ピクニック当日。
なんだか今日はマックイーンはご機嫌だ。鼻歌交じりに足取りも弾んでいる。
そんなマックイーンを見ていると僕も釣られていつの間にか歌っていた。
「空は晴れるよ。お日様ニコニ~コ♪ 掛け声合わせりゃ、心は弾む。よ♪」
確か幼稚園の頃の歌だったと思う。
「おおきく手を振り1、2、3。足並み揃えて1、2、3。今日は楽しい遠足だけど―さ。みんな仲良く、元気よく。明日への道を歩きだす♪」
気がついたらマックイーンが僕をじっと見つめていた。
「楽しそうですわね、彰」
「そういうマックイーンこそ。尻尾も随分と動いているし楽しみにしてたのが良くわか……わかったわかったってば」
顔が真っ赤になったマックイーンがポカポカと叩いてきた。本気ではない事は全然痛みを感じない事からもわかるが……指摘はしないでおこう。
いつもの森を越えて普段は来ることのない峠まで足を延ばす。
「良い眺めですわね。あ、道が下の方にくねくねと通っていますわ。あ、あんなところに大型トラックが。珍しいですわね」
「あ、ホントだ。中型は時々見るけど、あんな大型トラックはここら辺では見ないなぁ」
「もう少し先に行きましょう」
尾根沿いに進むと、林道の路肩が少し崩れているところに出くわした。
「あら、ここは」
「う~ん、前の雨で地盤が悪くなってるみたいだね。少し崩れているみたいだ」
「此処の下って国道でしたわよね?」
「そうだね。ずっと下だから石とか落ちてはいないと思うけどね。トラック通っていたし」
森を抜け温泉郷を囲むように聳える山の一つの頂上に登る。
郷を一望する草原で昼食を摂る。
「どうぞ。召し上がれ。彰がリクエストしたひじきバーグのれんこんはさみ揚げもありますわよ」
ポケットサンド、フルーツサンド、クロックムッシュ、新蓮根のはさみ揚げ、さばサンド、ホットカレーサンドと挟むものが多かったが、僕がリクエストしたひじきバーグのれんこんはさみ揚げやレバーのアヒージョ、卵焼きボール、小松菜のおひたし、チキンウインナー、手羽中唐揚げ、ちくわの穴にきゅうりをさしこんだちくきゅうといったおかずも増えマックイーンの料理の腕も着実に上がっているようだ。
「飲み物は……これぇ!?」
マックイーンが持ってきた飲み物は、【テイオー様監修:秘伝の至高にして究極の濃厚特製ハチミー:固め濃いめハチミツマシマシ】と書かれたラベルが貼ってあったものだった。
あれを飲むのか……。
「他に何かない?」
「ごめんなさい。これしか持ってきていませんわ」
その言葉に覚悟を決めて一口飲んだが……。
あの時はくどく粘りつくような甘さを感じたハチミーが、今は随分と美味しく感じられる。
「あれ? 意外にいける……?」
そんな僕のつぶやきに、我が意を得たりとばかりにマックイーンが
「そうですわよね。この甘味が疲れた身体には甘露ですわよね」
手を打ち顔中に笑みを張り付けた。
「ふぅ~。食べた食べた」
「お粗末さまでした」
昼食を食べ終え後片付けしてから、草原にのんびり寝転がってマックイーンと色々な話をした。
前にもいろいろと話をしたけど、今日は学園での生活がメインだった。授業の事、寮で何の前触れもなく崩壊する壁、爆発する化学準備室、学生食堂を巡る攻防、パーマーさんが転科を考えていたのを翻意させたこと、理事長秘書と生徒会役員とトレーナーの複雑な恋愛話、他校との交流戦、12haに及ぶ広大な畑。
「マックイーン?」
色々と話しているうちに、マックイーンはいつの間にか眠ってしまったらしい。
体を起こして、マックイーンを覗いてみる。
閉じられた瞼。長い睫毛に美しい影を作りながら安らかに眠っているその姿。
「マックイーン。僕は君に話しておかなくちゃいけないことがあるんだ」
マックイーンはピクリとも動かない。
「マックイーン。僕の――」
* * * * *
「ふぁ~。あら。いつのまにか寝てしまっていたのですね。彰、お早うございます」
猫のように身体を伸ばして、手の甲で目をこすり、ブルブルッと顔を横に振るマックイーン。
「お早う……いや、もうそろそろ下りないと真っ暗の中森をさまようことになっちゃうよ?」
「あら? もうそんな時間……? あ、彰。私が寝ている間に不埒なことをしませんでしたわよね?」
「するわけないだろ? そういう行為はお互い意識がはっきりしている時にするもんだよ」
そんな与太話をしながら急いで二人で下山準備をする。
帰りはかなり慌ただしかったが夕陽を背に受けて森を抜けると何とか暗くなる前に病院に戻れた。
……高原で僕が話したことに、あの時寝ていたマックイーンが気がついた様子はなかった。