木々が鬱蒼と茂る森。
天使の梯子が架けられた、その下を奥へ進む。奥に進むに連れ光の密度が増す。
頭上を見上げると静寂の中に、森独特の光と影のコントラストが時折瞬いた。
その森の中にある広場。そこにマックイーンが練習している筈……。
「あれ?」
マックイーンの姿は其処になかった。
周囲を見回しても見当たらない。
……昨日より早い時間だから、まだ来ていないのかな?
視界の奥に、澄んだ水を満々と湛える泉が輝いていた。
その泉に視線を向ける。
揺らぐ水面。
波紋を辿って行くと、その中心に一人のウマ娘がいた。
泉の奥まった所に全裸となって、禊でもしているかのような姿が見える。
マックイーン……?
低い潅木が生い茂る方から泉の辺に近付いてみる。
陽の光を照り返す水面に雪のような白い肢体が天に捧げるかの様に独り水面に舞っていた。
マックイーン……。
人の目は周囲になく、彼女は伸び伸びと水を浴びていた。
人目がないからって……警戒心がないのもなぁ……。
見ているほうが恥ずかしさを覚え、立ち去ろうとした瞬間、足元の小枝を踏み抜いた。
乾いた音が森に木霊する。
「だ、誰?」
慌てて水面に沈むマックイーン。
此方を睨みつけつつ、着替えが置いてある反対側の岸に少しづつ動いている。
……これは、素直に出るしかないかな。
「やぁ……」
片手で胸元を隠し此方を睨むマックイーンに、手を上げ挨拶する。
「……」
呆けたように此方を見つめるマックイーン。
次の瞬間、悲鳴が辺りに響いた。
「……本当にごめん!」
平謝りに謝る僕をマックイーンが無言で睨みつける。
「覗くつもりはなかったんだ。ただ、つい見とれて……」
「……そのまま覗いていたわけね」
冷たい声。なまじ可愛いだけに、こうなると非常に怖い。
冷たい静寂が辺りを支配する。
「……二人に話そうかな。あなたに覗かれた事。後、おばあさまにも」
冷や汗が背中を伝わる。
あの二人に伝わったら最後、どんな噂をばら撒かれる事になるやら判らない。
おまけにそれだけでは済まない。メジロ家の御当主の耳に入ったら社会的にも抹殺される。……いや、社会的ならいいが絶対に物理的に抹殺される。考えただけで寒気がする。
「そ、それだけは……」
冷たい視線が僕を射る。
「嫌……?」
無言のまま激しく首を振る。
「命があるかわからないと……」
無言で肯定する。
「……考えないでもないわ。あなたが言う事を聞いてくれたら」
……恐ろしい想像が脳裏を横切る。
「……どんな事?」
唾を飲み込み、宣告を待つ。
「そうね……。あなたが私の特訓に付き合う事」
予想外のものだった。……正直言って気が抜けた。
「そんなことなら」
お安い御用。と言いかけた僕の耳にマックイーンの言葉が響く。
「毎日ね。当然、あなたの研修が終わってからよ? これを理由にさぼらせないわ。それと、特訓はレースとライブの両方ね? ライブの練習時はライブ用の衣装も着てもらうし後で確認するから映像も残すわね。レースはあなたトレーナー資格持っているからスタートダッシュに付き合ってもらうわ。サトノ家のダイヤちゃんにお願いしようかとも思ってたけどいい下僕が見つかってよかったわ」
……命がなくなるよりはマシか。
さっさと帰り支度を始めるマックイーン。
「明日から付き合ってもらうから覚悟してね」
凄絶な笑みを浮かべ立ち去る彼女。
研修に加えて、マックイーンの相手を毎日……。
自分の馬鹿さ加減に思いっきり後悔した。
仕事を終え、自分の部屋で寝台に横になっても昼間見た光景が鮮明に思い出される。
水を浴びて輝く雪のような白い肢体。天に捧げるかの様な動きで水面に舞うマックイーン。
……彼女の裸身が脳裏をちらつき、今宵は心地よい眠りに身を委ねられそうにはなかった。
マックちゃんの状態
お目目グルグル
芦毛が赤兎
前話でマルゼンスキーが何か言いたそうだったのは、マックが水浴びしている可能性があった為。二人とも泉で水浴びしている事は聞いて知っていました。