小鳥の囀りで目が覚めた。
昨日、マックイーンと約束をした後、森を散策するうちに変な所に迷い込み一日を潰してしまった。ちょっと開けた森の広場とか面白い場所や綺麗な泉なんかも見つけたから無駄に過ごしてはいないと思う、うん。
今日から再び忙しい日々が続くのだろう。
気合いを入れ直し温泉に行くと早速患者の整理作業が待っていた。
治療を行なう際の書類を確認しそれぞれの部屋に誘導する。
列が無くなる頃には既に日も中空で休憩時間になっていた。
病棟の隣にある庭園の木陰で一息ついていると見覚えのある髪が近付いてくるのが見えた。
マックイーンだ……。
「彰さん。来ましたわよ」
相変わらずその声は威勢が良い。
「……本当に来たんだ」
「もちろん。約束ですわよね?」
眩しい笑顔。
「はい、これ。差し入れです」
そう言うと持っていた水筒を手渡してくる。
「冷たいうちに飲んでくださいね」
自分も持っている水筒を開ける。
「いただきますって……あれ? 料理は?」
その言葉に、ばつが悪そうにマックイーンが頬を染め、耳がへにゃっとなってくる。
「起きたら、もう時間がありませんでしたわ。きっと時間泥棒に盗まれたのですわ」
そういうマックイーンをじとーッと見つめていると
「寝坊しました。ごめんなさい」
手を合わせ大げさな動作で謝るマックイーン。
「いいよ、別に。この暑さであまり食欲もないから飲み物の方が良かったよ。ありがとう」
「そう? 良かった。……冷たいうちに飲んでくださいね」
「うん……いただきます」
二人の声が唱和する。
「ぐぼぉ」
一口含んだら咽た。
「マ、マックイーン! なにこれ!? 濃縮はちみつ??」
「あら? テイオー、私の親友ですけど、彼女が大好きで時々作るハチミーですわ。とても美味しいのでレシピを教わってその通りに作りましたのよ? こちらですわ。ほら【テイオー特製ハチミー:固め濃いめハチミツマシマシ】って書いてありますでしょ?」
「……差し入れして貰ってなんだけど、今度からお茶で良いから、ね」
「あら。それでは最高級の紅茶を準備しますわね」
軽口をたたき、水筒の中身を空けながら、メジロマックイーンが辺りを見回す。
「彰、ここで働いているんですね……」
「うん。いろいろやっているよ」
木陰に入り、水筒の中身を勢いよく飲み干すマックイーン。
あっという間に空になった水筒を逆さに振る様子を見ると、差し入れと言っておきながら自分も相当喉が渇いていたに違いない。それにしてもよくあんなのを飲める。さすが中央で活躍するウマ娘だと感心してしまった。
他愛もない会話で盛り上がっていた所に院長が近付いてきた。
「あっ」
声を上げたメジロマックイーンが持ってきた物を掴み、慌てて隣の木陰に隠れる。
「そこ! 休憩時間はもう終わりだぞ」
院長のその言葉で思ったより時間を過ごしていた事に気が付いた。
慌てて立ち上がり、ふと隣を振り返ると彼女の姿がなかった。
何時の間にか温泉近くに移動している。
「それでは私はこれで失礼しますわ。今日は料理持って来れなくてごめんなさい」
遠くから口元に手を添えて僕に声をかけつつ慌しく立ち去る彼女を見送る。
格好悪い所ばかりを見せてしまったような気がする。
今度会う時はもう少し良い所を見せようという気持ちが起こった。それが功を奏したのだろう。午後からの仕事では随分身が入っていたらしく、先輩からお褒めの言葉を貰う事が出来た。
一日の日課も終わり部屋に戻ってから、ふと考える。
メジロマックイーンと出会ってから、トレーナー受験の勉強にもスポーツ医療の仕事にも身が入るようになった。
そのせいか、あの『ヌシ』ともようやくまともな話が出来るようになって来た。
彼女の事を考えると自然と力が抜ける。
今宵も心地よい眠りに身を委ねられそうだった。