言葉により、GPS付きだが、二人だけのハイキングが決定された。
登山靴やら35Lリュックサックやら準備しなくちゃなぁ。あと行動食にナッツやチョコレートに一応ようかんも用意しておくか。
……準備が大変だよ。